
賞与支払届の書き方と社会保険料の計算|提出は5日以内
「賞与を払い終えてホッとしたのも束の間、そういえば届出があったはず」。 給与計算とは別に、年に一度か二度だけやってくるのが賞与支払届です。回数が少ないぶん、「期限はいつまでだっけ」「保険料はどう計算するんだっけ」と、毎回ゼロから思い出している方も多いと思います。普段ひとりで労務を回していると、賞与の支給準備だけで手一杯で、届出は後回しになりがちですよね。
まずお伝えしたいのは、賞与支払届は支払ったあとに出す、決まった型の手続きだということです。やることは「①標準賞与額を出す → ②保険料を計算する → ③届書に書く → ④支払日から5日以内に出す」の4ステップ。一度この順番を自分のものにすれば、次の冬の賞与も同じ流れで進められます。 この記事では、提出期限から標準賞与額の出し方、保険料の計算、迷いやすい上限や不支給のときの扱いまで、ひとり労務の目線で一つずつ整理していきます。
結論:賞与支払届は、賞与を支払った日から5日以内に、管轄の年金事務所(または事務センター)へ提出します。保険料のもとになるのは、賞与総額の1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」。これに健康保険・厚生年金・介護保険(40歳以上)の各保険料率をかけ、労使で折半したぶんを本人の賞与から控除します。雇用保険料は標準賞与額ではなく賞与総額に料率をかけて控除します。上限は健康保険が年度(4月〜翌3月)累計573万円、厚生年金が1か月あたり150万円。賞与を支給予定だったのに払わなかったときは、代わりに賞与不支給報告書を出します。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 賞与総額から、1,000円未満を切り捨てて標準賞与額を出す
- 健康保険・厚生年金・介護保険・雇用保険の控除額を計算する
- 賞与支払届に各人の支給額・標準賞与額を記入する
- 支払日から5日以内に提出し、控えを保管する
何が起きているか:賞与にも保険料がかかり、その記録を残す手続き
平成15年の総報酬制の導入から、賞与にも毎月の給与と同じように社会保険料がかかるようになりました。賞与支払届は、「誰に・いくら賞与を払い・いくらの標準賞与額になったか」を年金機構に届け出るための書類です。
この届出には、二つの意味があります。
- 保険料を確定させる:届け出た標準賞与額をもとに、その月の健康保険料・厚生年金保険料が計算されます。
- 将来の年金額に反映する:厚生年金では、標準賞与額も将来の年金額の計算に算入されます。賞与の記録は、従業員の年金にもつながっています。
つまり賞与支払届は、ただの事後報告ではなく、保険料と年金の記録を正しく残すための1枚です。だからこそ、金額と期限を落ち着いて確認しておきたいところです。
提出期限:支払日から「5日以内」

賞与支払届で最初に押さえたいのは期限です。提出期限は、賞与を支払った日から5日以内。毎月の給与計算と違って締め日基準ではなく、「支払った日」が起点になる点に注意します。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 賞与の支給準備 | 支給額を確定し、賞与明細を作成。あらかじめ標準賞与額と保険料を試算しておく |
| 賞与の支払日 | 賞与を支給し、本人負担分の社会保険料・雇用保険料・源泉所得税を控除する |
| 支払日から5日以内 | 賞与支払届を提出(電子申請・郵送・窓口のいずれか) |
| 翌月以降 | 年金機構からの納入告知書で、会社負担分とあわせた保険料を納付 |
事業所に「賞与支払予定月」を登録している場合は、予定月が近づくと年金機構から用紙(賞与支払届)が事前に届くことが多いです。届いた用紙には対象者があらかじめ印字されていることがあるので、支払い後にすぐ金額を書き込めるよう、明細づくりの段階で試算まで済ませておくと、5日以内の提出が楽になります。
提出方法は、電子申請(GビズID+届書作成プログラムやe-Gov)・電子媒体・郵送・窓口から選べます。なお、資本金等が1億円を超える法人など「特定の法人」は、賞与支払届などの社会保険手続きで電子申請が義務づけられています(従業員数ではなく法人の規模が基準です)。自社が義務の対象かどうかは、届いた案内か年金事務所で一度確認しておくと安心です。
