
就業規則の作成義務(常時10人以上)と届出の流れ|ひとり労務ガイド
「人が増えてきたけれど、うちも就業規則って作らないといけないんだろうか」。 採用が続いて従業員が10人近くになってきたころ、ふとそんな不安がよぎることがありますよね。これまでは社長の判断と口頭のルールで回ってきたけれど、人が増えると「休みの取り方」「残業の扱い」「辞めるときの手続き」など、その都度の判断では追いつかなくなってきます。とはいえ、就業規則と聞くと「分厚くて難しそう」「何をどう書けばいいのか見当もつかない」と、つい後回しになりがちな仕事でもあります。
まずお伝えしたいのは、就業規則づくりは「作る → 意見を聴く → 届け出る → 周知する」という4つのステップに分けられる、ということです。一気に完璧なものを目指さなくて大丈夫です。まずは自社が作成義務に当たるかを確かめ、必ず書くべき項目(絶対的記載事項)から固めていけば、順番に形になっていきます。 この記事では、「常時10人以上」という作成義務の数え方から、4つのステップ、必ず書く項目、届出先と周知の方法まで、ひとり労務の目線で一緒に整理していきます。
結論:就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。手順は4つです。①就業規則を作成する(必ず書く絶対的記載事項を押さえる)、②労働者の過半数代表者(または過半数労働組合)の意見を聴き、意見書をもらう(第90条)、③就業規則と意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出る、④全従業員に周知する(第106条)。人数は事業場(店舗・事業所)ごとに数え、パート・アルバイトも含めます。変更したときも同じ4ステップが必要です。10人未満なら義務はありませんが、トラブル予防のために作っておくと安心です。迷ったら「作る → 聴く → 届ける → 知らせる」の順で進めれば大丈夫です。
進め方は、次の順番だと迷いにくくなります。
- まず「自社が作成義務に当たるか」を事業場ごとの人数で確認する(入口)
- 絶対的記載事項を中心に、就業規則の内容を作成する
- 過半数代表者の選び方を確認し、意見を聴いて意見書をもらう
- 就業規則・意見書・届出書を所轄の労働基準監督署へ届け出る
- 全従業員へ周知し、いつでも見られる状態にする
何が起きているか:人が増えると「共通のルール」が必要になる
就業規則は、その会社で働くうえでの「給料・労働時間・休み・辞めるときの手続き」などをまとめた、いわば社内の共通ルールブックです。人が少ないうちは、社長やあなたの頭の中にあるルールで十分回っていたかもしれません。けれど人が増えると、「あの人にはこう言ったけれど、この人には伝えていなかった」というずれが生まれやすくなります。
法律(労働基準法第89条)は、この「ルールの共有」が特に必要になる規模として、常時10人以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成と届出を義務づけています。逆にいえば、就業規則は「会社を縛るもの」ではなく、会社と従業員の双方が同じルールを確認できるようにするための仕組みです。
- いつ必要になるか:常時使用する労働者が10人以上になったとき
- どの単位で見るか:会社全体ではなく、事業場(本社・支店・店舗など)ごと
- 誰が関わるか:会社が作成し、労働者の過半数代表者が意見を述べ、所轄労働基準監督署へ届け出る
- 何のためか:労働条件を明確にし、無用なトラブルを防ぎ、従業員が安心して働けるようにするため
つまり就業規則は、「人が増えても、誰に対しても同じ基準で公平に運営する」ための土台です。だからこそ、義務に当たる前から少しずつ準備しておくと、いざというときに慌てずにすみます。
「常時10人以上」の数え方:迷いやすい3つのポイント

作成義務の入口は「常時10人以上か」です。ここはシンプルなようで、数え方を間違えやすいところなので、3つのポイントに分けて整理します。
ポイント1:数えるのは「事業場」ごと
10人以上かどうかは、会社全体ではなく、働く場所(事業場)ごとに数えます。事業場とは、本社・支店・営業所・店舗・工場など、場所的にまとまった単位のことです。
- 会社全体で15人でも、本社8人・支店7人のように各事業場が10人未満なら、法律上の作成義務は生じません。
- 逆に、一つの店舗だけで10人以上いれば、その店舗について作成義務が生じます。
ポイント2:パート・アルバイトも「労働者」に含める
「10人」は正社員だけではありません。パート・アルバイト・契約社員など、雇用しているすべての労働者を含めて数えます。正社員5人+パート6人なら、合計11人で作成義務の対象です。
