
賞与の源泉徴収税額の求め方|算出率の表の見方をやさしく
「賞与の社会保険料は計算できたけど、所得税はどう出すんだっけ」。 夏の賞与を準備しながら、毎月の給与計算とは勝手が違って手が止まったことはありませんか。賞与の源泉所得税は、毎月の給与で使う「月額表」ではなく、賞与専用の「算出率の表」を使います。年に一度か二度しか出番がないぶん、毎回やり方を思い出すところから始めている方も多いと思います。ひとりで労務を回していると、支給準備だけで手一杯で、税額の計算まで気が回りにくいですよね。
まずお伝えしたいのは、賞与の源泉所得税は「前月の給与」と「扶養親族等の数」から税率を1つ読み取るだけの、決まった型の手続きだということです。順番さえ自分の型にしておけば、次の冬の賞与も落ち着いて進められます。この記事では、算出率の表の見方から、前月に給与がないときなどの例外まで、ひとり労務の目線で一つずつ整理します。
結論:賞与の源泉所得税は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で求めます。手順は、①前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額(前月の社会保険料等控除後の給与等の金額)を出す → ②その人の扶養親族等の数を確認する(扶養控除等申告書を出していれば甲欄、出していなければ乙欄)→ ③表でその金額が該当する行と扶養の数の列が交わる「賞与の金額に乗ずべき率(税率)」を読む → ④(賞与の額 − 賞与から控除する社会保険料等)× その税率=源泉徴収する所得税額、の4ステップです。この税率には復興特別所得税(2.1%)が含まれているので、別に足す必要はありません。まずは「前月の給与(社保控除後)」を用意するところから始めれば大丈夫です。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 前月の給与から社会保険料等を引いた金額(前月の社会保険料等控除後の給与等の金額)を出す
- その人の扶養親族等の数を確認し、甲欄か乙欄かを決める
- 算出率の表で、該当する行×扶養の数の列から税率を読む
- (賞与総額 − 賞与から控除する社会保険料等)× 税率 で所得税額を計算し、控除する
何が起きているか:賞与は「前月の給与」を物差しにして税率を決める

毎月の給与では、その月の給与額そのものを「月額表」にあてはめて税額を出します。ところが賞与は、その賞与額ではなく「前月の給与」を物差しにして税率を決めるところが大きな違いです。
なぜかというと、賞与はまとまった金額を一度に支払うため、その月だけで見ると税率が跳ね上がってしまいます。そこで、普段の給与水準(前月の給与)から想定される税率を賞与にあてはめることで、年間を通して見たときの税負担に近づける、という仕組みになっています。
前月の社会保険料等控除後の給与等の金額とは:賞与を支払う月の前月に支払った給与から、健康保険・厚生年金・雇用保険などの社会保険料を差し引いた金額のことです。手取り額そのものではなく、「税金を引く前・社会保険料を引いたあと」の金額を指します。この金額が、賞与の税率を読むときの入り口になります。
この物差しの違いを押さえておくと、「なぜ前月の給与を見るの?」という最初のつまずきが解けます。次に、実際の表の見方を順番に見ていきましょう。
ステップ①〜②:前月の給与と扶養の数を用意する
まず必要なのは、次の2つの数字です。ここがそろえば、あとは表を読むだけです。
- 前月の社会保険料等控除後の給与等の金額:賞与を払う月の前月に支払った給与から、社会保険料を差し引いた金額。給与台帳や給与明細から拾えます。
- 扶養親族等の数:その人が提出している扶養控除等申告書で申告された、源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族などの数。障害者や寡婦などに当たる場合は、その分を人数に加えて数えます。
ここで一つ分かれ道があります。扶養控除等申告書を提出している人は「甲欄」、提出していない人(他社をメインにしている掛け持ちの人など)は「乙欄」を使います。自社がその人のメインの勤務先なら、通常は申告書を受け取っているはずなので甲欄です。
