
有期契約の更新・雇止め・無期転換ルールの基本|ひとり労務の整理術
「このパートさん、毎年契約を更新してるけど、もう何年目だろう」。 契約書のファイルをめくりながら、ふとその手が止まることはないでしょうか。有期契約(期間の定めのある契約)は、更新のたびに書類を作り直すだけで精一杯で、「気づいたらずいぶん長い付き合いになっていた」ということが起きがちです。そこへ「5年を超えると無期に変えないといけないらしい」「簡単には契約を切れないと聞いた」という話が耳に入ると、何をいつまでにすればいいのか分からず、不安だけが先に立ってしまいますよね。
まずお伝えしたいのは、有期契約まわりのルールは、「無期転換(5年ルール)」と「雇止め(更新を止めるときの制限)」の2つの軸で整理すると、ぐっと見通しが良くなるということです。どちらも「有期で働く人を、あまりに不安定なまま放置しない」ための仕組みで、根っこは同じ考え方でつながっています。この記事では、更新の基本から通算5年の数え方、雇止めで気をつけること、2024年4月から加わった明示のルールまで、ひとり労務の目線で一つずつ整理していきます。
結論:有期契約で押さえるのは大きく2つです。①無期転換ルール(労働契約法18条)…同じ会社で有期契約が反復更新され、通算5年を超えたとき、労働者は申し込めば次の契約から無期契約に転換できます(契約期間そのものが無期になるだけで、時給や仕事内容が自動で変わるわけではありません)。②雇止めのルール(労働契約法19条)…反復更新でほぼ無期と同じ状態の人や、「更新される」と期待するのが当然な人は、客観的で合理的な理由と社会通念上の相当性がない限り、更新拒否(雇止め)はできません。加えて、更新を3回以上または1年を超えて続けている人を雇止めするときは、少なくとも30日前の予告が必要です。そして2024年4月からは、更新上限の有無・内容と、無期転換の対象者への無期転換の申込機会・転換後の労働条件を、契約時に書面で明示することが義務になりました。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- まず対象者の契約開始日と更新回数を一覧にして、通算年数を数える(5年に近い人がいないか)
- 契約書・労働条件通知書に更新上限と無期転換の明示が入っているかを確認する
- 更新を止めたい人がいる場合は、雇止めができる状況か(予告・理由)を先に確認する
何が起きているか:有期契約には「2つのブレーキ」がかかっている
有期契約は、本来「期間が来たら終わり」がたてまえの契約です。ところが、更新を何度も重ねて長く働いてもらううちに、実態は正社員と変わらないのに立場だけ不安定、ということが起こります。そこで法律は、有期契約に2つのブレーキをかけました。これが無期転換と雇止め制限です。
- 無期転換ルール(労働契約法18条)…同じ会社との有期契約が繰り返し更新されて通算5年を超えると、労働者に「無期契約に変えてください」と申し込む権利(無期転換申込権)が生まれます。本人が申し込むと、会社は断れず、いま結んでいる有期契約が満了した翌日から、無期契約に変わります。ここで大事なのは、変わるのは「契約期間」だけだという点です。正社員に格上げする制度ではないので、賃金・労働時間・仕事内容は、就業規則などで別の定めをしない限り、原則それまでと同じままです。
- 雇止めのルール(労働契約法19条)…「有期だから、更新しなければ自由に辞めてもらえる」とは限りません。(1)反復更新でほぼ無期契約と同じ状態になっている場合や、(2)本人が「更新されるだろう」と期待するのに合理的な理由がある場合は、正社員の解雇と同じように、客観的で合理的な理由と、社会通念上の相当性がないと更新拒否(雇止め)ができません。これを満たさない雇止めは無効となり、契約が更新されたものとして扱われます。
言い換えると、「5年を超えたら本人の意思で無期にできる(18条)」「その手前でも、簡単には更新を止められない(19条)」という二段構えです。どちらも、長く働く有期契約の人を守るための仕組みだと押さえておくと、あわてずに対応できます。
なお「無期転換」は、正社員化やパートの待遇アップとは別の話です。「無期になったから給料を上げないといけない」わけではありません。ここを混同すると必要以上に身構えてしまうので、まずは「期間の定めだけが外れる」と理解しておきましょう。
通算5年の数え方:いつから・どうカウントするか

無期転換でいちばん迷うのが「5年の数え方」です。ポイントを絞ると、次のとおりです。
- 数え始め:2013年4月1日以後に開始した有期契約から通算します。それより前から働いている人も、2013年4月1日以後に始まった契約分をカウントの起点にします。
