
欠勤・遅刻早退控除の計算|引きすぎを防ぐ考え方をやさしく整理
「この欠勤、いくら引けばいいんだろう」。 給与計算の締め日、勤怠を見ながらそこで手が止まること、ありますよね。1日休んだ人、30分遅刻した人、午後だけ早退した人。金額を出すには「月給を何で割るか」を決めないといけないのに、就業規則を開いてもはっきり書いていない——そんな会社は、実はとても多いです。
先にお伝えしておくと、この計算でいちばん大事なのは「複雑な式を覚えること」ではありません。引いていいのは、働かなかった時間の分だけ。この一本の線がはっきりすれば、あとは単価を決めて当てはめるだけになります。
この記事では、控除の考え方、1日・1時間あたりの単価の出し方、そして混同しやすい「減給(制裁)」との違いまで、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。
結論:欠勤・遅刻早退の控除は「ノーワーク・ノーペイ(働かなかった分は賃金が発生しない)」が土台です。控除額は「1日(1時間)あたりの単価 × 休んだ日数(時間)」で計算し、その単価と割る数(分母)は就業規則・賃金規程の定めに従います。分母は月ごとの所定日数ではなく、年間所定労働日数(時間)を12で割った月平均で決めておくと、月による金額のブレを防げます。そして、働かなかった分を超えて減らす場合は「減給の制裁」にあたり、労働基準法第91条の上限(1回の額は平均賃金1日分の半額まで/総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1まで)と、就業規則の根拠が必要です。※完全月給制など、欠勤しても控除しない定めの会社もあります。まずは自社の規程を確認してください。
順番としては、次の3つで迷いにくくなります。
- 自社の規程で「控除の対象になる賃金」と「割る数(分母)」を確認する
- 1日あたり・1時間あたりの単価を出す
- 実際に働かなかった日数・時間を当てはめる
何が起きているか:迷うのは「根拠が2種類ある」から
欠勤控除がややこしく感じるのは、計算そのものが難しいからではありません。性質のちがう2つの「引く」が、同じ給与明細の上に並ぶからです。

- 欠勤・遅刻早退の控除:働いていない時間には、そもそも賃金の支払い義務が発生しない、という考え方(ノーワーク・ノーペイ)。ペナルティではなく、賃金の計算そのものです。
- 減給の制裁:就業規則の懲戒として、賃金を減らす処分。こちらは労働基準法第91条の上限があります。
このふたつが混ざると、「遅刻したんだから、その分より少し多めに引いてもいいのでは」という発想が出てきます。気持ちはわかるのですが、そこが分かれ道です。働かなかった分を超えて引いた瞬間、それは制裁としての減給になり、就業規則の根拠と第91条の上限を守る必要が出てきます。
もうひとつ、迷いの原因になりやすいのが分母(何で割るか)です。「その月の所定労働日数で割る」と決めると、日数の少ない2月は1日あたりの単価が高くなり、日数の多い月は安くなります。同じ1日の欠勤なのに、月によって引かれる額が変わる——社員から「なぜ?」と聞かれやすいのは、たいていここです。
具体例:単価を出して、休んだ分をかける
ここからは実際の数字で見ていきます。次の会社を例にします。
- 控除の対象となる月額賃金(基本給+対象手当):250,000円
- 年間所定労働日数:240日 → 月平均所定労働日数:240 ÷ 12 = 20日
- 1日の所定労働時間:7.5時間 → 年間1,800時間 → 月平均所定労働時間:1,800 ÷ 12 = 150時間
1日あたり・1時間あたりの単価
1日あたりの単価 = 250,000円 ÷ 20日 = 12,500円
1時間あたりの単価 = 250,000円 ÷ 150時間 = 約1,666.67円
この2つを出しておけば、あとは当てはめるだけです。
| ケース | 計算 | 控除額 |
|---|---|---|
| 欠勤1日 | 12,500円 × 1日 | 12,500円 |
| 欠勤2日 | 12,500円 × 2日 | 25,000円 |
| 遅刻30分 | 約1,666.67円 × 0.5時間 | 約833円 |
| 遅刻30分+早退1時間 | 約1,666.67円 × 1.5時間 | 2,500円 |
| 半日(3.75時間)の早退 | 約1,666.67円 × 3.75時間 | 6,250円 |
円未満の端数をどうするか(切り捨てるか、四捨五入するか)は法令に定めがないため、就業規則・賃金規程で決めて全社員に統一して適用します。控除の場面では、切り上げると社員に不利になるので、切り捨てまたは四捨五入としている会社が多いです。
「対象になる賃金」の決め方
月給のうち、どこまでを控除の対象にするかも、あらかじめ決めておきたいところです。
- 基本給・職務手当など、労務の提供に対して支払う手当:控除の対象にするのが一般的です。
- 通勤手当:実費に近い性質なので、1か月定期代として支給しているなら1日休んでも減らさない、という会社が多いです。一方、日額支給なら出勤日数分だけ支給します。どちらでも構いませんが、規程に書いて統一することが大切です。
- 家族手当・住宅手当:生活補助的な手当なので、欠勤で減らさない扱いが一般的です。
なお、時間外労働の割増賃金を計算するときの「基礎から除外できる手当」の話とは別のルールです。混ざりやすいので、残業代の割増率の記事とあわせて、自社の一覧表を1枚作っておくと安心です。
遅刻の「切り上げ」に注意
「15分の遅刻は30分として扱う」という運用を見かけることがあります。気持ちとしては時間管理の引き締めなのですが、実際に働いた15分の賃金を減らすことになるため、そのままでは賃金の全額払い(労働基準法第24条)の観点で問題になり得ます。
