中小企業の事務所で、ひとり労務担当者が業務委託契約書と出勤表を見比べながら、少し考え込んでいる場面

業務委託と雇用の違い|偽装請負にならない線引きと見直し方

「Bさんって、業務委託だったよね?」。社長の何気ないひと言で、出勤表を見返してみる。毎朝9時に来て、会社の席で、社長に言われた順番で作業をして、18時に帰っている。……これ、雇っている社員とどこが違うんだろう。そう気づいた瞬間、ちょっと背中がひやっとしますよね。

大丈夫です。気づいたいまが、いちばん落ち着いて見直せるタイミングです。業務委託と雇用の違いは、契約書の名前ではなく「働き方の実態」で見る——この一点さえ押さえれば、何をどう直せばいいかは順番に整理できます。一緒に見ていきましょう。

結論:業務委託か雇用かは、契約書のタイトルではなく、実際の働き方で判断されます(労働基準法9条の「労働者」にあたるかどうか)。目安になるのは、①仕事を断れるか(諾否の自由)、②仕事の進め方を細かく指示されていないか(指揮監督)、③時間と場所に縛られていないか(拘束性)、④本人以外がやってもよいか(代替性)、⑤報酬が「時間」ではなく「成果」に払われているか、の5つです。実態が雇用に近いと判断されると、契約が業務委託でも、労働時間・割増賃金・有給・社会保険などのルールが適用されることがあります。見直すときは「働き方を業務委託らしく整える」か「雇用に切り替える」かのどちらかを、本人と話し合って選びます。

何が起きているか:業務委託と雇用は「誰が仕事の進め方を決めるか」が違う

雇用(雇用契約)は、会社の指示のもとで働き、その時間や労務に対して賃金が払われる契約です。会社には労働時間の管理や社会保険の加入などの責任が生まれます。

業務委託(請負・準委任)は、仕事の完成や、決められた業務の処理を任せる契約です。どうやって進めるか、いつ・どこで作業するかは、基本的に受ける側(受託者)が自分で決めます。会社は「何をお願いするか」と「成果物・報酬」を決め、進め方には口を出しません。

左の列は会社の席で上司から作業の指示を受けている社員の絵で、真下に「雇用」のラベル。右の列は自分の作業場でノートパソコンに向かい、自分のペースで仕事を進めている個人事業主の絵で、真下に「業務委託」のラベルを付けた比較図
雇用は「会社が進め方を指示する」働き方、業務委託は「進め方を本人が決める」働き方。違いは契約名より実態に出る

どちらにあたるかは、契約書に「業務委託契約」と書いてあるかどうかでは決まりません。行政や裁判所は、実際の働き方を見て「会社の指揮監督のもとで働き、その対価を受け取っているか」(使用従属性)で判断します。判断の目安は、厚生労働省の研究会がまとめた基準(昭和60年の労働基準法研究会報告)がいまも土台になっています。

見るポイント雇用に近い働き方業務委託らしい働き方
①仕事を断れるか頼まれた仕事は基本的に断れない引き受けるかどうかを本人が選べる
②進め方の指示手順や優先順位を会社が細かく指示する成果物の仕様は決めるが、進め方は本人に任せる
③時間・場所始業・終業時刻や作業場所が決められているいつ・どこで作業するかは本人が決める
④代わりの人本人以外がやることは認められない本人の判断で補助者を使える
⑤報酬の決まり方時給・日給・月額固定など「時間」に払う成果物や業務の単位で払う
補足:道具・経費パソコンや道具は会社が用意する自分の機材を使い、経費も自分で負担する
補足:専属性ほかの会社の仕事は事実上できないほかの取引先の仕事も受けている

1つでも当てはまれば即「雇用」というわけではなく、全体を見て総合的に判断されます。ただ、①〜③が雇用側に寄っていると、雇用と見られやすくなります。

「偽装請負」という言葉が出てくるのはどんなとき?

よく一緒に聞く「偽装請負」は、もともとは3者が関わる場面の言葉です。A社がB社に業務委託(請負)をしているのに、実際にはA社の担当者がB社の従業員に直接指示を出して働かせている——形は請負なのに、中身は労働者派遣になっている状態を指します。この場合は労働者派遣法や職業安定法の問題になります。

一方、ひとり労務の現場で出会いやすいのは、会社が個人(フリーランス)と直接、業務委託契約を結んでいるケースです。こちらは「その個人が実は労働者ではないか」(労働者性)の問題になります。どちらも「契約の形と実態がずれている」という点は同じなので、見直しの考え方は共通です。

具体例:毎日出社しているデザイナーのBさん

従業員15人の会社で、デザイナーのBさんと業務委託契約を結んでいるとします。

さきほどの表に当てはめてみると、①頼まれた修正は断れない、②作業の順番は社長が決めている、③時間も場所も会社が決めている、⑤報酬は月額固定で成果物の数と関係ない——と、多くのポイントが雇用側に寄っています。このままだと、実態としては雇用に近いと見られる可能性があります。

