
社会保険の加入要件をパート・短時間で整理|ひとり労務の判定ガイド
「この人、社会保険に入るんだっけ?」。 パートや短時間の人を採用するたびに、ふと手が止まりますよね。フルタイムなら迷わないのに、週の日数や時間が中途半端だと、加入か対象外かの線引きが急にあいまいに見えてきます。しかも「社会保険」と一口に言っても、健康保険・厚生年金と、雇用保険では、そもそも見る基準が別。ここがこんがらがると、判定に時間がかかってしまいます。
まずお伝えしたいのは、加入要件は「見る順番」を決めれば、その場で判定できるということ。健康保険・厚生年金は「①4分の3基準に当てはまるか → ②当てはまらなくても短時間の5要件に当てはまるか」、雇用保険は「週20時間以上か+31日以上の見込みか」。この3ステップで、多くのケースは迷わず決められます。
結論:健康保険・厚生年金は、まず「通常の労働者の4分の3以上(所定労働時間と所定労働日数の両方)」で判定し、当てはまれば加入。当てはまらなくても、短時間労働者の5要件(週20時間以上/月額賃金8.8万円以上/2か月超の雇用見込み/学生でない/特定適用事業所〈従業員数の要件〉)をすべて満たせば加入。雇用保険はこれとは別で、「週20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込み」で加入。企業規模の要件や金額基準は制度改正で見直しが進む分野なので、最新は日本年金機構・厚生労働省の公式情報で確認を。
判定の順は、シンプルにこう進めます。
- まず健康保険・厚生年金:所定労働時間・所定労働日数が「通常の労働者の4分の3以上」か
- 4分の3未満なら、短時間労働者の5要件をすべて満たすか
- 雇用保険は別枠で、「週20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込み」か
何が起きているか:ひとつの働き方を、3つの物差しで見ている
パートの加入判定がややこしく感じるのは、ひとつの働き方に対して、性質の違う物差しが同時に当たっているからです。
- 健康保険・厚生年金(いわゆる「社会保険」の中心)…働く時間・日数の「量」で見る
- 雇用保険…週の時間と雇用の見込み期間で見る
- 税や配偶者の扶養(106万・130万の壁)…年収で見る
物差しが違うので、「雇用保険には入るけれど、健康保険・厚生年金は対象外」という組み合わせも普通に起こります。ここを最初から「別々に見るもの」と割り切ると、判定がぐっと楽になります。まずは健康保険・厚生年金から順に見ていきましょう。
健康保険・厚生年金:まず「4分の3基準」で見る

最初に見るのは「4分の3基準」です。パートの人の働き方が、同じ事業所の通常の労働者(正社員など)と比べて、次の両方を満たすかを確認します。
- 1週間の所定労働時間が、通常の労働者の4分の3以上
- 1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上
たとえば通常の労働者が週40時間なら、その4分の3は週30時間。日数も同じ考え方で見ます。時間と日数の「両方」が4分の3以上なら、企業規模に関係なく健康保険・厚生年金に加入します。どちらか一方でも4分の3未満なら、次の「短時間の5要件」に進みます。
「4分の3」は所定(契約上決めた)労働時間・日数で見るのが基本です。実際の残業でたまたま増えた分ではなく、契約でどう決めているかを起点に確認しましょう。
4分の3未満のとき:短時間労働者の5要件をすべて満たすか
4分の3基準に届かなくても、次の5つをすべて満たすと、短時間労働者として健康保険・厚生年金に加入します(適用拡大)。
| 要件 | 内容の目安 | 見るときのポイント |
|---|---|---|
| ① 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 | 契約上の所定時間で判定。残業分は原則含めない |
| ② 賃金 | 所定内賃金が月額8.8万円以上 | 残業代・賞与・通勤手当・精皆勤手当などは含めずに判定 |
| ③ 雇用見込み | 2か月を超えて雇用される見込み | 更新の可能性なども踏まえて判断 |
| ④ 学生 | 学生でないこと | 夜間・通信・定時制などは対象になりうる |
| ⑤ 企業規模 | 特定適用事業所(従業員数の要件)に該当 | 段階的に対象が広がってきた項目。最新の人数要件は公式で確認 |
5つのうち1つでも欠ければ、健康保険・厚生年金の短時間加入にはなりません。ここで迷いやすいのが②の賃金で、判定に使うのは「所定内賃金(基本給や決まった手当)」です。残業代や賞与、通勤手当は含めずに8.8万円のラインを見る、と覚えておくと間違えにくくなります。
⑤の企業規模(特定適用事業所)は、これまで対象が段階的に広がってきた項目で、今後も制度改正の議論が続いています。自社が対象かどうか・人数の基準は、日本年金機構や厚生労働省の適用拡大の案内で、そのつど最新を確認するのが安全です。なお、規模の要件を満たさない会社でも、労使の合意によって任意で適用事業所になる道(任意特定適用事業所)もあります。
雇用保険:これは別枠。時間と見込み期間で見る

