
労務書類の保存期間チェックリスト|捨てていい書類・残す書類の一覧
年度末や引っ越し、キャビネットがいっぱいになったとき。書庫の奥から出てきた古いファイルを前に、手が止まることはありませんか。
「これ、もう捨てていいのかな」。 「でも、あとで労基署に聞かれたら困るし……」。
結局その場では決められなくて、段ボールにガムテープを貼って、また棚の上に戻す。ひとり労務をしていると、この「判断を先送りした箱」がだんだん増えていきます。捨てて困るのは怖いけれど、全部取っておくのも場所がない。どちらも正しい感覚だと思います。
この記事では、労務まわりの書類の保存期間を、根拠になる法律ごとに一覧へ整理しました。あわせて、いちばん迷いやすい「いつから数えるのか(起算日)」と、廃棄までの段取りもまとめています。一度この表を手元に持っておくと、次に箱を開けたときに、その場で判断できるようになります。
結論:労務書類の保存期間は、根拠の法律ごとにバラバラです。ざっくり言うと、労働基準法の書類(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿など)は5年(当分の間3年)、雇用保険の被保険者に関する書類は4年、健康保険・厚生年金の書類は2年、労災保険・労働保険料の書類は3年、税務関係(扶養控除等申告書など)は7年。健康診断個人票は5年です。数え始めるのは「その書類が完結した日」で、多くは退職日や最後に記入した日が起点になります。迷ったら長いほうに合わせて残すのが安全で、実務ではこれで困りません。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 箱やファイルの中身が「どの法律の書類か」を分ける
- 一覧表で保存期間を確認する
- 起算日(いつから数えるか)を決める
- 廃棄していい年月を、箱の外に書いておく
- 期限が来たものだけ、記録を残して処分する
何が起きているか:保存期間が「一本の物差し」で決まらない理由
労務の書類がややこしいのは、一つの部署で扱っているのに、根拠になる法律が5つも6つもあるからです。
労働者名簿や賃金台帳は労働基準法。雇用保険の書類は雇用保険法。健康保険証の手続きの控えは健康保険法。労災の請求書の控えは労災保険法。扶養控除等申告書は所得税法。健康診断個人票は労働安全衛生法。それぞれの法律が、それぞれの都合で保存期間を決めているので、同じ「人事のファイル」なのに、中身によって寿命が違うのです。
もう一つ、最近の変化として押さえておきたいのが、労働基準法の書類が「3年」から「5年(当分の間3年)」に変わったことです。
2020年4月に、賃金の請求権の時効が2年から5年(当分の間3年)に延びました。あとから未払い賃金を請求されたとき、会社側にも当時の記録が必要になります。そこで、記録の保存期間も足並みをそろえて5年(当分の間3年)に改められました。
「当分の間3年」という言い方が独特で、ここが混乱のもとになっています。整理すると、
- 法律の本則は5年
- 当面の運用としては3年でよい(附則でそう定められています)
- ただし、「当分の間」がいつまでかは決まっていない
つまり、3年で処分しても今すぐ違反にはなりませんが、将来5年に切り替わる可能性は残っているという状態です。この記事では、あとで触れるように「実務としては5年で運用しておくと安心」という立場で整理しています。
一覧表:法律ごとの保存期間

代表的な書類をまとめました。まずは自社の棚にあるものを、この表の行に当てはめてみてください。
労働基準法の書類(5年/当分の間3年)
| 書類 | 起算日(いつから数えるか) |
|---|---|
| 労働者名簿 | その人の退職・解雇・死亡の日 |
| 賃金台帳 | 最後に記入した日 |
| 出勤簿・タイムカード・勤怠データ | 最後の出勤日(最後の記載日) |
| 雇用契約書・労働条件通知書の控え | その人の退職・解雇の日 |
| 年次有給休暇管理簿 | 有給を与えた期間が満了した日 |
| 36協定などの労使協定の控え | その協定の有効期間が終わった日 |
| 災害補償に関する書類 | 補償が終わった日 |
「労働関係に関する重要な書類」は幅広く、始末書・退職届・解雇通知の控え・残業命令書なども含まれます。ファイルの名前で判断せず、「その人の働き方や賃金に関わる紙かどうか」で見ると分けやすくなります。
雇用保険の書類(4年/2年)
| 書類 | 期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 被保険者に関する書類(資格取得・喪失の確認通知書、離職証明書の控えなど) | 4年 | 完結の日 |
| 上記以外の雇用保険の届出書類 | 2年 | 完結の日 |
雇用保険は「被保険者に関するもの=4年」「それ以外=2年」の二段構えです。迷ったら4年に寄せておけば問題ありません。
健康保険・厚生年金保険の書類(2年)