- 「超えた」で発生:通算契約期間が5年ちょうどではなく、5年を超えたときに無期転換申込権が生まれます。たとえば1年契約なら、5回目までで通算5年、6回目の更新(6年目の契約)に入った時点で、その契約期間中に申し込む権利を持ちます。
- 申し込みは本人から:権利が発生しても、本人が申し込まなければ自動では変わりません。申し込みがあれば会社は断れず、いまの有期契約が満了した翌日から無期契約になります。申込みは口頭でも有効ですが、後の行き違いを防ぐため書面で残すのが安心です。
- クーリング(通算のリセット):契約と契約の間に、契約のない期間(空白期間)が一定以上あると、それより前の期間は通算からリセットされます。原則は6か月以上の空白でリセット(直前の契約期間が短い場合は、それに応じて短い空白でもリセット)。ただし、5年逃れを目的にわざと空白を作る運用は、雇止めの問題にもつながりやすいので慎重に。
具体例で見てみましょう。2020年4月に1年契約で入り、毎年4月に更新している人がいるとします。2020年度から数えて、2024年度で通算5年。2025年4月に始まる契約(6年目)に入った時点で無期転換申込権が発生し、その契約期間中に本人が申し込めば、2026年4月から無期契約になります。「5年経ったら」ではなく「5年を超える契約に入ったら」がスイッチだと覚えておくと、数え間違いを防げます。
2024年4月からの明示ルール:契約書が古いままになっていないか
有期契約を結ぶとき・更新するときは、2024年4月から明示すべき項目が増えています。古いテンプレートを使い続けていると、ここが抜けてしまいます。
- すべての有期契約の人…更新上限の有無と内容(「通算〇年まで」「更新〇回まで」といった上限を設ける場合は、その内容)を明示します。契約の途中で更新上限を新しく設けたり、短くしたりするときは、その理由をあらかじめ説明することも必要です。
- 無期転換申込権が発生する更新のタイミング…その契約を更新する人には、「無期転換を申し込めますよ」という申込機会と、無期転換した後の労働条件を明示します。
つまり、通算5年を超える更新をする人には、更新のたびに「無期に変えられます」と会社側からお知らせする義務がある、ということです。自社の契約書・労働条件通知書に「更新の上限」や「無期転換」に触れる欄がない場合は、厚生労働省のモデル労働条件通知書が新しくなっているので、差し替えを検討しましょう。明示する項目そのものを一つずつ確認したいときは、別記事の「労働条件通知書に明示する事項」で早見表とチェックリストに整理しています。
雇止め:有期でも「更新しない=自由」ではない
「契約期間が終わるから、次は更新しません」。有期契約なら当然できそうに思えますが、ここが実務でいちばん気をつけたいところです。長く更新を重ねた人や、更新を期待するのが当然な状況の人を雇止めするには、正社員の解雇に近い慎重さが要ります。
- 雇止め法理(労働契約法19条):(1)反復更新で実質的に無期契約と変わらない状態、または(2)更新への合理的な期待がある場合、客観的で合理的な理由と社会通念上の相当性がない雇止めは無効になります。無効になると、従前と同じ条件で契約が更新されたものとして扱われます。
- 雇止めの予告(30日前):有期契約を3回以上更新している、または1年を超えて継続して雇用している人を雇止めするときは、契約期間満了日の少なくとも30日前までに、更新しない旨を予告します。本人が理由を求めたときは、雇止めの理由を明示します。
- やってはいけない印象を与える運用:「次も更新するつもり」と受け取れる言動を続けながら急に打ち切る、更新上限を後出しで持ち出す、といった進め方は、更新への期待を高めたと判断されやすく、トラブルの火種になります。
大切なのは、更新を止める可能性があるなら、最初の契約や更新のたびに「更新の有無・判断基準・上限」をきちんと書面で共有しておくことです。あいまいなまま更新を続けるほど、後で止めにくくなります。個別の雇止めの可否は事情によって大きく変わるため、迷う場面では社会保険労務士や労働局・労働基準監督署に相談するのが安全です。
影響:数え間違い・明示漏れは、後から効いてくる
- 通算5年の数え間違い → 無期転換申込権が発生しているのに気づかず、本人からの申込みに慌てる、あるいは「まだ有期のつもり」で雇止めしてトラブルになる、といったことが起きます。まずは対象者の通算年数を正しく把握することが第一歩です。
- 明示漏れ(更新上限・無期転換) → 2024年4月からの義務を満たせていない状態になります。あわせて、「聞いていない」という食い違いや、更新への期待をめぐる争いにもつながりやすくなります。