雇用保険は、健康保険・厚生年金とは判定が分かれます。次の2つを両方満たすと加入です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上引き続き雇用される見込みがあること
企業規模の要件はなく、労働者ごとに判定します。学生は原則対象外ですが、卒業見込みで卒業後も引き続き働く場合や、夜間・定時制などは対象になることがあります。「週20時間」というラインは健康保険・厚生年金の短時間要件と同じ数字ですが、別々の制度なので、片方だけ加入という組み合わせは普通に起こります。混同しないよう、健康保険・厚生年金とは分けて確認しましょう。
「106万」「130万」の壁との違いを整理する
パートの加入の話をすると、必ず出てくるのが「106万円の壁」「130万円の壁」です。ここは混ざりやすいので、いったん分けて整理します。
| 呼び方 | 何のライン? | 誰の話? |
|---|---|---|
| 106万円の壁 | 短時間労働者の賃金要件(月8.8万円)の目安 | 本人が自分の会社で健康保険・厚生年金に加入するかどうか |
| 130万円の壁 | 被扶養者と認められる収入の目安 | 配偶者などの扶養に入り続けられるかどうか |
つまり106万円は「自分が加入する側」の話、130万円は「誰かの扶養でいられるか」の話で、見ている場所が違います。担当者としては、まず自社での加入要件(4分の3 → 短時間5要件、雇用保険)を判定するのが先。扶養の壁は本人・配偶者側の事情も絡むので、区別して案内すると混乱を防げます。金額の基準や壁をめぐる支援策は見直しが進む分野なので、最新は公式情報で確認しましょう。
加入要件の早見表(まとめて確認)
| 制度 | まず見る基準 | 満たさないときの次の基準 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3以上 | 短時間の5要件(週20時間/月8.8万円/2か月超見込み/学生でない/特定適用事業所)をすべて満たすか |
| 雇用保険 | 週20時間以上 かつ 31日以上の雇用見込み | (別枠。健康保険・厚生年金の判定とは切り離す) |
| 扶養(106万・130万) | 加入判定とは別。106=本人の加入、130=被扶養者認定 | 本人・配偶者側の事情もあわせて確認 |
迷うときは、年金事務所・ハローワーク・社労士に確認しましょう。企業規模や金額の要件は改正で変わることがあるため、最新の公式情報を起点にするのが安心です。
影響:判定を後回しにすると、さかのぼりと本人負担につながる
- 健康保険・厚生年金の加入判定漏れ → 後日さかのぼって加入手続きが必要になり、保険料の精算や本人への説明が一度に発生することがある
- 雇用保険の加入漏れ → 資格取得の届出をさかのぼる手戻りが増え、離職時の手続きにも影響することがある
- 「入るか対象外か」を本人に伝えないまま採用 → 手取りの見込みが本人の想定とずれ、あとで不信につながることがある
採用が決まった段階で判定し、本人に「あなたはこの制度に入る/入らない」を先に伝えておく。これだけで、後からのさかのぼりや行き違いの多くは防げます。
明日やること(まずはここだけ)
- 通常の労働者の「週の所定労働時間・所定労働日数」を1枚に書き出す(4分の3の基準線を先に用意)
- パート採用時にその場で使える判定メモを作る(4分の3 → 短時間5要件 → 雇用保険の順)
- 自社が特定適用事業所(企業規模の要件)に当てはまるか、公式の案内で確認しておく
- 採用時に本人へ「加入する制度/しない制度」を伝える一言を、案内テンプレに入れておく
チェックリスト(コピーして使えます)
現場で回るよう、健康保険・厚生年金と雇用保険を分けて並べました。上から順に見れば、その場で判定できます。
【健康保険・厚生年金(まず4分の3、次に短時間5要件)】
- 通常の労働者の所定労働時間・所定労働日数を把握している
- 対象者の所定労働時間・日数が、通常の労働者の4分の3以上か確認した
- 4分の3以上 → 加入(企業規模を問わず)で手続きへ
- 4分の3未満 → 短時間の5要件を順に確認する
- 週の所定労働時間が20時間以上か
- 所定内賃金が月額8.8万円以上か(残業代・賞与・通勤手当などは除いて判定)
- 2か月を超えて雇用される見込みか
- 学生でないか(夜間・通信・定時制などは対象になりうる)
- 自社が特定適用事業所(企業規模の要件)に該当するか
- 5要件をすべて満たす → 短時間労働者として加入で手続きへ
【雇用保険(健康保険・厚生年金とは別枠)】
- 週の所定労働時間が20時間以上か
- 31日以上引き続き雇用される見込みか
- 学生の例外(卒業後も継続、夜間・定時制など)に当たらないか確認した
- 両方満たす → 雇用保険に加入で手続きへ
【本人への案内・記録】
- 「加入する制度/しない制度」を本人に伝えた
- 労働条件通知書に社会保険・雇用保険の加入の有無を明示した
- 企業規模や金額の要件は改正で変わりうるため、最新を公式情報で確認する運用にしている
よければ、こちらも
加入要件の判定は、採用の流れの一部でもあります。人が入るときの段取り全体は「入社手続きの必要書類と集める順番」に、加入の有無を書き込む書類は「労働条件通知書に明示する事項」に、加入後に発生する保険料の控除は「給与計算の基本の流れ」に、それぞれ別の記事で一つずつ整理しています。あわせて読むと、「加入を判定する → 通知書に書く → 給与で控除する」という一本の線でつながって見えてきます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、パート採用のたびの判定づくりに役立ててください。

社会保険の加入判定は、一度で全部を暗記しなくて大丈夫です。 今日、「まず4分の3、外れたら短時間5要件、雇用保険は別枠」という見る順番が手元にあれば、もう迷いの大半は越えています。要件の数字や企業規模は改正で動くことがあるので、順番だけ体に入れておいて、細かいラインはそのつど公式で確認する——そのくらいの構えで十分回せます。次にパートの人を迎えるとき、少し落ち着いて判定できるように、できるところから整えていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。社会保険・雇用保険の加入要件(4分の3基準・短時間労働者の要件・企業規模の要件・金額基準など)は、個別の事情や法改正によって変わります。特に適用拡大の企業規模要件や「106万・130万の壁」をめぐる取扱いは見直しが進むため、最新の要件は日本年金機構・厚生労働省・ハローワークの公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の年金事務所/ハローワークなど最新の公式情報でご確認ください。