朝の事務所で、入社予定者の書類を確認しながら健康診断の案内を準備している中小企業のひとり労務担当者

雇入時健康診断の実施義務|対象者・11項目・段取りを整理

来週、パートさんが1人入社する。雇用契約書も、社会保険の届出もそろった。ふと手が止まるのが「この人、健康診断はいるんだっけ?」という一点です。前の会社で受けた健診結果を持っていると言われたら、それで足りるのかどうかも気になります。

入社手続きは書類が多いぶん、健康診断だけ後ろに回ってしまうことは珍しくありません。忘れていたわけではなく、「対象になるのか」「いつまでに」がはっきりしないから、つい保留になるのだと思います。

先にお伝えすると、迷いどころは「対象者か」「省略できるか」「結果をどう残すか」の3つだけです。順番に見れば、毎回の入社で同じ段取りを回せるようになります。一緒に整理していきましょう。

結論:常時使用する労働者を雇い入れるときは、会社の規模にかかわらず雇入時健康診断を行います(労働安全衛生法 第66条、労働安全衛生規則 第43条)。パート・アルバイトでも、①期間の定めがない(または1年以上使う予定・更新で1年以上になっている)、かつ②週の所定労働時間が同じ職場の正社員の4分の3以上なら対象です。検査は11項目で、定期健康診断のような医師判断による省略はありませんが、入社前3か月以内に受けた健診の結果を本人が書面で出してくれれば、その項目は省略できます。費用は会社が負担し、結果は健康診断個人票にして5年間保存します。雇入時健診の結果は、労基署への報告は不要です。

迷ったときは、この順番で確認します。

  1. 対象者か(契約期間と、週の所定労働時間)
  2. 入社前3か月以内の健診結果があるか(あれば、その項目は省略できる)
  3. 結果を受け取ったら、個人票にして5年保存。所見があれば医師の意見を聞く

何が起きているか:雇入時健康診断は「入社手続きの一部」

雇入時健康診断は、入社した人の健康状態を把握して、適正な配置や入社後の健康管理に役立てるための健診です。会社の人数による例外はなく、従業員が数人の会社でも、新しく人を雇うたびに必要になります。

ひとり労務でつまずきやすいのは、次のような場面です。

どれも「やっていない」のではなく、「ここまでで足りているか」が分からない状態です。ひとつずつ見ていきます。

対象者の判断:パート・アルバイトは2つの条件で見る

「常時使用する労働者」に当たるかどうかは、通達で次のように示されています。正社員はもちろん対象で、パート・アルバイトは2つの条件で判断します。

確認すること対象になる目安
① 契約期間期間の定めがない/期間の定めがあっても1年以上使う予定、または更新で1年以上使っている(深夜業など特定の業務に就く人は6か月以上)
② 週の所定労働時間同じ職場で同じ種類の仕事をする正社員の週所定労働時間の4分の3以上

①と②の両方を満たせば、雇入時健診の対象です。たとえば正社員が週40時間の職場なら、週30時間以上働く無期雇用のパートさんは対象になります。

なお、②が4分の3未満でも、おおむね2分の1以上であれば、健康診断を実施することが望ましいとされています。義務ではありませんが、長く働いてもらう予定の人なら、正社員と同じ流れで案内しておくと管理がシンプルになります。

検査は11項目:前職の結果で省略できるのは「3か月以内」

雇入時健康診断で行う項目は、労働安全衛生規則 第43条で決まっています。

左に入社前の書類と封筒を前に健診の案内を準備する担当者の場面と「案内」のラベル、中央にクリニックの受付で健診を受ける新入社員の場面と「受診」のラベル、右に結果の書類をファイルにとじて棚にしまう担当者の場面と「保存」のラベルを、左から右へ矢印でつないだ流れ図
雇入時健診は「案内→受診→保存」の3ステップ。入社手続きの流れに組み込んでおくと抜けません
No.検査項目
1既往歴・業務歴の調査
2自覚症状・他覚症状の有無の検査
3身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
4胸部エックス線検査
5血圧の測定
6貧血検査(血色素量・赤血球数)
7肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)
8血中脂質検査(LDLコレステロール・HDLコレステロール・血清トリグリセライド)
9血糖検査
10尿検査(尿中の糖・蛋白の有無)
11心電図検査

医療機関に申し込むときは「雇入時健康診断(安衛則43条)の項目で」と伝えれば通じます。定期健康診断とは違い、雇入時健診には年齢などによって医師の判断で項目を省略する仕組みがありません。11項目すべてを受けてもらう前提で手配します。