- 安易な雇止め → 19条により無効と判断されれば、契約が更新されたものとして扱われ、想定外の雇用継続や金銭的な解決を求められることがあります。
- 無期転換への過剰な身構え → 「無期にしたら待遇を大きく上げないと」と誤解して、必要のない負担を見込んでしまうことがあります。転換後の条件は原則それまでと同じ、とまず押さえておきましょう。
こうしたつまずきは、「対象者を一覧化して通算年数を管理する」「契約書の明示欄を最新にする」という2つの型で、その多くを防げます。完璧を一度で目指すより、まず一覧づくりからで十分です。
明日やること(まずはここだけ)
今日いきなり全部を整える必要はありません。まずは現状を「見える化」するところから始めましょう。
- 有期契約者リストを1枚作る:縦に対象者名、横に「契約開始日」「契約期間(1年・6か月など)」「更新回数」「通算年数」「次回更新日」の欄を作り、埋めていく。
- 通算5年に近い人に印をつける:通算4年〜5年超の人をマーク。5年を超える更新に入る人は、無期転換の明示が必要になる候補です。
- 契約書・労働条件通知書の明示欄を確認する:「更新上限」「無期転換の申込機会・転換後の条件」の欄があるか。なければモデル様式への差し替えを検討。
- 更新を止める予定の人がいれば、先に段取りを確認する:更新回数・通算期間・これまでの言動を振り返り、雇止め予告(30日前)や理由明示の要否をチェック。迷えば社労士・労働局へ。
このリストが1枚あるだけで、「誰が・いつ・どの段階か」が一目で分かる状態になります。あとは更新のたびに、リストを見ながら一つずつ確認していくだけです。
チェックリスト(コピーして使えます)
まず現状把握(最低ライン)を片づけ、明示の確認、雇止めの確認へと進む順で使えます。
最低ライン(まず現状把握)
- 有期契約者の一覧(開始日・契約期間・更新回数・通算年数・次回更新日)を作った
- 通算5年に近い人・超えそうな人に印をつけた
- 2013年4月1日以後の契約から通算していることを確認した
- クーリング(6か月以上の空白など)に当たる期間がないか確認した
明示の確認(2024年4月からの義務)
- 契約書・労働条件通知書に「更新上限の有無・内容」の欄がある
- 更新上限を新設・短縮する場合は、あらかじめ理由を説明する運用にしている
- 無期転換申込権が発生する更新時に「申込機会」と「転換後の労働条件」を明示している
- 古いテンプレートを使い回していないか、最新のモデル様式と見比べた
雇止め・更新の運用
- 更新の判断基準(何をもって更新/不更新とするか)を契約書等に書いている
- 更新しない場合、3回以上更新・1年超の人には30日前までに予告する段取りがある
- 本人が求めたときの雇止め理由の明示を用意できる
- 判断に迷う雇止めは、社会保険労務士・労働局・労働基準監督署に相談する先を控えている
よければ、こちらも
有期契約の話は、人を迎えるときの書類とひと続きです。契約時に必ず明示する項目を整理した「労働条件通知書に明示する事項」、2つの書類の役割を整理した「雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分け」、パート・短時間の人の社会保険を整理した「社会保険・雇用保険の加入要件(パート・短時間)」も、別の記事で一つずつ整理しています。あわせて読むと、有期契約の人を迎えてから更新・転換していくまでの流れが、一本の線でつながって見えてきます。印刷して使えるチェックリストはツール一覧にまとめています。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、契約更新の備えに役立ててください。

有期契約のルールは、言葉が難しくて身構えますが、覚えることは多くありません。 「5年を超えたら本人の意思で無期にできる」「その手前でも、簡単には更新を止められない」——この2つの軸さえ手に入れば、もう大きな山は越えています。今日、有期契約者の一覧を1枚作って、通算年数に印をつける。それだけで、次の更新の季節に慌てずに済みます。長く働いてくれている人を、安心して迎え続けられる。その土台を作っているのは、ほかでもないあなたの一つずつの確認です。
本記事は一般的な実務情報です。有期労働契約の更新・無期転換・雇止めの取扱いは、個別の事情や法改正によって変わります。通算期間の数え方・明示事項・雇止めの可否などの最新の要件や個別判断は、厚生労働省・e-Gov等の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署・都道府県労働局など最新の公式情報でご確認ください。