| 書類 | 期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 資格取得届・喪失届・算定基礎届・月額変更届・賞与支払届などの控え | 2年 | 完結の日 |
| 被扶養者(異動)届の控え | 2年 | 完結の日 |
意外に思われるかもしれませんが、社会保険の届書の控えは2年と短めです。ただし、後述するとおり、実務上は年金記録の照会などで見返すことがあるため、電子データで長めに残しておく会社が多い部分でもあります。
労災保険・労働保険料の書類(3年)
| 書類 | 期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 労災保険に関する書類(療養補償給付の請求書控えなど) | 3年 | 完結の日 |
| 労働保険の徴収・納付に関する書類(年度更新の申告書控えなど) | 3年 | 完結の日 |
労働安全衛生法の書類(原則5年)
| 書類 | 期間 |
|---|---|
| 一般健康診断個人票・雇入時健康診断個人票 | 5年 |
| ストレスチェックの結果・面接指導の記録 | 5年 |
| 安全委員会・衛生委員会の議事録 | 3年 |
有機溶剤や特定化学物質など、特定の有害業務がある職場では、健康診断個人票の保存期間が30年や40年といった長期になるものがあります。製造や建設の現場を持つ会社では、この部分だけ別扱いにして管理してください(該当があるかどうかは、産業医や所轄の労働基準監督署に確認すると確実です)。
税務関係の書類(7年)
| 書類 | 期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 扶養控除等(異動)申告書 | 7年 | その申告書に関する法定申告期限の翌日 |
| 保険料控除申告書・基礎控除申告書など年末調整の申告書類 | 7年 | 同上 |
| 源泉徴収簿・源泉徴収票の控え | 7年(実務上) | 同上 |
労務の書類のなかで、いちばん長く残すのが税務関係です。年末調整で集めた申告書の束は、翌年1月10日(納期の特例なら1月20日)が納付期限……ではなく、その年分の給与の法定調書などの提出期限の翌日から7年が目安になります。ざっくり「集めた年の翌年1月末から7年」と覚えておけば、まず不足しません。
なお、これらの書類にはマイナンバーが記載されていることが多いはずです。マイナンバーは「法令で定める保存期間を過ぎたら、できるだけ速やかに廃棄・削除する」というルールなので、7年たったら放置せず、きちんと処分するところまでがセットになります。詳しくは「マイナンバーの取得・保管・廃棄」でも整理しています。
いちばん迷うのは「いつから数えるか」
保存期間そのものより、実務でつまずきやすいのが起算日です。「3年」と書いてあっても、どこから3年なのかが分からないと、結局判断できません。
法律の考え方はシンプルで、「その書類が完結した日」から数えます。完結とは、ざっくり言えば「その書類の役目が終わって、もう追記されない状態になった日」です。
具体例で見てみます。
- 2020年4月に入社し、2026年3月末で退職した人の労働者名簿
→ 起算日は退職日の2026年3月31日。入社日ではありません。5年で運用するなら2031年3月末まで。
- 2023年分の賃金台帳(12月分まで記入)
→ 起算日は最後に記入した日、つまり2023年12月分を書き終えた日。5年運用なら2028年末ごろまで。
- 2025年4月1日〜2026年3月31日が有効期間の36協定
→ 起算日は有効期間が終わった2026年3月31日。
ここで大事なのは、「入社した年」で束ねると必ず間違えるということです。人ごとの書類(名簿・雇用契約書・退職届)は退職日ベース、年ごとの書類(賃金台帳・出勤簿・申告書)はその年度の締めベース。この二つを混ぜないだけで、判断がぐっと楽になります。
影響:短く捨てすぎたときと、長く持ちすぎたとき
書類の管理は、どちらに振れても現場に負担が返ってきます。先に知っておくと、判断の基準が持てます。
短く捨てすぎた場合
- 労働基準監督署の調査(臨検)で、賃金台帳や出勤簿の提示を求められたときに出せない
- あとから未払い残業代を請求されたとき、「実際は払っていた」ことを示す記録がない
- 元従業員から「離職票をもう一度」「在職証明を」と頼まれたときに、確認できる資料がない
長く持ちすぎた場合
- マイナンバーや健康診断結果など、機微な個人情報を必要以上に抱え続けることになる
- 書庫のスペースが埋まり、探したい書類が見つからなくなる
- 万一の紛失・漏えいのときに、影響範囲が広がってしまう
どちらも「たまたま何も起きなければ表に出ない」種類の話です。だからこそ、日々の運用でそっと防いでおくのが、いちばん力の要らないやり方だと思います。
実務のおすすめ:労働基準法の書類は「5年」で運用する
