夜の事務所で、問題行動の記録と就業規則を机に並べ、懲戒処分をどう進めるべきか静かに考え込んでいる中小企業のひとり労務担当者

懲戒処分の進め方|検討する前に確認したい手順と根拠

「どう考えても、これはさすがに見過ごせない」。 そう感じる従業員の行動に直面したとき、頭に浮かぶのが「懲戒処分」という言葉だと思います。でも、いざ進めようとすると、何から手をつければいいのか、どこまでが許される処分なのか、後から「不当だ」と言われないか——迷いと不安が一気に押し寄せますよね。ひとりで労務を担っていると、社内に相談できる相手も少なく、判断をひとりで抱え込みがちなところです。

まずお伝えしたいのは、懲戒処分はいきなり「どの処分にするか」から考える手続きではない、ということ。順番があります。「①就業規則に根拠があるか → ②事実をきちんと確認する → ③本人に弁明の機会を与える → ④処分が重すぎないか(相当性)を確かめる → ⑤書面で伝えて記録に残す」。この記事では、処分の内容を決める前に確認したい手順と、その法的な根拠を、ひとり労務の目線で一つずつ整理します。

結論:懲戒処分は、「就業規則に懲戒の種類と事由が定めてあり、それが周知されていること」が大前提です(労働基準法第89条、労働契約法第7条)。そのうえで、労働契約法第15条により、処分に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ、権利の濫用として無効になります。実務では「根拠 → 事実確認 → 弁明の機会 → 相当性の確認 → 書面通知・記録」の順で進めます。とくに減給には労働基準法第91条の上限(1回の額は平均賃金1日分の半額まで、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1まで)があります。懲戒解雇のような重い処分は影響が大きく、判断も難しいため、方針を決める前に社会保険労務士や弁護士に相談するのが安全です。

進める順番は、次のとおりです。

  1. 就業規則に、その行為を懲戒できる根拠規定があり、周知されているかを確認する
  2. 何が・いつ・どのように起きたのか、事実を客観的な証拠とあわせて確認する
  3. 本人に弁明(言い分を述べる)の機会を与える
  4. 過去の同じような事案や処分の重さと比べ、相当性(バランス)を確かめる
  5. 処分の内容・理由を書面で伝え、経過を記録として残す

何が起きているか:処分の「重さ」より先に、進め方の「正しさ」が問われる

懲戒処分でトラブルになるとき、争点になりやすいのは「その処分が重すぎないか」だけではありません。実は「進め方が適正だったか」も、同じくらい重く見られます。

懲戒処分は、会社が従業員に対して行う「制裁」です。だからこそ、乱用されないように、いくつかの歯止めが法律で用意されています。

つまり、懲戒処分は「悪いことをしたから罰する」という単純な話ではなく、「根拠にもとづいて、事実を確かめ、本人の言い分も聞いたうえで、バランスの取れた処分を、正しい手順で行う」ことまでがセットなのです。ここが抜けると、たとえ従業員側に非があっても、処分そのものが無効とされてしまうことがあります。

懲戒処分を検討するときの手順を、根拠の確認・事実確認・弁明・記録の順で左から右へ並べた流れ図
処分の内容を決める前に、この順番で確認していきます。飛ばさず一つずつ

具体例:同じ「遅刻」でも、進め方で結果が変わる

たとえば、遅刻を繰り返す従業員がいたとします。

進め方が不十分な例

これだと、あとで「就業規則に根拠がない」「記録がなく事実が不明確」「弁明の機会がなかった」「減給が法律の上限を超えている」と、複数の点で無効を主張されるおそれがあります。

順番を踏んだ例

同じ「遅刻」でも、後者は根拠・事実・弁明・相当性がそろっています。処分の重い・軽いより先に、この土台があるかどうかが問われる、というイメージを持っておくと安心です。

影響:手順を飛ばすと、処分そのものが無効になりうる

手順を飛ばしてしまうと、こんな影響が出ることがあります。

とくに懲戒解雇は、退職金の不支給や再就職への影響など、本人にとって極めて重い処分です。その分、有効と認められるハードルも高く、争いになりやすい領域です。「重い処分ほど、より慎重な手順と、より強い根拠が必要になる」と考えておくと、判断を誤りにくくなります。

なお、懲戒処分にはいくつかの原則があります。あわせて頭の隅に置いておくと安心です。

明日やること:内容を決める前に、まず「根拠」と「事実」を集める

明日いきなり処分の内容を決める必要はありません。まずは土台になる二つ——「根拠」と「事実」——をそろえるところから始めれば大丈夫です。

  1. 就業規則の懲戒規定を開く:懲戒の種類と、今回の行為が当てはまりそうな懲戒事由が定められているか、そして従業員に周知されているかを確認します。
  2. 事実を書き出す:何が・いつ・どこで・どのように起きたのか、5W1Hで整理します。タイムカード、メール、報告書、目撃者の話など、客観的な証拠とあわせてメモに残します。
  3. これまでの経過を振り返る:過去に注意や軽い処分を段階的に行ってきたか、今回が初めてなのかを確認します。
  4. 弁明の機会を段取りする:本人から事情を聞く面談を予定に入れます。汲むべき背景がないか、落ち着いて聞く姿勢で臨みます。
  5. 重い処分が視野に入ったら、専門家に相談する:出勤停止より重い処分、とくに懲戒解雇を考えるなら、方針を決める前に社会保険労務士や弁護士に相談します。

ここまでを一気にやろうとしなくて大丈夫です。今日は「就業規則を開いて根拠規定を確認する」の一つだけでも、十分に前へ進んでいます。

チェックリスト:懲戒処分を検討する前の確認項目

一度に全部を完璧にする前提ではありません。まず外せない最低ラインを押さえれば、進め方の土台は整います。残りは「できれば」として、余裕が出たら確認すれば大丈夫です。

まずここだけは(最低ライン)

できれば(余裕が出たら)

よければ、こちらも

懲戒処分の土台になる「就業規則の作成義務(常時10人以上)と届出の流れ」や、規定を変えたときの「就業規則を変更したときの届出と周知の手順」は、懲戒の根拠づくりと地続きの話です。あわせて、トラブルの初期対応につながる「ハラスメント相談を受けたときの初期対応と記録」や、1年の労務を見渡す「ひとり労務の年間スケジュール」も、別の記事で一つずつ整理しています。就業規則を中心に、労務の手続きがつながって見えてきます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、規程づくりやトラブル対応の段取りに役立ててください。

就業規則と整理した記録を前に、方針が定まって少し肩の力が抜け、落ち着いた表情になった労務担当者
順番に確かめれば大丈夫。ひとりで抱えず、迷ったら専門家の力も借りていきましょう

懲戒処分は、感情で急いで決めてしまうと、あとで自分も従業員も苦しくなる手続きです。だからこそ、順番があります。今日、「内容を決める前に、根拠と事実を確かめる」という軸が一つ持てたなら、それだけでもう、落ち着いた対応に一歩近づいています。ひとりで全部を背負い込まず、重い判断のときは専門家の力を借りて大丈夫です。一つずつ、慎重に進めていきましょう。


本記事は一般的な実務情報です。懲戒処分の可否・種類・手続きは、就業規則の定めや個別の事情、裁判例、法改正によって大きく変わります。とくに懲戒解雇など重い処分は法的リスクが高いため、実際に処分を検討・実施する際は、厚生労働省の公式情報を確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・弁護士など専門家に必ずご相談ください。

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