一方で、自社で雇っていない人は数えません。
- 派遣社員…雇用しているのは派遣元なので、受け入れている会社(派遣先)の人数には含めません。
- 業務委託・請負の個人事業主…労働者ではないため含めません。
ポイント3:「常時」の意味は「いつもだいたい10人以上」
「常時」とは、繁忙期だけ一時的に10人になる、という意味ではありません。ふだんから継続して10人以上いる状態を指します。たとえば、通常は8人で、年末の数日だけ応援で12人になる、というような一時的な増加は「常時10人以上」には当たりません。逆に、ふだん10人いて、たまたま1人休職で9人になっている、というときは「常時10人以上」のままと考えます。
| 数える | 数えない |
|---|---|
| 正社員 | 派遣社員(派遣元で数える) |
| パート・アルバイト | 業務委託・請負の個人事業主 |
| 契約社員・嘱託 | 役員(労働者でない場合) |
| 休職中の従業員(在籍している) | 一時的な繁忙期だけの応援人員 |
注意したいのは、「会社全体ではまだ10人未満だから関係ない」と思っていても、一つの事業場が10人に達した瞬間に義務が生じる点です。採用で人が増えてきたら、会社全体ではなく事業場ごとの人数を時々確認しておくと、「気づいたら義務に当たっていた」を防げます。
ステップ①:就業規則を作成する(必ず書く項目から)
義務に当たることが分かったら、まずは内容を作ります。ゼロから書く必要はありません。厚生労働省がモデル就業規則を公開しているので、それを土台に自社の実態に合わせて直していくのが現実的です。
就業規則に書く項目は、大きく3種類に分かれます。
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項 | 必ず書かなければならない | 始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職 |
| 相対的記載事項 | 定めを置くなら書く(制度があるとき) | 退職金、賞与、表彰・制裁、安全衛生 |
| 任意的記載事項 | 書いても書かなくてもよい | 経営理念、服務心得など |
このうち、まず固めたいのが絶対的記載事項です。最低限ここがそろっていないと、就業規則として成り立ちません。具体的には次の3分野です。
- 労働時間関係:始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、(交替制なら)就業時転換に関する事項
- 賃金関係:賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期、昇給に関する事項
- 退職関係:退職に関する事項(解雇の事由を含む)
「退職金や賞与」は、制度として設けているなら書く必要のある相対的記載事項です。つまり「うちは退職金がある」なら書く、「ない」なら書かなくてよい、という位置づけです。まずは絶対的記載事項を中心に骨組みを作り、自社にある制度を相対的記載事項として足していく——この順番だと迷いにくくなります。
なお、賃金や残業の扱いを書くときは、割増率など労働基準法の最低基準を下回らないことが前提になります。残業代の考え方は「残業代の割増率(時間外・休日・深夜)の計算方法」、時間外労働をさせる場合に必要な労使協定は「36協定の書き方と労働基準監督署への届出」で別に整理しているので、あわせて確認すると整合が取りやすくなります。
ステップ②:過半数代表者の意見を聴く(意見書をもらう)

就業規則ができたら、いきなり届け出るのではなく、その前に労働者の意見を聴くステップがあります(労働基準法第90条)。意見を聴く相手は、次のどちらかです。
- 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合
- そうした労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)
中小企業では労働組合がないことが多いので、過半数代表者を選んでもらうケースが一般的です。ここで大切なのが、過半数代表者の選び方です。
- 選び方:投票・挙手・話し合いなど、民主的な方法で労働者が選ぶこと。会社が一方的に指名してはいけません。
- 対象:過半数の「分母」には、パート・アルバイトを含む全労働者を入れて数えます。
- なれない人:労働基準法上の管理監督者は過半数代表者になれません。
そして、ここがいちばん誤解しやすいポイントです。第90条で求められているのは「意見を聴くこと」であって、「同意を得ること」ではありません。たとえ過半数代表者が反対の意見だったとしても、その意見を記した意見書を添えれば、就業規則の届出自体はできます。もちろん、反対意見が出たなら内容を見直す余地はありますが、「全員の賛成がないと届け出られない」わけではない、という点は押さえておくと安心です。