扶養親族等の数は、毎月の給与計算で使っている数と基本は同じ考え方です。年の途中で結婚・出産・扶養の異動があった場合は、最新の扶養控除等申告書の内容で数えましょう。迷ったら、直近の給与計算で使った数を起点にすると混乱しにくいです。
ステップ③〜④:算出率の表で税率を読み、賞与に掛ける

2つの数字がそろったら、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を開きます。表の見方は、次のとおりです。
- まず甲欄・乙欄のどちらかを選ぶ(扶養控除等申告書の提出の有無で決める)。
- 甲欄なら、扶養親族等の数の列(0人・1人・2人…)を選ぶ。
- その列の中で、前月の社会保険料等控除後の給与等の金額が当てはまる行(「◯円以上〜◯円未満」)を探す。
- 行と列が交わるところにある「賞与の金額に乗ずべき率」(税率)を読み取る。
この税率を、賞与から社会保険料等を差し引いた金額に掛けると、源泉徴収する所得税額が出ます。式にすると次のとおりです。
(賞与総額 − 賞与から控除する社会保険料等)× 税率 = 源泉徴収する所得税額
ここで大切なのは、税率を掛ける相手は「賞与の総額そのもの」ではなく、社会保険料等を引いたあとの金額だという点です。健康保険・厚生年金・雇用保険を先に計算しておき、それを引いた金額に税率を掛けます。順番を「社会保険料が先、所得税があと」と覚えておくと迷いません。
なお、算出率の表の税率には、復興特別所得税(2.1%)があらかじめ含まれています。別に上乗せする必要はありません。
計算例:賞与50万円のとき、所得税はいくら引く?
言葉だけだとイメージしにくいので、具体的な数字で追ってみましょう。次の前提とします。
- 前月の給与(社会保険料控除後):300,000円
- 扶養親族等の数:0人・甲欄(扶養控除等申告書を提出済み)
- 今回の賞与総額:500,000円
- 賞与から控除する社会保険料等(健保・厚年・雇用保険の本人負担分の合計):73,750円
手順に沿って進めます。
- 税率を読む:算出率の表で「扶養0人・甲欄」の列を見て、前月の給与300,000円が当てはまる行の税率を読みます。ここでは仕組み説明のための例として、税率6.126%とします(実際の率は必ずその年の表で確認してください)。
- 課税のもとになる金額:500,000円 − 73,750円 = 426,250円
- 源泉所得税:426,250円 × 6.126% = 26,111円(1円未満切り捨て)
この26,111円が、賞与から差し引く所得税です。「社会保険料を引く → 残りに税率を掛ける」という2段階を分けて考えれば、金額が大きくても落ち着いて計算できます。
上の6.126%はあくまで式の流れを見せるための例です。前月の給与や扶養の数が変われば税率も変わります。実際に賞与を計算するときは、その年の最新の算出率の表で、該当するマスの率を必ず確認してください。
迷いやすいケース:前月に給与がない・賞与が大きすぎるとき

基本の流れは前月の給与を物差しにしますが、次の2つのケースは物差しにできる前月の給与がなかったり、金額のバランスが大きく崩れたりするため、通常とは別の計算方法になります。
- 前月に給与の支払がないとき(入社直後で前月給与がない、産休・育休明けで前月が無給だった等):この場合は、賞与から社会保険料等を引いた金額を賞与の計算期間の月数(通常6か月)で割った金額を、月額表にあてはめて税額を出し、その税額をもとの月数(6倍)して求める、という手順になります。
- 賞与の額(社保控除後)が前月給与(社保控除後)の10倍を超えるとき:この場合も算出率の表ではなく、月額表を使った別の計算になります。
どちらも、賞与の計算期間が6か月を超える場合は「12」で割って「12倍」するなど、細かな取り扱いが決まっています。当てはまりそうな人がいたら、その人だけ国税庁の案内やタックスアンサーで手順を確認すれば十分です。全部を暗記する必要はありません。ふだんはまれなケースなので、「入社したばかりの人・前月が無給だった人・賞与が飛び抜けて大きい人」に印をつけておく、くらいの感覚で大丈夫です。
影響:税率の読み違いが、本人の手取りと年末調整に響く
賞与の源泉所得税を間違えると、次のような形で後にひびきます。どれも大事に見えますが、原因はだいたい「どの数字を使うか」の取り違えです。