担当者は、社長とBさんに相談したうえで、次の2つの道を並べて考えました。

見直しの道やること向いている場面
A:業務委託らしく整える出社・勤務時間の指定をやめる/依頼は案件単位で出し、引き受けるかはBさんが選ぶ/報酬を制作物の単位で決める/機材はBさんのものを使うBさんが独立した事業者として、ほかの取引先とも仕事をしたい
B:雇用に切り替える雇用契約を結び、労働条件通知書を交付/社会保険・雇用保険の加入要件を確かめて手続き/労働時間を記録し、残業があれば割増賃金を払う会社としても毎日いてほしい、Bさんも安定して働きたい

どちらが正解ということはありません。大事なのは、「契約の形」と「働き方の実態」をそろえること。Bさんの場合は、本人が「この会社で落ち着いて働きたい」と希望したので、Bの雇用への切り替えを選びました。

雇用に切り替えるときは、新しく入社した人と同じ流れで進めます。入社時の書類は「入社手続きで集める書類」、労働条件の書き方は「労働条件通知書で明示する事項」、社会保険の手続きは「資格取得届の書き方と提出期限」「雇用保険の資格取得届・喪失届」にまとめています。パートなど短い時間で働く場合の加入要件は「パートの社会保険加入要件」もあわせてどうぞ。

業務委託で続けるときも「フリーランス法」のルールがある

業務委託のまま続ける場合も、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス法)のルールがかかります。従業員がいない個人などに業務委託をするとき、会社側に次のような義務があります(主なもの)。

どの義務がかかるかは、取引の期間や会社の規模で少しずつ変わります。業務委託契約書のひな形を見直すときに、あわせて確かめておくと安心です。

影響:実態が雇用と判断されると、さかのぼって整えることになる

もし実態が雇用だと判断されると、契約が業務委託であっても、労働者として扱うことになります。具体的には、

といった点を、あらためて整えることになります。どれも、早めに気づいて本人と話し合えば、落ち着いて対応できることです。気づかないまま何年も続くより、いま見直す方が、会社にとってもBさんにとってもずっと負担が小さく済みます。

もうひとつ大切なのは、本人の気持ちです。「業務委託なのに、毎日来るように言われる」「社員と同じ仕事なのに、有給も保険もない」——そんな小さなもやもやは、言葉にされないまま積もっていきがちです。見直しは、本人にとっても「ちゃんと考えてくれている」と伝わる機会になります。

明日やること(まずはここだけ)

業務委託で働いている人がいたら、この順で。

  1. 業務委託の人を一覧にする:名前・契約の内容・報酬の決め方(固定か成果か)・出社の有無を、表に書き出す。人数が少なければ、紙1枚で十分です。
  2. 5つのポイントで実態を見る:さきほどの表で、①断れるか/②進め方の指示/③時間・場所/④代わりの人/⑤報酬の決まり方を、一人ずつ確かめる。雇用側に寄っている人に印をつけます。
  3. 印がついた人は、社長と本人と話す:「業務委託らしく整える」か「雇用に切り替える」かを、本人の希望も聞いて決める。

判断に迷う人がいても大丈夫です。一覧と、5つのポイントのメモがあれば、社会保険労務士や労働基準監督署に相談するときにも話が早く進みます。

チェックリスト(コピーして使えます)

よければ、こちらも

雇用契約を結ぶときの書類は「労働条件通知書で明示する事項」、雇用に切り替えたあとの労働時間の記録は「労働時間の把握義務」にまとめています。副業で他社でも働いている人の時間の扱いは「副業・兼業の労働時間の通算」もどうぞ。手続きの抜けをまとめて確かめたいときは無料チェックリストも使ってください(記事一覧)。

人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の手続きの見直しに使ってください。

明るい事務所で、労務担当者と新しく社員になったデザイナーが、机をはさんで笑顔で話している場面
契約の形と働き方がそろうと、お互いに安心して仕事に向き合える

業務委託と雇用の線引きは、むずかしい法律の話に見えて、実は「この人は、どんな働き方をしているかな」と一人ずつ見ていく、とても人に近い仕事です。気づいたあなたが一覧を作るだけで、会社にとっても、働く人にとっても、安心できる形にひとつ近づきます。まずは業務委託の人を紙1枚に書き出すところから、始めてみましょう。


本記事は一般的な実務情報です。労働者にあたるかどうかは、契約の内容や働き方の実態を総合的に見て個別に判断されます。フリーランス法の義務の範囲も、取引の期間や会社の規模によって異なり、制度が見直されることがあります。最終的な判断は、社会保険労務士・弁護士、所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。