意見書には、過半数代表者の署名(記名押印)と、就業規則に対する意見を記載してもらいます。「特に異議はありません」という内容でも構いません。
ステップ③:所轄の労働基準監督署へ届け出る
意見書がそろったら、就業規則を所轄の労働基準監督署へ届け出ます。届出に必要なものは、原則として次の3点です。
- 就業規則(届出する就業規則そのもの)
- 就業規則(変更)届(届出書の表紙にあたるもの)
- 意見書(過半数代表者の意見を記したもの)
提出のポイントを整理します。
- 提出先:会社の住所ではなく、その事業場を管轄する労働基準監督署です。事業場が複数あれば、それぞれの所轄署が窓口になります。
- 部数:通常は正本・控えの2部を用意し、控えに受付印をもらって会社で保管します。
- 提出方法:窓口持参・郵送のほか、電子申請(e-Gov)も利用できます。郵送の場合は、控えの返送用に切手を貼った返信用封筒を同封します。
- 本社一括届出:就業規則の内容が同一であるなど一定の要件を満たせば、複数事業場の就業規則を本社の所轄署にまとめて届け出る「本社一括届出」も使えます。
届出は「いつまでに」という細かな日付の締切が条文で決まっているわけではありませんが、作成・変更したら遅滞なく届け出るのが原則です。新しい就業規則を運用し始める前に、届出と次の周知をセットで進めておくと、「運用は始めたのに届出が漏れていた」という行き違いを防げます。
ステップ④:従業員へ周知する(ここまでで完成)
意外と忘れやすいのが、最後の周知です(労働基準法第106条)。就業規則は、作って届け出ただけでは役割を果たしません。従業員がいつでも内容を確認できる状態にして、初めて実際に効力を持つと考えられています。届け出てあっても、誰も見られない場所にしまい込んでいては「周知した」ことになりません。
周知の方法は、次のいずれかであれば構いません。
- 各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける
- 従業員に書面を交付する
- 社内のパソコンやサーバー、共有フォルダなど、従業員がいつでも閲覧できる電子データとして保存し、見られるようにしておく
大切なのは、「金庫にしまう」のではなく「いつでも、誰でも見られる」状態にすることです。新しく入社した人にも、入社時に就業規則の場所を案内すると、入社手続きとセットで周知が回りやすくなります(入社時の書類は「入社手続きの必要書類と提出を集める順番」で整理しています)。
ここまでの「作成 → 意見聴取 → 届出 → 周知」の4つがそろって、就業規則は一通り完成です。そして大事なのは、就業規則を変更したときも、この4ステップがそのまま必要になるという点です。一度作って終わりではなく、法改正や制度変更のたびに同じ流れをたどる、と覚えておくと見通しが立ちます。
具体例:従業員が10人になった会社の進め方
ここまでを、一つの会社の流れで通してみます。飲食店を1店舗運営していて、正社員4人・パート6人になったケースです。
前提
- 1つの店舗(事業場)で、正社員4人+パート6人=合計10人
- これまで就業規則はなく、労働組合もない
手順1:作成義務に当たるか(入口) パートも含めて常時10人なので、この店舗は作成義務の対象。会社全体ではなく、この事業場で10人に達した時点で義務が生じる。
手順2:就業規則を作成する 厚生労働省のモデル就業規則を土台に、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職などの絶対的記載事項を自社の実態に合わせて記載。退職金制度はないので、退職金の規定は置かない(相対的記載事項なので任意)。
手順3:過半数代表者の意見を聴く 労働組合がないので、10人の中から民主的な方法で過半数代表者を1人選んでもらう(店長は管理監督者に当たる可能性があるため、代表者にはしない方向で確認)。代表者から「特に異議なし」の意見書をもらう。
手順4:届け出る 就業規則・就業規則届・意見書の3点を、店舗を管轄する労働基準監督署へ2部提出。1部は受付印をもらって保管。
手順5:周知する 事務所の休憩スペースに就業規則を備え付け、全員に「ここにあります」と案内。共有フォルダにもPDFを置き、いつでも見られるようにする。
結果 これで作成義務を満たした状態に。以後、賃金や休暇の制度を変えたときは、同じ4ステップ(作成=変更 → 意見聴取 → 届出 → 周知)を繰り返す。
このように、「人数の確認 → 作成 → 意見 → 届出 → 周知」の順に進めれば、何から手をつければいいかが見えてきます。
