
労働時間の把握義務|客観的な勤怠記録のつけ方をやさしく整理
「あの人の残業、結局何時間だったんだろう」。 月末に勤怠を締めながら、記録があいまいで手が止まった経験はありませんか。本人の記憶や、あとから書いてもらった紙に頼ると、数字がぶれてしまいますよね。かといって、忙しい現場で一人ひとりの時間を細かく追うのも大変です。
まずお伝えしたいのは、労働時間は「原則、客観的な方法で記録する」というルールがあるということです。むずかしい仕組みは必要なく、タイムカードやパソコンの記録など、あとから確認できる形で残せば大丈夫です。 この記事では、なぜ客観的な記録が求められるのか・自己申告でよいのはどんなときか・記録は何年とっておくのかを、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。
結論:労働時間は、原則としてタイムカード・ICカード・パソコンの使用時間(ログイン〜ログオフ)といった客観的な記録で確認し、記録に残します。自己申告制だけで済ませられるのは「客観的な把握がむずかしいやむを得ない場合」に限られ、そのときは実態とのズレを確認するなどの補正措置が必要です。さらに、健康管理の観点から、管理監督者や裁量労働の人も含めて全員の労働時間の状況を把握する義務があります。作成した賃金台帳などの記録は、当分の間3年間(本来は5年間)保存します。まずは「打刻できる仕組みがあるか」「自己申告に頼っている人はいないか」を確認するところから始めましょう。
見るときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- いま自社が何で時間を記録しているか(タイムカード/PC/手書き)を確認する
- 自己申告だけになっている人がいないかを洗い出す
- 記録の保存が抜けていないか(賃金台帳・出勤簿)を確認する
何が起きているか:ルールが「2つの目的」から来ている
労働時間の把握が話題になるとき、実は少し性格の違う2つのルールが重なっています。ここを分けて見ると、迷いが減ります。
- ひとつは、賃金を正しく払うための把握です。残業代の計算や賃金台帳の作成に必要で、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で、原則として客観的な記録によることが示されています。
- もうひとつは、働く人の健康を守るための把握です。働き方改革で労働安全衛生法にルールが加わり、長時間労働の人に医師の面接指導を届けられるよう、労働時間の「状況」を客観的な方法などで把握することが求められています。
このうち健康管理の観点(安衛法)では、管理監督者や裁量労働制の人も対象になります。「管理職だから残業代の対象外」であっても、労働時間の状況そのものは把握しておく必要がある、という点は見落とされやすいところです。
どちらの目的でも共通しているのは、「あとから客観的に確認できる形で残す」という考え方です。だからこそ、記憶や後書きのメモではなく、打刻やログのような記録が基本になります。
具体例:客観的な記録と、自己申告の位置づけ

まず「客観的な方法」とは、たとえば次のようなものです。
- タイムカードによる打刻
- ICカードやスマホ・PCの勤怠システムでの打刻
- パソコンの使用時間の記録(ログイン〜ログオフの時刻)
- 使用者(上司など)が現認し、その都度記録したもの
一方で、本人が紙やエクセルに時間を書き込む「自己申告制」は、あくまで客観的な把握がむずかしい場合の例外という位置づけです。自己申告制をとるときは、次のような配慮が求められます。
- 申告の前に、本人と管理者に「正しく申告する」ルールをきちんと説明しておく
- 申告された時間と、実際の在社時間(PCログや入退室記録など)にズレがないか、必要に応じて実態を確認する
- 「残業は月◯時間まで」といった運用が、過少申告のプレッシャーになっていないかに気を配る
「在社時間=労働時間」ではない点にも一言
客観的な記録がそろっても、休憩や、業務と関係のない私的な時間まで労働時間に数える必要はありません。記録はあくまで出発点で、必要に応じて実態と照らし合わせて判断します。とはいえ、まずは「記録が残っていること」が土台です。記録がなければ、そもそも照らし合わせる材料がありません。
記録は何年とっておく?
賃金台帳や出勤簿などの労務に関する記録は、労働基準法で保存期間が定められています。法律上は5年間ですが、当分の間は3年間でよいという経過措置がとられています。実務では、最低でも3年、余裕があれば5年を目安に残しておくと安心です。締めたら消す、ではなく「一定期間とっておくもの」と考えておきましょう。
影響:記録があいまいだと、賃金と健康の両面で困る
労働時間の記録があいまいなままだと、次のような場面で困ることがあります。
- 残業代の計算根拠が示せず、あとから「本当はもっと働いていた」と言われたときに確認できない
- 賃金台帳の記載や記録の保存が不十分だと、労働基準監督署の調査で指摘を受けることがある
- 長時間労働の人を見つけられず、健康を守るための面接指導につなげられない
ただ、これは担当者を責める話ではありません。多くの現場は、決してサボっているわけではなく、仕組みが後回しになっているだけです。打刻の仕組みと保存のルールを一度整えれば、毎月の締めはぐっと楽になります。大切なのは、締めてから記憶をたどるのではなく、記録が自動的に残っている状態をつくることです。
明日やること(まずはここだけ)
全部を一度に整える必要はありません。明日できる小さな一歩から始めましょう。
- いま自社が何で労働時間を記録しているか(タイムカード/勤怠システム/手書き)を書き出す。
- その中で、自己申告だけになっている人・部署がないかを確認する。
- 管理監督者や直行直帰の多い人など、記録が薄くなりがちな人がいないかを見てみる。
- 出勤簿・賃金台帳が、少なくとも過去3年分そろっているかを確認する。
これだけで、把握と保存の抜けが見えてきます。
チェックリスト(現場用:最低ライン→優先→代替→免除)
- 最低ライン(ここだけは必ず)
- 労働時間を、タイムカード・勤怠システム・PC記録などの客観的な方法で把握している
- 出勤簿・賃金台帳など、労働時間に関する記録を残している
- 記録を、少なくとも当分の間3年間(目安5年)保存している
- 優先して確認(見落としやすいところ)
- 自己申告だけになっている人がいないか(いる場合、実態確認のルールがあるか)
- 管理監督者・裁量労働の人も、労働時間の状況を把握できているか
- 申告された時間と在社時間(PCログ等)に大きなズレがないかを確認できる
- 残業の上限運用が、過少申告を生んでいないか
- できないときの代替(暫定運用)
- 勤怠システムがない → まずはタイムカードやPCのログイン記録で客観的な時刻を残す
- 全員の実態確認まで手が回らない → まず自己申告の人と長時間になりがちな人から先に確認する
- 免除・簡略化の目安
- 全員がタイムカードや勤怠システムで打刻できている事業場は、あとは記録の保存を続ければ土台は整っている
- 客観的な把握が本当にむずかしい業務のみ、自己申告制を例外として補正措置つきで運用する
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労働時間を正しく記録できると、次は「残業時間が上限を超えていないか」「割増賃金は合っているか」を見る番です。時間外労働の上限規制や36協定の届出、残業代の割増率の計算も、別の記事で一つずつ整理しています。あわせて読むと、勤怠まわりの実務が一通りつながって、毎月の管理がより安心して進められます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、毎月の勤怠チェックの段取りづくりに役立ててください。

労働時間の記録は、一度で完璧な仕組みにする必要はありません。 今日、「客観的な記録が原則」「自己申告は例外」「記録は数年とっておく」という3つが整理できたなら、それだけでもう前に進んでいます。まずは打刻の仕組みと、記録の保存から。あとから確認できる形で残っていれば、月末に慌てる場面はきっと減っていきます。
本記事は一般的な実務情報です。労務・労働時間の取扱いは、個別の事情や法改正、就業規則の定めによって変わります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。