前職の健診結果で代えられる場面

例外として、入社前3か月以内に医師の健康診断を受けていて、その結果を証明する書面を本人が提出した場合は、受けている項目について雇入時健診を省略できます(安衛則 第43条ただし書き)。

入社日前職で受けた健診の日省略できるか
10月15日8月1日できる(入社前3か月以内)
10月15日6月20日できない(3か月より前)

ここで見落としやすいのが、省略できるのは「受けている項目だけ」という点です。前職の健診で心電図を受けていなければ、心電図だけは改めて受けてもらいます。結果のコピーを受け取ったら、上の11項目と1行ずつ照らし合わせておくと安心です。

採用選考時の健診とは別のもの

雇入時健康診断は、入社後の配置や健康管理のためのものです。応募者の採否を決めるために行うものではありません。厚生労働省は、採用選考の段階で一律に健康診断を行うことは、仕事の適性と関係のない情報の把握につながるおそれがあるとしています。案内は内定を出したあと、入社の前後に行うのが落ち着いた進め方です。

具体例:無期雇用のパートさんが入社するとき

小売店の事務を担当するDさんの会社(正社員は週40時間)に、11月1日から週32時間・無期雇用のパートさんが入社する場面です。

  1. 対象か確認:無期雇用(①OK)、週32時間は40時間の4分の3=30時間以上(②OK)→ 対象
  2. 前職の健診を確認:本人に聞くと、前の職場で8月20日に定期健診を受けていた。入社日から見て3か月以内なので、結果のコピーを出してもらう
  3. 項目を照らし合わせる:コピーを見ると、心電図と血中脂質の検査が入っていない(前職の健診で、医師の判断により省略されていた)→ この2項目だけ近くのクリニックで受けてもらう
  4. 費用と時間を伝える:受診費用は会社が負担し、受診は勤務時間内に行ってもらう
  5. 結果を受け取る:前職の結果と追加分の結果をまとめて、健康診断個人票として保存する

前職の結果をうまく使えば、本人の手間も費用も小さくできます。ポイントは「入社前3か月以内か」と「項目がそろっているか」の2つを、入社書類を受け取る時点で確認しておくことです。

影響:段取りを決めておくと、入社のたびに迷わない

雇入時健診のルールを社内の段取りに落とし込んでおくと、こんなところが楽になります。

なお、雇入時健診の結果は労基署への報告は不要です(50人以上の事業場が出す「定期健康診断結果報告書」とは別です)。また、健診結果は個人情報の中でも特に配慮が必要な情報です。入社書類と同じファイルに入れたままにせず、見られる人を絞って保管しましょう。保存期間の一覧は「労務書類の保存期間」で確認できます。

明日やること(まずはここだけ)

  1. 次の入社予定者が対象か確認する:契約期間と週の所定労働時間を、表の2つの条件に当てはめます。
  2. 入社書類の案内に1行足す:「入社前3か月以内に受けた健康診断の結果があれば、コピーを提出してください」。これだけで、省略できる人が分かります。
  3. 健診をお願いする医療機関を1つ決めておく:「雇入時健康診断の11項目で」と伝えて、費用と予約方法を聞いておけば、次の入社からは案内を出すだけです。

3つ全部でなくても大丈夫です。入社案内に1行足すだけでも、次の入社からの段取りがぐっと軽くなります。

チェックリスト(現場で回る最低ラインつき)

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入社時の手続き全体は「入社手続きで必要な書類」、労働条件の伝え方は「労働条件通知書で明示すること」にまとめています。健康管理の体制づくりは「安全衛生管理体制の整え方」、年間の予定に組み込むなら「ひとり労務の年間スケジュール」もどうぞ(記事一覧、無料チェックリスト)。

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明るい事務所で、入社したばかりの社員が労務担当者に笑顔で迎えられ、二人で穏やかに話している様子
健康のことを、入社の日から一緒に気にかける。それが安心して働ける職場の入り口です

雇入時健康診断は、条文だけ読むと細かく感じます。でも入社のたびに確かめることは、対象者か、省略できるか、結果をどう残すかの3つだけです。

健診の案内は、「あなたの健康を会社も気にかけています」という最初のメッセージでもあります。今日は、入社案内に1行足すだけで十分。書類の山の中でその1行を忘れずにいるあなたの仕事が、新しく来た人が安心して働き始められる職場をつくっています。


本記事は一般的な実務情報です。健康診断の対象者・検査項目・実施時期は、雇用形態や従事する業務、法令・通達の改正によって変わることがあります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。