10人未満でも作っておくと安心な理由
「うちはまだ9人だから関係ない」——確かに、常時10人未満なら法律上の作成・届出義務はありません。ただ、義務がないことと「作らないほうがよい」ことは別です。10人未満でも、就業規則を作っておくと次のような場面で助けられます。
- 判断のぶれを防げる:休みの取り方や残業の扱いなど、「人によって対応が違う」状態を避けられる。
- トラブルの予防になる:退職や懲戒など、もめやすい場面のルールをあらかじめ決めておける。
- 助成金の要件になることがある:一部の助成金では、就業規則の整備や特定の規定の存在が要件になっていることがある。
- 10人になったときに慌てない:採用が進んで10人に達したとき、すでに土台があればスムーズに義務を満たせる。
もちろん、10人未満で任意に作った場合でも、内容を労働者に周知しておくことは、実際に運用するうえで欠かせません。義務の有無にかかわらず、「みんなが見られる共通のルール」を持っておくこと自体に意味がある、と考えるとよいと思います。
影響:手順の抜けは「効力」と「信頼」に響く
就業規則づくりは、4つのステップのどれかが抜けると、後から困ることがあります。
- 作成義務に気づかず未整備のまま → 事業場が10人以上なのに就業規則がない状態が続き、労使トラブル時に基準が示せない。
- 意見聴取をとばして届け出る → 意見書が添付できず、届出が受理されない。
- 届け出たが周知していない → いざというときに「従業員が見られなかった」として、規定どおりの運用が認められにくくなる。
- 変更したのに届出・周知をしていない → 古い就業規則のままになり、実際の運用とずれが生じる。
どれも、後から気づくと「作り直し」や「説明のやり直し」が必要になります。逆にいえば、「作る → 聴く → 届ける → 知らせる」の4つを一続きの作業として進める習慣さえつけば、大きな抜けはほとんど防げます。ここはスピードよりも、4ステップを一つずつ確実にたどることを優先したいところです。
明日やること(まずはここだけ)
完璧な就業規則をいきなり目指さなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。
- 事業場ごとの人数を数える:本社・支店・店舗ごとに、パート・アルバイトも含めて「常時何人か」を確認する。
- モデル就業規則を入手する:厚生労働省のモデル就業規則をダウンロードし、自社に当てはめられそうか、ざっと目を通す。
- 絶対的記載事項だけ書き出す:始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職——この骨組みだけ、自社の実態をメモしてみる。
この3つをやっておくだけで、「何から手をつければいいか分からない」状態から、「まず骨組みを作ればいい」という見通しに変わります。
チェックリスト(コピーして使えます)
就業規則の作成・届出・周知の抜けを防ぐための確認項目です。
- 事業場ごとに、常時10人以上いるかを数えたか
- パート・アルバイトを人数に含めて数えたか(派遣社員は含めない)
- 絶対的記載事項(労働時間・賃金・退職)をすべて記載したか
- 退職金・賞与など、自社にある制度を相対的記載事項として書いたか
- 賃金・残業の定めが労働基準法の最低基準を下回っていないか
- 過半数代表者を、会社の指名でなく民主的な方法で選んでもらったか
- 過半数代表者から意見書(署名入り)をもらったか
- 就業規則・届出書・意見書を所轄の労働基準監督署へ届け出たか
- 控えに受付印をもらって保管したか
- 全従業員がいつでも見られる形で周知したか
- 変更したときも、同じ4ステップ(作成・意見・届出・周知)を行ったか
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就業規則は、一度で完璧なものを作ろうとしなくて大丈夫です。 今日、「事業場ごとに10人以上かを数える」「作る・聴く・届ける・知らせるの4ステップで進む」という二つの軸が整理できたなら、もう大きな一歩を踏み出しています。最初は絶対的記載事項の骨組みだけでも構いません。少しずつ自社の実態に合わせて育てていけば、就業規則はあなたと従業員の双方を守る、頼れるルールブックになっていきます。一つずつ、落ち着いて進めていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。就業規則の取扱いは、個別の事情や法改正によって変わります。記載事項の要件や届出・周知の方法、過半数代表者の選任など最新の取扱いは、厚生労働省・所轄の労働基準監督署の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。