夕方の事務所で、ノートに今日あった出来事を静かに書き留めながら、次の面談をどう進めるか考えている中小企業のひとり労務担当者

問題社員への注意・指導と記録の残し方|責めずに進める手順

「すみません、また締め切りに間に合いませんでした」。 これで3回目。上司からは「労務のほうから、ちゃんと言っておいてよ」と言われ、本人は悪びれた様子もない——。どう伝えればいいのか、強く言ったらパワハラと言われないか、そもそも何をどこまで記録しておけばいいのか。考えるほど、手が止まってしまいますよね。

ひとりで労務を担っていると、こうした「人」の困りごとは相談相手もいないまま、胸の中にたまっていきがちです。しかも注意する側も、同じ職場で毎日顔を合わせる仲間。気まずさもあります。

先にお伝えしたいのは、注意・指導は「相手を罰する手続き」ではなく、「改善のチャンスを渡す手続き」だということ。その前提に立つと、伝え方も、残す記録も、ずっとシンプルになります。一緒に順番に見ていきましょう。

結論:問題行動への対応は、いきなり処分を考えるのではなく、①事実を確かめる → ②口頭で注意する → ③改善しなければ書面で指導する → ④改善の期限を決めて経過を見るの順で、段階を踏んで進めます。そのたびに「いつ・どこで・何が起きたか・何を伝えたか・本人は何と言ったか・その後どうなったか」を、評価ではなく事実で記録に残します。指導は業務上必要で相当な範囲で行うもので、人格を否定する言葉や、大勢の前での叱責、長時間の詰問はパワハラと受け取られるおそれがあります。記録が積み重なっていれば、改善したときは本人の成長の証になり、改善しなかったときは、懲戒などを検討する際に「会社が改善の機会をきちんと渡してきたか」を示す材料になります(労働契約法第15条・第16条では、処分や解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます)。まずは、いま起きていることを1枚のメモに書き出すところから始めれば十分です。

進める順番は、これだけです。

  1. 起きた事実を、日付と場面つきでメモに書き出す
  2. 本人と1対1(または上司同席)で、事実と期待を短く伝える
  3. 伝えた内容と本人の言い分を、その日のうちに記録する

何が起きているか:「言ったはず」が残らないのが、いちばんつらい

困りごとが繰り返されるとき、現場でよく起きているのは次のような状態です。

ここで困るのは、注意したかどうかではなく、「注意したこと」が形として残っていないことです。記憶だけだと、本人とも社内とも話がかみ合いません。そして、改善のチャンスを渡したことが示せないまま、処分や退職の話が先に進んでしまうと、後から「一度もきちんと言われていない」と争いになりやすくなります。

逆に言えば、段階を踏んで伝え、その都度メモを残しておくだけで、この行き違いのほとんどは防げます。特別な書式も、難しい法律知識もいりません。

注意・指導の段階:いきなり重い手段に進まない

指導は、軽いものから順に段階を踏むのが基本です。段階ごとに「何をして、何を残すか」を整理しました。

注意・指導の段階を、口頭注意・書面指導・改善の確認・専門家への相談の4段で左から右へ矢印でつないだ流れ図
いきなり重い手段に進まず、段階を踏んで改善のチャンスを渡します
段階やること残すもの
①口頭注意事実と、次からどうしてほしいかを短く伝える日付・場面・伝えた内容・本人の言い分のメモ
②書面指導同じことが続いたら、注意の内容と改善してほしい点を書面で渡す渡した書面の控え・渡した日
③改善確認期限(例:1か月)を決め、途中で一度面談して経過を見る面談メモ・改善した点/しなかった点
④相談それでも改善しないとき、懲戒などを考える前に社会保険労務士・弁護士へ①〜③の記録一式

大事なのは、①〜③を飛ばして④の先(処分や退職の話)に進まないことです。とくに、遅刻や報告漏れのように、それだけでは重大とまでいえない行動のときほど、段階を踏んだかどうかが後から見られます。

一方で、暴力・横領・重大なハラスメントのように、ひとつで重大な問題になる行動は、段階を踏む前にすぐ事実確認と専門家への相談に進みます。その場合の流れは「懲戒処分の進め方」に整理しています。

指導記録に書く6項目:事実と評価を分ける

記録は、長い文章でなくて大丈夫です。次の6項目が埋まっていれば十分に役立ちます。

  1. 日時:いつのことか(例:2026年9月24日 10時ごろ)
  2. 場面:どこで、どの業務で(例:週次の売上報告)
  3. 事実:何が起きたか。見たこと・確認できたことだけ(例:締め切りの9時までに報告がなく、10時に上司が確認して未着と分かった)
  4. 伝えたこと:誰が、どんな言葉で、何を求めたか(例:「次回から、間に合わないときは9時前に一言ください」)
  5. 本人の言い分:本人が何と言ったか。反論もそのまま(例:「前日の別件が長引いた」)
  6. その後:改善したか、次にいつ確認するか

ここで気をつけたいのは、事実と評価を混ぜないことです。

評価の言葉は、読む人によって受け取り方が変わります。事実と数字で書いておけば、本人に見せても、社外の専門家に見せても、同じ意味で伝わります。上の例なら「4回中3回」と、数えられる形にしておくと、改善したときにも「4回中0回になった」と前向きに示せます。

