社長から「来年から締め日を末日にしたい」と相談され、壁のカレンダーを見上げながら移行の段取りを考えている中小企業のひとり労務担当者

給与の締め日・支払日を変更する手順|移行月の払い方と周知のコツ

「経理の都合で、来年から給与の締め日を末日にしたいんだけど、できるよね?」 社長から気軽に相談されて、「たぶん大丈夫です」と答えたものの、あとから手が止まる。移行する月の給料はいつ、いくら払えばいいんだろう。就業規則は直すのかな。従業員にはどう説明しよう——。締め日や支払日は毎月当たり前に回っているぶん、変えるとなると考えることが一気に増えますよね。

まずお伝えしたいのは、締め日・支払日の変更は会社として普通に行える見直しだということです。ただし、移行のしかたを間違えると「その月だけ給料が出ない」「手取りが急に減る」といった形で、従業員の暮らしに直接ひびきます。 この記事では、変更の手続き、移行月の払い方の考え方、社会保険や年末調整への影響、周知のしかたまで、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。一緒に確認していきましょう。

結論:締め日・支払日は就業規則(賃金規程)の絶対的記載事項なので、変更するときは規程を改定し、過半数代表者の意見を聴いて、常時10人以上の事業場なら労働基準監督署へ届け出て、周知するのが基本の流れです(労働基準法第89条・第90条)。いちばん大事なのは移行月の設計で、賃金は「毎月1回以上、一定の期日」に払う原則(労働基準法第24条)があるため、支払いのない月を作らないように、移行期間分を分けて払うなどの工夫をします。支払日が後ろにずれる変更は従業員にとって不利益になりうるので、早めの説明と、必要に応じた前払いなどの配慮もあわせて準備しておくと安心です。

進めるときは、この順番だと迷いにくくなります。

  1. 新しい締め日・支払日と、移行月のカレンダーを紙に書き出す(支払いのない月ができないか確認)
  2. 移行期間の賃金・残業代の計算方法を決める
  3. 賃金規程(就業規則)を改定し、意見聴取・届出・周知を行う
  4. 社会保険・源泉徴収・給与ソフトへの影響を確認する
  5. 従業員に、数か月前から説明する

何が起きているか:締め日と支払日は「暮らしのリズム」そのもの

締め日と支払日は、就業規則に必ず書かなければならない「絶対的記載事項」のひとつです(労働基準法第89条第2号:賃金の計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期)。そのため、運用だけで変えるのではなく、規程そのものを改定する手続きが必要になります。

あわせて押さえておきたいのが、賃金支払の5原則のうちの2つです(労働基準法第24条第2項)。

締め日・支払日の変更で現場がつまずくのは、ほとんどがこの「毎月1回以上」のところです。支払日を後ろにずらすと、カレンダーのどこかに給料の振込が1回もない月が生まれやすいからです。

もうひとつは、従業員の側から見た影響です。家賃やローン、カードの引き落としは、今の支払日に合わせて組まれていることが多いもの。支払日が遅くなるのは、金額が変わらなくても暮らしのやりくりには負担になります。ここは現場でも見落とされやすいところなので、「手続きを正しく」と同じくらい「伝え方をていねいに」を意識しておきましょう。

具体例:「20日締め・当月25日払い」を「末日締め・翌月25日払い」にする場合

これまでの締め日のルール、移行月、これからの締め日のルールの3つの期間を左から順に並べ、移行月にも給料の振込があることを示した概念図
移行月にも「振込」を1回入れておく。支払いのない月を作らないのが、いちばんの要です

よくある例で、カレンダーを書き出してみます。月給30万円の正社員で、10月から新しいルールに切り替えるケースです。

【何も工夫せずに切り替えた場合】

計算期間支払日
8月21日〜9月20日(これまでのルールの最後)9月25日
9月21日〜10月31日(これからのルールの最初)11月25日

この並びだと、10月は給料の支払いが1回もありません。毎月1回以上払いの原則に反するうえ、従業員にとっては「10月はまるごと収入がない」ことになります。

【移行期間を分けて払う場合(例)】

計算期間支払日金額の目安
8月21日〜9月20日(これまでのルールの最後)9月25日30万円(通常どおり)
9月21日〜9月30日(移行期間・10日分)10月25日30万円 × 10日 ÷ 30日 = 10万円
10月1日〜10月31日(これからのルールの最初)11月25日30万円(通常どおり)

移行期間の10日分を10月25日に払うことで、毎月の支払いがつながります。ここでは分かりやすく9月の暦日数(30日)で日割りしましたが、日割りの分母(暦日・所定労働日数・月平均所定日数など)は自社の賃金規程の定めに合わせます。中途入社・退社の日割りと同じ考え方を使うと、社内でルールがぶれません。

ただ、この例でも10月の振込は10万円だけになり、手取りは大きく減ります。そこで、次のような配慮を組み合わせることがよくあります。

このあたりは会社の資金繰りとも関わるので、社長や経理と一緒に決めるのがおすすめです。

ワンポイント:残業代の集計期間も、移行期間(9月21日〜30日)は短くなります。固定残業代(みなし残業手当)がある場合は、移行期間分の手当をどう計算するか(日割りにするか)も、あらかじめ決めて規程の附則に書いておくと、あとで迷いません。また、36協定の「1か月」の起算日を賃金の締め日に合わせている会社は、協定の起算日も見直しが必要か確認しておきましょう。

影響:社会保険・源泉徴収・給与ソフトにも波が届く

締め日・支払日の変更は、給与計算の外側にも影響します。ひとつずつ見れば大丈夫です。

明日やること(まずはここだけ)

一度に全部決めなくて大丈夫です。明日はこの3つだけ。

  1. 今のルールと新しいルールを並べた移行カレンダーを、紙1枚に書き出す(支払いのない月がないかを確認)
  2. 移行期間の日割りの方法を、今の賃金規程(中途入社・退社の日割りの定め)で確認する
  3. 切り替え時期の候補を、4〜6月と12月・1月を避けて2つほど挙げ、社長・経理と相談する

チェックリスト(コピーして使えます)

締め日・支払日を変更するときの確認項目です。

— 時間がないときの「最低ライン版(優先順)」 — 1) 移行カレンダーで支払いのない月がないか確認 2) 移行期間の日割り方法を決める 3) 規程改定・意見聴取・届出 4) 従業員への早めの説明

— 迷ったときの代替 —

よければ、こちらも

規程を直したあとの届出と周知の流れは「就業規則を変更したときの届出と周知の手順」、支払日を遅らせるなど従業員に不利になりうる変更の考え方は「就業規則の不利益変更」にまとめています。移行期間の日割りは「入社・退職月の給与と日割りの考え方」、毎月1回以上払いの原則は「賃金支払の5原則」、算定基礎届の基本は「算定基礎届の書き方と提出スケジュール」もどうぞ。手続きの期限をまとめて確かめたいときは無料チェックリストも使ってください(記事一覧)。

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移行の段取りを説明し終えた会議室で、従業員たちのうなずく様子を見て、ほっとした笑顔を見せる中小企業のひとり労務担当者
移行の段取りが1枚にまとまれば、締め日の変更はこわくない。ていねいに伝えれば、ちゃんと届きます

締め日・支払日の変更は、数字の設定を変えるだけに見えて、実は従業員一人ひとりの「暮らしのリズム」を動かす仕事です。だからこそ、移行カレンダーを1枚作って、支払いのない月がないことを確かめる。それができていれば、もう大きな山は越えています。まずは今日、紙とペンで新旧のカレンダーを並べるところから始めてみましょう。