- 前月の給与ではなく今回の賞与額で税率を読んでしまう → 税率が高く出て、引きすぎになりやすい
- 社会保険料を引く前の賞与総額に税率を掛けてしまう → 所得税を引きすぎる
- 乙欄の人(申告書なし)に甲欄を使ってしまう → 税額が変わる
- 復興特別所得税を二重に上乗せしてしまう → 表の率にすでに含まれているため引きすぎ
とはいえ、賞与の源泉所得税は年末調整で最終的に精算されます。多少の過不足があっても年末で調整されるので、「一度で完璧に」と気負いすぎなくて大丈夫です。それでも、本人の手取りに直接ひびく部分なので、「前月の給与」「社保控除後」「甲乙の別」の3点だけは、支払い前に確かめておくと安心です。
明日やること(まずはここだけ)
一度に全部を見直そうとしなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。
- 前月の給与(社会保険料控除後)を、対象者ごとに書き出す:まず税率を読む物差しをそろえる。
- その年の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を手元に用意する:国税庁のサイトから最新版を印刷しておくと、毎回探さずに済みます。
- 前月給与がない人・賞与が飛び抜けて大きい人に印をつける:例外計算になりそうな人だけ、あとで手順を確認する。
この3つがそろえば、支払い直前に慌てずに済みます。給与システムを使っている場合も、前月給与と扶養の数が正しく入っているかを見ておくと安心です。
チェックリスト(コピーして使えます)
賞与の源泉所得税を落ち着いて計算するための確認項目です。
- 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使っている(毎月の月額表ではない)
- 税率の物差しは「前月の給与(社会保険料控除後)」を使っている
- 扶養親族等の数を、最新の扶養控除等申告書で確認した
- 扶養控除等申告書の提出の有無で、甲欄・乙欄を正しく選んだ
- 税率を掛ける相手は「賞与総額 − 賞与から控除する社会保険料等」にした
- 復興特別所得税を二重に上乗せしていない(表の率に含まれている)
- 前月に給与がない人・賞与が前月給与の10倍を超える人は、別計算を確認した
- 社会保険料(健保・厚年・雇用保険)を先に計算・控除してから所得税を出した
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賞与の源泉所得税は、賞与の社会保険料や届出と一続きの作業です。社会保険料の計算と提出は「賞与支払届の書き方と社会保険料の計算」に、毎月の給与での源泉所得税(甲欄・乙欄)の考え方は「源泉所得税(甲欄・乙欄)の求め方と税額表の見方」にまとめています。あわせて「給与計算の基本の流れ(総支給→控除→差引支給)」や、年に一度の精算である「年末調整の全体の流れと必要書類」を読むと、毎月・賞与・年末が一本の線でつながって見えてきます。1年の提出物を見渡したいときは「ひとり労務の年間スケジュール」もどうぞ(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、毎月・毎年の段取りづくりに役立ててください。

賞与の源泉所得税は、一度で完璧に覚えようとしなくて大丈夫です。 今日、「前月の給与を物差しにする」「社会保険料を引いたあとに税率を掛ける」という二つの軸が整理できたなら、もう大きな山は越えています。年に一度か二度の手続きだからこそ、今回そろえた表や計算メモが、次のあなたを助けてくれます。すでに社会保険料まで計算して、この記事にたどり着いた時点で、あなたはもう、支給に向けてきちんと前へ進んでいます。一つずつ、落ち着いて進めていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。源泉所得税の計算方法・税率・特例の取扱いは、個別の事情や税制改正によって変わります。賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表や特例計算の詳細は、国税庁の公式情報(源泉徴収税額表・タックスアンサー等)でご確認のうえ、最終的な判断は税理士・所轄の税務署など最新の公式情報でご確認ください。