引き締めが必要な場合は、控除で調整するのではなく、注意・指導や、就業規則に基づく減給の制裁として、正しい手続きで行うのが安全です。
減給の制裁を行う場合の上限
制裁として減給する場合は、金額に上限があります(労働基準法第91条)。
- 1回の額:平均賃金の1日分の半額まで
- 総額:一賃金支払期における賃金総額の10分の1まで
先ほどの例(月給250,000円、直近3か月の賃金総額750,000円、その期間の暦日数91日)で計算すると、
- 平均賃金の1日分:750,000円 ÷ 91日 = 約8,241円
- 1回の減給の上限:約8,241円 ÷ 2 = 約4,120円
- その月の減給の総額の上限:250,000円 × 1/10 = 25,000円
複数回の処分が重なって上限を超えそうなときは、超える分を翌月にまわします。手続きの進め方は、懲戒処分を検討する前に確認したい手順の記事で整理しています。
影響:引きすぎると、あとから戻す作業が発生する
控除の計算は、ズレても金額が小さいので気づきにくいのですが、放っておくと後で手間になります。
- 分母が月によって変わる → 同じ1日の欠勤なのに金額が違い、社員から質問が来る。説明のたびに時間を取られます。
- 働いた分まで引いてしまう → 差額の精算と、過去分のさかのぼり修正が必要になることがあります。
- 制裁の減給を上限を超えて行う → 就業規則の見直しと、超過分の返金対応が発生します。
- 有給休暇の申請があったのに欠勤で処理する → 有給の残日数と年5日の取得状況にもズレが出ます(年5日取得義務の記事もあわせてどうぞ)。
逆に言えば、単価と分母を一度決めて紙に書いておくだけで、これらはほとんど防げます。
明日やること(まずはここだけ)
一度に全部そろえなくて大丈夫です。明日できる小さな一歩から始めましょう。
- 就業規則・賃金規程を開いて、欠勤控除の条文があるか確認する(見出しは「欠勤等の取扱い」「賃金の計算」あたりにあることが多いです)。
- 分母を決める。年間所定労働日数 ÷ 12(=月平均所定労働日数)と、年間所定労働時間 ÷ 12(=月平均所定労働時間)を、自社の数字で計算してメモしておく。
- 控除の対象にする手当・しない手当を一覧にする(通勤手当と家族手当の扱いだけでも決まれば十分です)。
- 直近1か月の欠勤・遅刻の処理を1件だけ見直して、決めたルールと合っているか確かめる。
- ズレや条文の不足が見つかったら、次の就業規則の見直しのときに直す項目としてメモに残す(今すぐ全部直さなくて大丈夫です)。
チェックリスト(現場用:最低ライン→優先→代替→免除)
- 最低ライン(ここだけは必ず)
- 引いているのは「働かなかった時間の分」だけになっている
- 分母(割る数)が就業規則・賃金規程に沿っていて、月ごとに変わっていない
- 円未満の端数処理のルールが決まっていて、全社員に同じように適用している
- 控除後の支給額がマイナスにならないか確認している(欠勤が多い月は要注意)
- 制裁としての減給は、就業規則の根拠があり、第91条の上限内に収まっている
- 優先して確認(ミスの出やすいところ)
- 通勤手当・家族手当・住宅手当を控除対象にするかが決まっていて、明細でも一貫している
- 遅刻・早退の時間を切り上げて多めに引いていない
- 有給休暇の申請があった日を、欠勤として処理していない
- 欠勤控除と減給の制裁が、給与明細で別の項目として分けて表示されている
- 社会保険料は欠勤しても月額で発生する点を理解している(欠勤で日割りにはなりません)
- できないときの代替(暫定運用)
- 就業規則に条文がない → 当面は「月平均所定労働日数・時間で割る」と社内で決めて運用メモを残し、次回の規則改定で正式に条文化する
- 給与ソフトで分母を年平均に設定できない → 当面は手計算した単価を固定値として登録し、年度の所定日数が変わるタイミングで更新する
- 手当ごとの扱いが未整理 → まずは通勤手当だけルールを決め、残りは次の見直しにまわす
- 免除・簡略化の目安
- 完全月給制で「欠勤しても控除しない」と規程で定めている範囲は、控除計算そのものが不要(遅刻早退の扱いだけ確認)
- 時給制・日給制の社員は、そもそも働いた時間・日数で計算するため、欠勤控除の計算は不要
- 欠勤を有給休暇に振り替えた日は、控除の計算は不要(有給の残日数の管理に切り替わります)

給与計算のなかでも、欠勤控除は「決まりごとが少ないぶん、自分で決めなければいけない」やっかいな部分です。だから迷うのは、あなたの理解が足りないからではありません。決めるべきことが、まだ会社の中で決まっていないだけです。
今日、「引いていいのは働かなかった分だけ」という線と、自社の単価の出し方が見えたなら、もう十分に前へ進んでいます。次に給与計算で手が止まったとき、その紙が助けてくれます。ひとつずつで大丈夫です。
本記事は一般的な実務情報です。賃金・労務の取扱いは、個別の事情や法改正、就業規則の定めによって変わります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。
よければ、こちらも
- 給与計算の基本の流れ|総支給から差引支給までをやさしく整理:毎月の給与計算の全体像を、順番どおりに追えるように整理しています。
- 賃金支払の5原則|給与から控除していいもの・ダメなものを整理:全額払いの原則と、控除できるものの範囲をまとめています。
- 入社・退職月の給与と社会保険料|日割りの考え方をやさしく整理:月の途中で入退社したときの日割りは、欠勤控除とは別の考え方で整理します。
- 無料チェックリスト一覧:給与計算・入退社・36協定など、印刷してそのまま使える実務チェックリストをそろえています。
人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、毎月の給与計算の段取りづくりに役立ててください。