先ほど触れた「5年(当分の間3年)」について、現場としてどう扱うか。ひとり労務の負担も踏まえて考えると、最初から5年で運用しておくのが結果的にいちばん楽です。
理由は三つあります。
- 将来「5年」に切り替わっても、そのまま何もしなくていい。3年運用にしていると、切り替わったときに過去分の管理をやり直すことになります。
- 未払い賃金を請求されたときの備えになる。請求できる期間が3年である以上、会社側も同じ3年分の記録を持っていないと、事実関係を確認できません。余裕を見て5年あると安心です。
- 他の書類とそろえられる。健康診断個人票が5年、税務関係が7年なので、「労基は5年、税は7年」の二本立てにすると、覚えることが減ります。
ただし、これは紙で全部残すという意味ではありません。賃金台帳や出勤簿は、給与ソフト・勤怠システムのデータで保存できます(一定の要件はありますが、電子的な保存自体は認められています)。紙は法定の期間で処分し、データは長めに残す——この組み合わせにすると、場所も手間も抑えられます。
具体例:段ボール1箱から始める整理のしかた
いきなり書庫全体を整理しようとすると、まず終わりません。ひとり労務の現実的な進め方は、箱ひとつ単位です。
- 手前の1箱を開けて、中身をざっと3つに分ける(労基の書類/社保・雇用保険の書類/税の書類)
- それぞれの起算日を確認して、この記事の表で保存期間を出す
- 箱の外側に「廃棄可:2031年4月以降/中身:労働者名簿(〜2026年3月退職者)」のように、廃棄していい年月と中身を書く
- 棚に戻す
これだけで、その箱は次に開けたとき3秒で判断できる箱に変わります。今日は1箱でも十分です。半年もすれば、判断待ちの箱はかなり減っています。
余裕が出てきたら、表計算ソフトで「書類名/根拠法/保存期間/起算日/廃棄予定年月/保管場所」の6列の一覧を作っておくと、次の担当者にもそのまま渡せます。引き継ぎのときに、いちばん喜ばれる資料のひとつです。
明日やること(まずはここだけ)
今日いきなり全部を整えなくて大丈夫です。小さな一歩から始めましょう。
- 1箱だけ、中身を見る:書庫の手前にある箱をひとつ開けて、何が入っているかをメモする。
- その箱の廃棄予定年月を書く:この記事の表で保存期間を確認し、箱の外側にマジックで「廃棄可:○年○月以降」と書く。
- 年末調整の束の場所を確認する:扶養控除等申告書はいちばん長い7年です。どこに何年分あるか、置き場所だけ把握しておく。
この3つで、「判断を先送りした箱」がひとつ減ります。
チェックリスト(コピーして使えます)
書類の保存・廃棄で押さえたい確認項目です。
- 書類を「労基/雇用保険/社会保険/労災・労働保険/安全衛生/税」に分けたか
- 労働基準法の書類は5年(当分の間3年)で運用すると決めたか
- 人ごとの書類は「退職日」から数えているか
- 年ごとの書類は「その年度の締め」から数えているか
- 年次有給休暇管理簿を保存対象に入れているか
- 36協定・労使協定の控えを、有効期間の満了後から数えているか
- 雇用保険の被保険者に関する書類(4年)を分けて管理しているか
- 健康診断個人票(原則5年)の保管場所を決めているか
- 有害業務の特殊健診で、長期保存が必要なものがないか確認したか
- 年末調整の申告書類(7年)の保管年数が足りているか
- マイナンバーを含む書類は、期間経過後に廃棄する段取りがあるか
- 箱・ファイルの外側に「廃棄可の年月」を書いてあるか
- 廃棄するときはシュレッダーや溶解処理など、復元できない方法にしているか
- 廃棄した書類の名称・年分・廃棄日を記録に残しているか
- 電子データで残しているものと、紙で残すものを区別できているか
最後の「廃棄した記録を残す」は見落とされがちですが、あとで「あの書類はどこへ?」と聞かれたときに、自分を守ってくれる一行になります。廃棄一覧を1枚作って、日付と担当者名を書いておくだけで十分です。
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書類の保存期間は、覚えるものというより、一度決めて、あとは仕組みに任せるものだと思います。
今日、「労基は5年」「雇用保険は4年」「税は7年」という大きな三つの目盛りが頭に入ったなら、それでもう十分です。あとは箱の外側に年月を書いていくだけで、来年のあなたも、次の担当者も、迷わずに済みます。
判断を先送りしてきた箱があるのは、慎重に仕事をしてきた証拠です。誰かの働いた記録を、勝手に捨てずに残しておこうとしてきた——それは、決して悪いことではありません。今日、その中の1箱に、そっと日付を書いてあげてください。
本記事は一般的な実務情報です。書類の保存期間は、根拠となる法令の改正や、業種・業務内容(有害業務の有無など)によって変わります。最終的な判断は、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署/年金事務所/税務署など、最新の公式情報でご確認ください。