標準賞与額の出し方:1,000円未満を切り捨てる
保険料のもとになるのは、賞与総額そのものではなく、標準賞与額です。出し方はシンプルで、賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てるだけです。
- 賞与総額 482,500円 → 標準賞与額 482,000円
- 賞与総額 600,000円 → 標準賞与額 600,000円(1,000円未満がないのでそのまま)
ここでいう「賞与」とは、年3回以下支給される、いわゆるボーナスや一時金のことです。労働の対償として支払われるもので、賞与・期末手当・決算手当などが含まれます。
注意したいのが、年4回以上支給されるものの扱いです。同じ名前の手当でも、年4回以上支払われるものは賞与ではなく「報酬」として扱われ、毎月の標準報酬月額(算定基礎届・月額変更届)の対象に入ります。賞与支払届には載せません。「年3回以下か、4回以上か」で行き先が変わる、と覚えておくと迷いません。
保険料の計算:折半するものと、しないもの

賞与から本人負担として控除するのは、次の保険料と税金です。計算のもとになる金額と、折半するかどうかが種類によって違います。
| 種類 | 計算のもと | 本人負担 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 標準賞与額 × 健康保険料率 | 労使で折半(本人は半分) |
| 介護保険料(40〜64歳) | 標準賞与額 × 介護保険料率 | 労使で折半(本人は半分) |
| 厚生年金保険料 | 標準賞与額 × 厚生年金保険料率(18.3%) | 労使で折半(本人は半分) |
| 雇用保険料 | 賞与総額 × 雇用保険料率(本人負担分) | 本人負担分のみ |
| 源泉所得税 | 賞与額 −社会保険料 を基に税額表で算出 | 全額本人 |
健康保険・厚生年金・介護保険は、会社と従業員が半分ずつ負担します。届書に書く保険料は会社負担分も含めた全体ですが、給与(賞与)から差し引くのは本人負担分(折半したぶん)だけです。一方で、雇用保険料は折半ではなく、標準賞与額ではなく賞与総額に本人負担分の料率をかけて控除します。子ども・子育て拠出金は全額会社負担で、本人からは引きません。
保険料率は、健康保険(協会けんぽは都道府県ごと)・介護保険・雇用保険のいずれも、年度や制度改定で変わります。計算の前に、必ずその年度の最新の料率表(協会けんぽ・厚生労働省など)を確認してください。この記事の数値は仕組みを示すための例です。
計算例:賞与50万円のとき、いくら引く?
仕組みを、具体的な数字で通してみます。40歳未満(介護保険なし)・一般の事業の従業員で、賞与総額が500,000円だったとします。料率は説明用の例として、健康保険10.00%・厚生年金18.30%・雇用保険の本人負担0.6%とします。
手順1:標準賞与額を出す 500,000円は1,000円未満がないので、標準賞与額は500,000円。
手順2:健康保険料(本人分) 500,000円 × 10.00% ÷ 2 = 25,000円
手順3:厚生年金保険料(本人分) 500,000円 × 18.30% ÷ 2 = 45,750円
手順4:雇用保険料(本人分) 雇用保険は賞与総額に料率をかけます。 500,000円 × 0.6% = 3,000円
手順5:本人の社会保険料・雇用保険料の合計 25,000 + 45,750 + 3,000 = 73,750円
このあと、賞与額からこの社会保険料等を差し引いた金額を基に、賞与に対する源泉所得税を税額表で計算して控除します。40歳以上であれば、ここに介護保険料(本人分)が加わります。「折半するもの(健保・厚年・介護)」と「賞与総額にかけるもの(雇用保険)」を分けて計算すれば、順番に積み上げるだけで求められます。
上限と、迷いやすいケース
賞与の保険料には上限があり、また実務で迷いやすいケースがいくつかあります。原則を押さえたうえで、例外は「そういう仕組みがある」と知っておけば十分です。
- 健康保険の上限:標準賞与額は、年度(4月1日〜翌3月31日)の累計で573万円が上限です。複数回の賞与で累計が573万円を超えた分には、健康保険料はかかりません。年2回以上賞与を出す会社は、累計の管理が必要になります。
