事務所の机で入社した人と退職する人の給与台帳、カレンダー、電卓を並べ、日割りの給与と社会保険料の扱いを落ち着いて確認している中小企業のひとり労務担当者

入社・退職月の給与と社会保険料|日割りの考え方をやさしく整理

「今月入社した人の給料、日割りで15日分だけ払ったのに、社会保険料は丸々1か月分引くの?」。 給与計算をしていて、ふと手が止まる瞬間ですよね。逆に退職者のときは「月末で辞めた人は保険料がかかって、その前日に辞めた人はかからない——1日違うだけでどうしてこんなに変わるの」と、電卓を持ったまま首をかしげてしまう。本人から「入社した月なのに、なんでこんなに引かれてるんですか?」と聞かれると、うまく説明できずに焦る……。ひとり労務なら、一度は通る戸惑いだと思います。

からくりは、じつはシンプルです。給与は「日割り」でも、社会保険料は「月単位」という、別々の考え方で動いているだけなのです。この2つを分けて理解すると、入社月・退職月の計算はぐっと迷いにくくなります。この記事では、その考え方と早見表を、あわてず一つずつ確認していきましょう。

結論:入社・退職した月の計算は、給与と社会保険料を別々のものさしで見ると整理できます。①給与は、月の途中の入社・退職なら日割りにするのが一般的ですが、日割りの計算方法(暦日で割るか、所定労働日数で割るか等)は就業規則の定めによります(法律で決まった式はありません)。②社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)は日割りしません資格を取得した日の属する月から、資格を喪失した日(=退職日の翌日)の属する月の前月まで、月単位でかかります。だから入社日が月末でもその月は1か月分、退職も月末退職なら退職月の保険料がかかり、月途中退職ならかかりません。まずは「給与=日割り」「社会保険料=月単位」という2本立てを押さえるところから始めれば大丈夫です。

進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。

  1. その人が入社月か退職月かを確認する(両方=同じ月に入社してすぐ退職、なら「同月得喪」として別扱い)
  2. 給与を、就業規則の日割りルールに沿って計算する
  3. 社会保険料を、資格取得月・喪失月のルール(月単位)で判定する

何が起きているか:給与は「日割り」、社会保険料は「月単位」

給与は日割り、社会保険料は月単位という2つの異なる考え方を左右に並べて対比した概念図
給与と社会保険料は別々のものさし。ここを分けると迷いにくい

戸惑いの正体は、給与と社会保険料が違うルールで動いていることにあります。ここを分けて見れば、頭の中がすっきりします。

給与は、働いた分に対して支払うもの。月の途中で入社・退職した人には、在籍していた分だけを日割りで支払うのが一般的です。ただし「日割りをどう計算するか」は、じつは労働基準法などに決まった式があるわけではなく、会社の就業規則(賃金規程)の定めによります。よく使われるのは、次のような方法です。

どの方法を採るかで金額が変わるので、まずは自社の賃金規程を確認するのが第一歩です。規程にはっきり書かれていない場合は、この機会に決めて明文化しておくと、次からの計算に迷わなくなります。

いっぽう社会保険料は、働いた日数とは切り離して、「その月に被保険者だったかどうか」で月単位に決まります。具体的には、次のルールです。

つまり社会保険料は、1日だけ在籍した月でも「その月分」としてまるごとかかったり、逆に月末の1日違いでまるごとかからなくなったり、という動きをします。日割り計算はしません。ここが、給与の感覚とズレて見える最大のポイントです。

具体例:入社月と退職月で、どう変わる?

月末退職と月途中退職で退職月の社会保険料がかかるかどうかが変わることを、退職日の翌日が資格喪失日になる考え方で示した図
資格喪失日は「退職日の翌日」。月末退職か否かで退職月の保険料が変わる

数字で見ると、イメージがつかみやすくなります。ここでは月給30万円・7月(31日)の人を例にします(日割りは暦日ベースとします。実際の方法は就業規則によります)。

入社月の例:7月16日入社の場合

その結果、「日割りで少なくなった給与」から「1か月分の社会保険料」が引かれ、手取りがぐっと少なく感じられます。本人が驚きやすいのはここです。「入社した月は、日割りのお給料から1か月分の社会保険料が引かれるので、手取りが少なめになります」と、あらかじめ一言そえておくと安心してもらえます。

退職月の例:退職日の翌日が「資格喪失日」

社会保険の資格喪失日は、退職日の翌日です。そして保険料は「喪失日の属する月の前月まで」かかります。ここに1日の差が出ます。

退職日資格喪失日退職月(7月)の社会保険料
7月31日(月末退職)8月1日かかる(7月分まで負担)
7月30日7月31日かからない(6月分まで負担)
7月20日(月途中退職)7月21日かからない(6月分まで負担)

同じ7月に辞めても、月末退職なら退職月の保険料が1か月分かかり、その前日以前に辞めるとかからない——「たった1日で保険料が変わる」のは、このしくみのためです。退職日をいつにするかで手取りが変わるので、本人と相談して日を決めるときの参考になります。資格喪失届そのものの書き方や提出期限は「資格喪失届の提出期限と退職日の関係」で、資格取得届は「資格取得届の書き方と提出期限」でくわしく確認できます。

