
出戻り社員の再入社手続き|有給・勤続年数・社会保険の扱いを整理
「前にいたAさん、また戻ってきてくれることになったよ」。社長からそう聞いて、うれしい気持ちと同時に、あれ、手続きはどうするんだっけと手が止まる。有給は前の勤続から数えるのか。社会保険は何を出すのか。雇用保険の番号は前と同じでいいのか。前例がないと、ひとりで判断するのは心細いですよね。
大丈夫です。出戻り(再入社)の手続きは、「新しい入社」として進めるのが基本で、そこに「前の在籍をどこまで引き継ぐか」をいくつか足すだけです。一緒に順番に整理していきましょう。
結論:出戻り社員の再入社は、①手続きは新規入社と同じ(社会保険・雇用保険の資格取得届を新たに出す。雇用保険の被保険者番号は前と同じものを使う)、②有給の勤続年数は、いったんきちんと退職して期間があいていればリセットが基本(退職が形だけで実態が続いていれば通算)、③退職金・試用期間・役職などの「前の在籍をどう扱うか」は会社が決めてよいので、決めた内容を労働条件通知書に書いて本人と確かめる、の3つで整理できます。まずは「前回の退職日」と「前回の雇用保険の被保険者番号」を確かめるところから始めましょう。
何が起きているか:出戻りは「新しい入社」+「引き継ぎの判断」
出戻り社員(アルムナイ採用とも呼ばれます。アルムナイは「卒業生」という意味で、退職した元社員のことです)を迎えるとき、迷いやすいのは、法律で決まっていることと、会社が決めてよいことが混ざっている点です。分けて見ると、ぐっと整理しやすくなります。
法律や制度のルールに沿って進めるもの
- 社会保険(健康保険・厚生年金):前の資格はすでに喪失しているので、資格取得届を新たに出す
- 雇用保険:資格取得届を新たに出す。被保険者番号は前回と同じ番号を使う(1人に1つの番号のため)
- 年次有給休暇の勤続年数:「継続勤務」にあたるかを実態で判断する
- 有期契約の通算(無期転換):空白の期間の長さで、前の契約期間を通算するかが決まる
会社が決めてよいもの(決めたら書いて伝える)
- 退職金の勤続年数を前の在籍と通算するか
- 試用期間を設けるか、短くするか
- 役職・等級・賃金をどこから始めるか
- 法律を上回って、有給を前の勤続から通算して付与するか
ひとり労務がつまずきやすいのは、後者を「決めないまま」入社日を迎えてしまうことです。手続きの書類よりも、この「決めること」を入社前にそろえておくほうが、あとで本人と行き違いになりにくくなります。
具体例:3年ぶりに戻ってきたAさんの場合

従業員20人の会社に、Aさんが戻ってくることになったとします。
- 前回の在籍:2018年4月入社 → 2023年3月31日に自己都合で退職(勤続5年)
- 前回の退職時:退職金は規程どおり支払い済み、未消化の有給は消滅
- 再入社:2026年11月1日、正社員・週40時間で入社予定
ひとり労務の担当者は、次のように整理しました。
| 項目 | Aさんの扱い | 理由・メモ |
|---|---|---|
| 社会保険 | 資格取得届を新たに提出(入社日から5日以内) | 前回の資格は2023年4月1日に喪失済み |
| 雇用保険 | 資格取得届を新たに提出(入社した月の翌月10日まで)。被保険者番号は前回と同じ | 本人の手元の「雇用保険被保険者証」や、前回の取得届の控えで番号を確認 |
| 有給の勤続年数 | 2026年11月1日からあらためて数える(6か月後の2027年5月1日に10日付与) | 3年7か月の空白があり、退職・再入社は形式ではなく実態として別の雇用 |
| 退職金の勤続年数 | 通算しない(再入社日から新たに数える) | 前回分は支払い済み。規程に「再入社の場合は前の勤続を通算しない」と定めている |
| 試用期間 | 1か月に短縮 | 業務を知っているため。労働条件通知書に明記 |
| 住民税 | 普通徴収になっているので、本人の希望を聞いて特別徴収への切替届を市区町村へ | 前の会社の退職時の扱いによって異なる |
社会保険の資格取得届は、前の在籍があっても新規入社の人と同じ書き方です。標準報酬月額も、前回の金額は引き継がず、今回の入社時の給与の見込みで決めます。書き方は「資格取得届の書き方と提出期限」、雇用保険は「雇用保険の資格取得届・喪失届」にまとめています。
有給の「継続勤務」は、空白の長さと実態で見る
年次有給休暇は、雇い入れの日から6か月継続して勤務し、出勤率が8割以上なら10日付与されます。この「継続勤務」は、契約の形ではなく、働き方の実態で判断するのが行政の考え方です。
- リセットが基本になる例:Aさんのように、いったん退職して別の会社で働くなど、期間があいてから戻ってきた
- 通算されやすい例:退職と再入社のあいだが数日〜ごく短期間で、仕事の中身も変わらず、手続き上いったん区切っただけに見える(定年後の再雇用や、有期から正社員への切り替えなども、実態が続いていれば継続勤務として扱われます)