本人の言い分を書くのは、公平さのためだけではありません。「別件が長引いた」という言葉から、業務量の偏りや体調の変化が見えてくることもあります。行動の裏に、会社側で直せる原因がないかを確かめる手がかりにもなります。

具体例:報告漏れが続くAさんへの伝え方

入社2年目のAさん。週次の報告が締め切りに間に合わないことが続いています。

①口頭注意(1回目) 上司と1対1で、会議スペースで10分ほど。

「今週の報告、9時の締め切りに届いていなかったので、確認させてください。何かあった?」
(本人の話を聞く)
「そうだったんですね。次からは、間に合わなさそうなときは9時前に一言もらえると助かります」

責める言葉は使わず、起きた事実 → 本人の話 → 次にどうしてほしいかの順で伝えています。終わったら、その日のうちに6項目をメモします。

②書面指導(同じことが続いたとき) 口頭注意のあとも2回続いたら、指導の内容を書面にして渡します。書くのは「起きた事実(日付つき)」「これまでに伝えたこと」「改善してほしいこと」「確認の時期」の4つ。タイトルは「業務改善のお願い」など、落ち着いた言葉で十分です。控えを1部残しておきます。

③改善確認(1か月後) 期限を決めて面談し、改善した点を先に伝えます。「10月は4回とも期限内でしたね。助かっています」。改善していたら、それをきちんと言葉にして記録するのも、指導の大切な一部です。

影響:記録があると、本人にも会社にもやさしい

段階を踏んで記録を残しておくと、次のような違いが出てきます。

そしてもうひとつ。パワハラにしない線引きも、記録を意識するとぶれにくくなります。職場のパワハラは、優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で、就業環境を害するもの、とされています(労働施策総合推進法第30条の2、厚生労働省の指針)。業務上必要な注意・指導そのものはパワハラにはあたりませんが、伝え方しだいで受け取られ方は変わります。

避けたい伝え方置きかえる伝え方
「だからダメなんだ」など人格を否定する「この報告が遅れた」と行動だけを指す
大勢の前で叱る1対1、または上司1名同席の個室で
何時間も問い詰める10〜15分で、要点を絞って伝える
「次やったらクビ」と脅す「次にどうしてほしいか」を具体的に伝える

「記録に書けない言葉は、口にもしない」。これを目安にしておくと、伝え方はほぼ自然に整います。最近は本人が面談を録音していることもありますが、この目安で話していれば、あわてる必要はありません。どこまでが指導の範囲かは「パワハラ防止措置でやること」もあわせて確認できます。

明日やること(まずはここだけ)

いま気になっている人がいても、いなくても、準備はできます。30分あればできることを3つ。

  1. 気になっている出来事を、6項目のメモに書き出してみる:日時・場面・事実・伝えたこと・本人の言い分・その後。分からない項目は空欄のままで大丈夫です。
  2. 「評価の言葉」を「事実の言葉」に言いかえてみる:「だらしない」を「4回中3回が締め切り後」に。1つ言いかえるだけで、伝える言葉も見えてきます。
  3. 上司と「誰が、どこで伝えるか」を決めておく:注意は直属の上司、労務は同席と記録、など役割を分けておくと、ひとりで抱え込まずにすみます。

3つのうち、1つだけでも十分です。メモを1行書いたなら、それでもう前に進んでいます。

チェックリスト(現場で回る最低ラインつき)

「まずこれだけ」で回せる最低ラインと、できればやる確認、間に合わないときの代替を分けました。

よければ、こちらも

段階を踏んでも改善しないときの進め方は「懲戒処分の進め方|検討する前に確認したい手順と根拠」に、伝え方の線引きは「パワハラ防止措置でやること」にまとめています。遅刻・欠勤が続く場合の給与の扱いは「欠勤・遅刻早退控除の計算」、話を聞く場面の進め方は「ハラスメントの事実確認ヒアリング」が参考になります。こじれそうなときは「労使トラブルの初動対応」もどうぞ(記事一覧、無料チェックリスト)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の段取りづくりに使ってください。

明るい事務所で、面談を終えた社員と労務担当者が穏やかな表情で軽く会釈を交わしている様子
伝えて、聞いて、残す。その積み重ねが、人が変わるきっかけになります

注意するのは、誰にとっても気が重い仕事です。でも、何も言わずに周りの不満だけが大きくなっていくほうが、本人にとってもずっとつらいことです。事実を伝え、話を聞き、1枚のメモに残す——それは相手を追い詰めるためではなく、変わるきっかけを、ちゃんと手渡すための準備です。

全部を一度に整えなくて大丈夫。今日は、気になっている出来事をひとつ、6項目で書き出すだけで十分です。言いにくいことに向き合おうとしているあなたの仕事は、その人の働きやすさと、職場の毎日を静かに支えています。


本記事は一般的な実務情報です。注意・指導の進め方や、懲戒・解雇などの可否は、就業規則の定め・問題行動の内容・これまでの経緯によって変わります。処分や退職に関わる判断をする前には、社会保険労務士・弁護士、所轄の労働基準監督署・総合労働相談コーナーなど最新の公式情報でご確認ください。

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