- 厚生年金の上限:厚生年金は、1か月あたり150万円が標準賞与額の上限です(同じ月に複数回支払う場合は合算)。
- 資格喪失月に支払う賞与:退職などで資格を喪失した月に支払った賞与は、原則として保険料がかかりません。ただし、健康保険の年度累計の管理などのために届出が必要になるケースもあるため、退職者へ賞与を払うときは年金事務所に確認すると確実です。
- 育児休業中などの賞与:一定の要件を満たす育児休業期間中は、賞与にかかる社会保険料が免除される場合があります(令和4年10月の改正で、賞与の免除は「連続1か月超の育休」が要件とされました)。該当しそうなときは、要件を最新の公式情報で確認します。
- 賞与を支払わなかったとき:賞与支払予定月として登録しているのに支給しなかった場合は、賞与支払届の代わりに「賞与不支給報告書」を提出します。出し忘れると、年金機構から確認の連絡が来ることがあります。
迷ったときは、その人・そのケースだけを年金事務所に確認すれば大丈夫です。すべてを暗記する必要はありません。
影響:金額や期限のずれが、保険料と年金記録に響く
賞与支払届は回数が少ないぶん、ずれが起きると後から気づきにくい手続きです。
- 標準賞与額の計算を間違える(1,000円未満を切り捨てない、雇用保険を折半してしまう等)→ 本人の控除額や納付額がずれる
- 年4回以上の手当を賞与として届け出る → 本来は報酬(標準報酬月額)の対象で、二重に扱ってしまう
- 提出を忘れる・遅れる → 保険料の確定が遅れ、後でまとめて納付・訂正が必要になる
- 不支給だったのに報告しない → 年金機構から照会が入り、対応に時間がかかる
どれも、標準賞与額の出し方と、5日以内の提出さえ押さえれば防げるものです。ここはスピードより、金額の確認を一つずつ優先したいところです。
明日やること(まずはここだけ)
賞与の時期をいきなり完璧にこなそうとしなくて大丈夫です。今日できる小さな準備から始めましょう。
- 支払予定月の登録を確認する:自社の賞与支払予定月が年金機構に登録されているか、用紙が届く時期はいつかを確認しておく。
- 最新の料率をそろえる:健康保険(自社の都道府県)・厚生年金・雇用保険の、その年度の料率を手元にメモしておく。
- 試算シートを用意する:賞与総額を入れたら標準賞与額と本人負担分が出るよう、簡単な計算シートを作っておくと、支払い後すぐ届出に移れる。
この3つをやっておくだけで、賞与の支払い直後から5日以内の提出までが、ぐっと楽になります。
チェックリスト(コピーして使えます)
賞与支払届のミスを防ぐための確認項目です。
- 対象は「年3回以下」支給の賞与か(年4回以上は報酬として別扱い)
- 標準賞与額は、賞与総額の1,000円未満を切り捨てて出したか
- 健康保険・厚生年金・介護保険(40歳以上)を労使折半で計算したか
- 雇用保険料は「賞与総額」に本人負担分の料率をかけたか
- その年度の最新の保険料率を使ったか
- 健康保険の年度累計573万円・厚生年金の月150万円の上限を超えていないか
- 賞与から控除した社会保険料を基に、源泉所得税を計算したか
- 提出期限(支払日から5日以内)と提出方法を確認したか
- 支給しなかった予定月は、賞与不支給報告書を出したか
- 提出後、控えを保管したか
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賞与支払届は、一度で完璧に覚えようとしなくて大丈夫です。 今日、「標準賞与額は1,000円未満を切り捨てる」「提出は支払日から5日以内」という二つの軸が整理できたなら、もう大きな山は越えています。年に一度か二度の手続きだからこそ、今回つくった試算シートや控えが、次のあなたを助けてくれます。一つずつ、落ち着いて進めていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。社会保険・雇用保険の取扱いは、個別の事情や法改正によって変わります。保険料率や上限額・免除要件など最新の数値・要件は、日本年金機構・協会けんぽ・厚生労働省の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の年金事務所など最新の公式情報でご確認ください。