どれくらいの空白なら「別の雇用」と言えるか、日数で一律に決まった線はありません。迷う場合は、前回の退職理由・空白期間・その間に何をしていたかをメモにして、社会保険労務士や労働基準監督署に相談すると安心です。
また、法律の基準を上回る扱いは会社の自由なので、「出戻り社員は前の勤続を通算して有給を付与する」と決めてもかまいません。人を呼び戻したい会社では、これを歓迎のメッセージにしているところもあります。決めたら、就業規則か労働条件通知書に書いておきましょう。
有期契約の人が戻ってくるときは「6か月」に注意
パートや契約社員など、有期契約で働いていた人が戻ってくるときは、無期転換ルール(有期契約が通算5年を超えると、本人の申し込みで無期契約に転換できるルール)の通算にも関わります。
前の契約期間が通算1年以上ある場合、空白の期間が6か月以上あれば、前の契約期間は通算されません(クーリングと呼ばれます)。逆に、空白が6か月未満なら前の契約期間と通算されます。くわしくは「有期契約の無期転換ルール」もあわせてどうぞ。
影響:決めないまま入社すると、あとで説明が難しくなる
出戻りの手続きで起きやすいのは、書類の間違いよりも、本人の思い込みとのすれ違いです。
- 「前の勤続があるから、有給はすぐ20日あると思っていた」
- 「退職金は前の5年分と合わせて計算されると思っていた」
- 「前と同じ役職に戻れると思っていた」
前向きな気持ちで戻ってきてくれた人ほど、こうしたすれ違いはお互いにつらいものです。入社前に、引き継ぐもの・引き継がないものを表にして本人と一緒に確かめておくと、気持ちよくスタートできます。
もうひとつは、年末調整です。同じ年のうちに退職と再入社があった場合は、前回の在籍期間の給与も合わせて年末調整します(前回の退職時に出した源泉徴収票の金額を、前職分として合算します)。年をまたいでいれば、この心配はありません。中途入社の年末調整は「中途入社の人の年末調整」にまとめています。
明日やること(まずはここだけ)
再入社の話が出たら、この順で。
- 前回の在籍の記録を出す:労働者名簿から、前回の入社日・退職日・退職理由を確かめる。雇用保険の被保険者番号もここで控えておきましょう。
- 「引き継ぐかどうか」の表を作る:有給・退職金・試用期間・役職/賃金の4つだけでいいので、「通算する/しない/短縮する」を社長と決める。
- 労働条件通知書に書いて、本人と確かめる:決めた内容を書き、入社前に一緒に読み合わせる。
全部を一度に決めなくても大丈夫です。前回の退職日と被保険者番号が手元にあれば、手続きはもう半分進んでいます。
チェックリスト(コピーして使えます)
- 前回の入社日・退職日・退職理由を、労働者名簿で確かめた
- 雇用保険の被保険者番号(前回と同じもの)を確かめた
- 社会保険の資格取得届を、入社日から5日以内に出す段取りをした
- 雇用保険の資格取得届を、入社した月の翌月10日までに出す段取りをした
- 標準報酬月額は、今回の給与の見込みで決めた(前回の金額を引き継いでいない)
- 有給の勤続年数を「通算する/しない」のどちらで扱うか決めた
- 通算しない場合、初回の有給付与日(入社6か月後)をカレンダーに入れた
- 退職金の勤続年数を通算するか、退職金規程の定めを確かめた
- 試用期間・役職・賃金の扱いを決めた
- 有期契約だった人は、空白期間が6か月以上あるか(無期転換の通算)を確かめた
- 住民税を特別徴収に切り替えるか、本人の希望を確かめた
- 同じ年に退職・再入社があった場合、年末調整で前回の在籍分を合算する準備をした
- 決めた内容を労働条件通知書に書き、入社前に本人と読み合わせた
よければ、こちらも
入社手続き全体の流れは「入社手続きで集める書類」、労働条件の書き方は「労働条件通知書で明示する事項」にまとめています。試用期間の決め方は「試用期間から本採用まで」、退職金の規程は「賃金規程と退職金規程を分けて整える」もどうぞ。手続きの期限をまとめて確かめたいときは無料チェックリストも使ってください(記事一覧)。
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一度会社を離れた人が「また一緒に働きたい」と戻ってきてくれるのは、これまでの職場づくりが届いていたからこそです。その気持ちに応えるのは、特別な制度ではなく、引き継ぐもの・引き継がないものを丁寧に決めて、先に伝えておくこと。それだけで、再スタートの初日はぐっと軽くなります。まずは前回の退職日を確かめるところから、始めてみましょう。
本記事は一般的な実務情報です。年次有給休暇の継続勤務の判断や、退職金・試用期間の扱いは、個別の事情や就業規則の定めによって変わります。届出の様式や期限も改正されることがあります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の年金事務所/労働基準監督署/ハローワークなど最新の公式情報でご確認ください。