
給与計算の基本の流れ|総支給から差引支給までを順番に整理
「今月もそろそろ給与計算。……えっと、どこから手をつけるんだっけ」。 毎月のことなのに、勤怠の締め・残業の集計・社会保険料・源泉税と、見るところが多くて、つい順番に迷ってしまいますよね。担当が自分ひとりだと、聞ける相手もいないまま振込期日が近づいてきて、静かに焦る——そんな月末があると思います。
まずお伝えしたいのは、給与計算は「総支給を出す → 控除を引く → 差引支給を出す」という大きな3ステップでできている、ということです。この骨組みさえつかめれば、あとはその中身を一つずつ埋めていくだけ。毎月ゼロから考えるのではなく、同じ順番をなぞるだけで済むようになります。 この記事では、勤怠の締めから振込・納付までの流れを、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。
結論:給与計算は ①勤怠の締め → ②総支給額を計算(基本給+手当+割増賃金)→ ③控除額を計算(社会保険料・雇用保険料・源泉所得税・住民税)→ ④差引支給額(手取り)を確定 → ⑤明細の発行と振込 → ⑥預かった税・保険料の納付 の順。控除は「社会保険料等を引いてから源泉所得税を計算」が基本。税の計算基礎は、課税支給額=総支給−非課税支給、税額表に当てる金額=課税支給額−社会保険料等。財形・社宅費・貸付返済などは税計算前に控除しません。端数処理は、源泉所得税・雇用保険料とも1円未満切捨て(社内で丸め方を統一)。
見るときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- まず勤怠を締めて、労働時間・残業・欠勤などを確定する
- 総支給額(引かれる前の合計)を出す
- そこから控除を引いて、差引支給額(手取り)を出す
- 注記:勤怠締めが週締め・日給などで不規則な場合は、締日・支払日を社内で固定し、締切に間に合わない分は暫定処理→翌月で調整と決めておくと回ります
何が起きているか:給与計算は「足す → 引く」の2段構え
給与計算が複雑に感じるのは、性質の違う「足すもの」と「引くもの」が混ざるから。構造を分けて見るとシンプルです。
- 足すもの(総支給額)…基本給、役職手当、通勤手当、残業代など
- 通勤手当は、所得税では非課税限度内は「非課税支給」。ただし雇用保険・社会保険の対象には含めます(総支給や標準報酬の算定に入る)
- 引くもの(控除額)…健康保険・厚生年金・雇用保険(=社会保険料等)、源泉所得税、住民税、会社で天引きする財形・社宅費など
- 残るもの(差引支給額)…総支給額 − 控除額 = いわゆる手取り
大事な順番は次のとおり。
- 1) 課税支給額 = 総支給 − 非課税支給(例:非課税限度内の通勤手当)
- 2) 税額表に当てる金額 = 課税支給額 − 社会保険料等(健康保険・厚生年金・雇用保険など)
- 3) 上記金額と扶養人数から、税額表(甲欄・乙欄)で源泉所得税を求める
- 4) 住民税は市区町村の通知額をそのまま控除
- メモ:財形・社宅費・貸付返済などは「税計算後」に控除します
具体例:1人ぶんを最後まで通してみる

数字を入れて1人ぶんを通してみましょう(以下は流れを示す仮の数値です。実務は最新の保険料額表・税額表・通知で確認してください)。
【①総支給額を出す】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基本給 | 250,000円 |
| 通勤手当(非課税限度内) | 10,000円 |
| 残業代(割増賃金) | 18,000円 |
| 総支給額(合計) | 278,000円 |
【②控除額を出す(社会保険料 → 税の順)】
| 控除項目 | 金額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 14,000円 | 保険料額表(標準報酬月額) |
| 厚生年金保険料 | 25,000円 | 保険料額表(標準報酬月額) |
| 雇用保険料 | 1,600円 | 総支給額 × 雇用保険料率 |
| 源泉所得税 | 6,000円 | 税額表(甲欄) |
| 住民税 | 12,000円 | 市区町村の特別徴収税額通知 |
計算の道筋(例):
- 課税支給額=278,000 − 10,000(非課税通勤手当)=268,000円
- 税額表に当てる金額=268,000 −(14,000+25,000+1,600)=227,400円
- この金額と扶養人数で税額表を引く(財形・社宅費・貸付返済はここでは差し引かない)
【③差引支給額(手取り)を出す】
差引支給額 = 278,000円(総支給) − 58,600円(控除合計) = 219,400円
ポイントは、雇用保険料は「総支給額 × 料率」で毎月計算し、健康保険・厚生年金は標準報酬月額に基づく保険料額表で決まることです。「毎月は基本的に同じ額」ですが、次の事情で変動することがあります(算定基礎・随時改定、固定的賃金の変更で2等級以上の差、40歳/65歳到達月の介護保険料の開始・終了 など)。