影響:控除のタイミングと「同月得喪」に注意

退職月の給与でつまずきやすいのが「保険料をいつの給与から控除しているか」です。会社によって、次の2つのやり方があります。

翌月控除の会社で月末退職の人が出ると、最終給与から2か月分(前月分+退職月分)をまとめて控除することがあります。これは間違いではなく、これまで「翌月に後ろ倒し」で控除してきた最後の1か月分を、退職で精算するためです。本人には「最後のお給料でいつもより多めに引かれるのは、○月分と○月分の2か月分をまとめて精算するためです」と説明できると、トラブルになりません。自社が翌月控除か当月控除かは、給与計算の設計に関わる大事な前提なので、一度確認しておきましょう。社会保険料そのものの求め方は「社会保険料・雇用保険料の控除額の求め方」もあわせてどうぞ。

同月得喪(どうげつとくそう)にも触れておきます。これは、同じ月に入社(資格取得)してその月のうちに退職(資格喪失)した、というレアなケースです。この場合、健康保険料・介護保険料はその月分がかかります。厚生年金保険料も原則その月分がかかりますが、その人が同じ月内に別の会社の厚生年金や国民年金に加入した場合などは、あとから厚生年金保険料が還付される取扱いがあります。判定が細かいので、同月得喪が出たときは、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)と年金事務所に確認するのが確実です。

なお、雇用保険料は社会保険料と違い、実際に支払った賃金に料率を掛けて求めます。日割りで給与が少なくなれば、雇用保険料もその分少なくなる、という素直な連動です(月単位のしばりはありません)。住民税(特別徴収)は退職の時期によって残額の一括徴収や普通徴収への切替が関わってくるので、「住民税の特別徴収と5月の税額通知」もあわせて確認しておくと、退職月の給与計算が一本の線でつながります。

明日やること(まずはここだけ)

一度に全部を整えようとしなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。

  1. 就業規則(賃金規程)の日割りルールを確認する:入社・退職月の給与を、暦日で割るのか所定労働日数で割るのか、端数はどう処理するかを見ておく。書かれていなければ、この機会に決めてメモにする。
  2. 自社が「翌月控除」か「当月控除」かを確認する:給与ソフトの設定や過去の給与明細で、保険料をいつの給与から引いているかを見ておく。退職月の精算がスムーズになる。
  3. 入社月・退職月の人が出たら、給与と社会保険料を分けて計算する:給与は日割り、社会保険料は「取得月から・喪失月の前月まで」の月単位、と紙に2列で書き出してみる。

この3つだけでも、入社月・退職月の給与計算の骨組みができます。本人への一言(入社月は保険料が満額、退職月は日で変わる・最終給与でまとめ精算がある)も用意しておくと、問い合わせに落ち着いて答えられます。

チェックリスト(コピーして使えます)

入社月・退職月の給与計算でつまずかないための確認項目です。

社会保険料の金額そのものを試算したいときは「社会保険料の計算ツール」も使えます。手続きの期限を見渡したいときは「手続き期限チェッカー」もどうぞ。

よければ、こちらも

入社・退職まわりの手続きは、給与計算と地続きです。給与計算の全体像は「給与計算の基本の流れ|総支給から差引支給まで」で、社会保険料の控除額の求め方は「社会保険料・雇用保険料の控除額の求め方」で確認できます。退職者が出たときの一連の流れは「退職手続きの流れ|離職票・資格喪失・源泉徴収票の段取り」、入社時にそろえる書類は「入社手続きの必要書類と集める順番」が役立ちます。1年の提出物や手続きを見渡したいときは「ひとり労務の年間スケジュール」もどうぞ(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の手続きの段取りに役立ててください。

入社月・退職月の給与と社会保険料の計算の見通しが立ち、落ち着いて前を向いている中小企業のひとり労務担当者

入社・退職月の給与計算がややこしく感じるのは、あなたの理解が足りないからではありません。給与(日割り)と社会保険料(月単位)という、性格の違う2つのルールが同じ月に重なるからです。この2本を分けて見れば、迷いはずいぶん小さくなります。今日、就業規則の日割りルールを確認して、「給与は日割り・保険料は月単位」と紙に書き出しただけでも、次の給与計算はぐっと楽になります。一度に完璧にしようとしなくて大丈夫。ひとつずつ整理していけば、本人からの問い合わせにも、落ち着いて答えられるようになります。


本記事は一般的な実務情報です。給与の日割り計算の方法や、社会保険料・雇用保険料・住民税の取扱いは、就業規則の定め・加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)・個別の事情や法改正によって変わることがあります。具体的な計算や退職日の扱い、同月得喪の判定などは、日本年金機構(年金事務所)・全国健康保険協会・加入している健康保険組合の最新の案内でご確認のうえ、判断に迷う場合は社会保険労務士など専門家にご相談ください。