雇用保険料だけは「率」で計算する+年度替わりの更新
残業が多い月は総支給が増えるため、雇用保険料も増えます。年度替わりには次の更新対象をまとめて確認しておくと安心です(最新の公式情報で確認)。
- 雇用保険料率
- 協会けんぽの都道府県料率・健保組合の保険料率
- 住民税の特別徴収税額(毎年6月支給分で新年度額に切替)
賞与月の扱い(押さえどころだけ)
- 健康保険・厚生年金:賞与にも保険料がかかります(標準賞与額、1回150万円が上限)
- 雇用保険:賞与にも雇用保険料がかかります(賞与額 × 料率)
- 源泉所得税:賞与は月例と別の「賞与用」の計算方法で求めます
- 住民税:市区町村の通知どおり(通常は月割の控除)
影響:順番や控除を一つ間違えると、毎月ぶん積み重なる
- 社会保険料を引く前に源泉所得税を計算する → 税額がズレる
- 料率や税額表の更新漏れ → 翌月以降も誤控除が続く
- 住民税を前年の通知のまま放置 → 6月以降の切替が反映されない
- 通勤手当の課税・非課税を取り違える → 課税支給額や雇用保険料がズレる
どれも「順番」と「根拠(どの表・通知を見るか)」を決めておけば防げます。ひとり労務は、自社用の手順メモを1枚持っておくほうがずっと楽に回せます。
- 納付期限の目安:源泉所得税は原則翌月10日(納期の特例は7/10・1/20)、住民税は翌月10日、社会保険料は翌月末。振込計画に必ず反映しておきましょう。
明日やること(まずはここだけ)
無理なく進めるために、明日はこの3つだけ。
- 自社の流れを「勤怠締め → 総支給 → 控除 → 差引 → 明細 → 振込 → 納付」で1枚に書き出す
- 1人ぶんで、課税支給額=総支給−非課税支給、税額表の基礎=課税支給額−社会保険料等、の順になっているか確認する(財形・社宅費は税計算後に控除)
- 今年度の料率・税額表・住民税(6月切替)が最新かをチェックする
- 端数処理ルールも併せて一行で決める(例:源泉税・雇用保険料は1円未満切捨て/社内で統一)
チェックリスト(コピーして使えます)
毎月の給与計算で、抜け漏れを防ぐための確認項目です。
- 勤怠を締め、残業・遅刻早退・欠勤・有休の取得を確定したか(不規則締めは暫定処理の有無を記録)
- 総支給額に基本給・手当・割増賃金をすべて足せているか(通勤手当は非課税限度内を「非課税支給」に仕分け)
- 健康保険・厚生年金を、最新の標準報酬月額・保険料額表で引いているか(算定基礎・随時改定の反映)
- 雇用保険料を「総支給額 × 今年度の料率」で計算しているか
- 扶養控除等申告書の回収状況を確認し、税額表の区分(甲欄/乙欄)が正しいか(入社初月に未回収なら乙欄)
- 社会保険料等を引いた後の金額で、源泉所得税(甲欄・乙欄)を求めているか
- 住民税を、市区町村からの最新の通知額(6月切替)で引いているか
- 差引支給額(手取り)= 総支給額 − 控除合計 になっているか
- 給与明細を発行し、振込・各納付期限(源泉税/住民税/社会保険料)に間に合う段取りになっているか
— 繁忙月でも回る「最低ライン版(優先順)」 — 1) 勤怠締め確定 2) 課税/非課税の仕分けと社会保険料の反映 3) 税額表の区分(甲/乙)・最新表の確認 4) 手取り=総支給−控除の突合 5) 振込・納付期限の目視確認
— できない時の代替 —
- 料率更新が月内に間に合わない:影響額を一覧化し翌月で調整
- 住民税の切替(6月):当月は全員分の新旧突合だけ必須対応とし、中途入社分は翌月対応
— 免除条件(運用簡略化) —
- 納期の特例適用事業所:源泉税の毎月納付チェックを、半期2回(7/10・1/20)のスケジュール管理に置換
- 給与ソフト利用:『税額表/保険料表のバージョン確認』1チェックに集約
よければ、こちらも
総支給に関わる「残業代の割増率」の出し方は、別の記事でくわしく整理しています(残業代の割増率|時間外・休日・深夜の計算をやさしく整理)。控除の前提になる社会保険の「標準報酬月額」を決める算定基礎届とあわせて読むと、毎月の計算の根拠がよりはっきりします(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、毎月の給与計算の段取りづくりに役立ててください。

給与計算は、一度で全部を完璧に覚える必要はありません。 今日、「総支給 → 控除 → 差引」という大きな流れと、控除・税計算の順番が整理できたなら、それだけでもう前に進んでいます。来月のあなたが「落ち着いて回せた」と思えるように、自社用の手順メモを少しずつ育てていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。給与計算・社会保険・税の取扱いは、個別の事情や法改正、料率・税額表の改定によって変わります。最終的な判断は、社会保険労務士・税理士・所轄の年金事務所/税務署など最新の公式情報でご確認ください。