社長から在宅勤務の導入を相談され、就業規則の冊子とノートを机に広げて、何から決めればいいか順番を考えている中小企業のひとり労務担当者

テレワーク規程の作り方|就業規則に定める項目と費用負担の決め方

「来月から、希望者は週2くらい在宅にしようと思うんだけど。ルールって作らなきゃだめ?」

社長からそう言われて、返事に詰まったことはないでしょうか。やってみましょうと言いたい気持ちはある。でも、在宅の日の勤怠はどうつけるのか、自宅のネット代は誰が払うのか、途中で保育園に迎えに行く時間はどう扱うのか——考え出すと決めることが次々に出てきて、手が止まってしまいます。担当が自分ひとりだと、「他社ってどうしてるんだろう」と検索するところから始まりますよね。

まずお伝えしたいのは、テレワークで決めることは、突き詰めると3つしかないということです。誰がやるか、労働時間をどう扱うか、費用を誰が持つか。この3つに線を引ければ、残りは肉付けです。全部をいっぺんに完璧な条文にしなくても、まずはこの3つから始めて大丈夫です。

この記事では、テレワーク規程に何を書くのかを、就業規則との関係も含めて、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。

結論:テレワークを始めるときは、①就業規則本体に「テレワークを行わせることがある。細目は別に定める」という根拠の条文を1つ置く → ②細目はテレワーク規程(別規程)にまとめる、という二段構えが扱いやすいです。規程に必ず入れたいのは、対象者と申請手続/労働時間の扱い(始業終業・休憩・中抜け・時間外の事前許可)/費用負担の3つ。とくに費用負担は、通信費や電気代の一部を働く人に負担させる形にするなら、就業規則(別規程を含む)に定めが必要です(労働基準法89条5号)。労働時間は「通常どおりの所定労働時間で運用する」のがいちばん安全で、事業場外みなし労働時間制(38条の2)は要件が限られるため、安易に選ばないでおきましょう。常時10人以上の事業場なら、テレワーク規程も就業規則の一部として、意見聴取 → 労基署への届出 → 周知が必要です。

進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。

  1. いま実際にどう運用しているか(誰が・週何日・費用は誰が持っているか)を3行で書き出す
  2. 費用の線引きだけ先に決める(通信費・電気代・備品をどうするか)
  3. そのうえで、就業規則本体の根拠条文とテレワーク規程の骨組みを作る

何が起きているか:場所が変わるだけなのに、決めることが増える理由

テレワークは「働く場所が自宅になるだけ」に見えます。でも実務でやることが増えるのは、会社が直接見ていない場所で仕事をしてもらうからです。見えないぶん、あらかじめ言葉にしておかないと判断できないことが出てきます。

具体的には、次の4つが宙に浮きます。

このうち労働時間と費用は、就業規則に書く/書かないの話に直結します

就業規則との関係を、先に整理しておく

就業規則には「必ず書くこと(絶対的記載事項)」と「その制度を設けるなら書くこと(相対的記載事項)」があります。テレワークがどちらに関わるかを見ておきましょう。

決めること就業規則との関係
始業・終業の時刻、休憩時間絶対的記載事項。在宅の日だけ時刻を変えるなら、本体か規程に定めが要る
費用の一部を働く人に負担させる相対的記載事項(89条5号「作業用品その他の負担をさせる定め」)。負担させるなら定めが必要
在宅勤務手当を支給する賃金に関する事項。支給するなら定めが要る
対象者・申請手続・服務規律法律上の必須ではないが、書いておかないと運用でもめる

つまり、「会社が全部負担して、労働時間も通常どおり」なら、規程がなくても違法ではありません。それでも規程を作るのは、あとから判断に迷わないためです。

そのうえで、就業規則本体には根拠を1条だけ置いておきます。文言のイメージはこんな形です。

第○条(テレワーク勤務)
会社は、業務上必要があると認めるときは、従業員に対し、自宅その他会社が認めた場所での勤務(テレワーク勤務)を行わせることがある。テレワーク勤務に関する事項は、別に定めるテレワーク勤務規程による。

この1条があると、規程を直したいときに本体を触らずに済みます。制度が固まりきっていない導入初期ほど、この分け方が効いてきます。

テレワーク規程で決める3つの柱(誰がやるかの対象者、労働時間の扱い、費用の負担)を左中右に並べた概念図
決めることは3つ。対象者・労働時間・費用負担に線を引けば、規程の骨組みはできる

具体例:テレワーク規程の骨組みを、条文の並びで見てみる

ゼロから考えると大変なので、先に並びを決めてしまいます。中小企業で使いやすい形にすると、だいたい次の14条くらいに収まります。

見出し決めておきたいこと
1目的何のための制度か。就業規則の一部であること
2定義在宅勤務/サテライトオフィス勤務/モバイル勤務のどれを認めるか
3対象者勤続期間、職種、自宅の通信環境などの条件
4申請・許可・取消し誰にいつまでに申請し、誰が許可するか。取り消す場合の要件
5勤務場所自宅のみか、実家やカフェも認めるか
6服務規律業務専念、家族への配慮、写り込みへの注意
7労働時間始業・終業時刻。通常どおりか、在宅の日だけ変えるか
8休憩・中抜け途中で抜けた時間の扱いを決める(後述)
9時間外・休日・深夜労働事前許可制にするかどうか
10業務報告・連絡始業終業の連絡方法、日報の要否、連絡がつく時間帯
11費用負担通信費・電気代・備品・消耗品・郵送費の線引き
12給与・手当在宅勤務手当の有無、通勤手当の扱い
13安全衛生・作業環境作業環境の確認、長時間労働への配慮、労災の扱い
14情報セキュリティ端末の貸与、持ち出しの可否、紙資料の扱い

すべてを厚く書く必要はありません。7条・8条・11条の3つだけ具体的に書ければ、残りは1〜2行ずつでも回ります

労働時間:いちばん安全なのは「通常どおり」

在宅だからといって、労働時間のルールが緩くなるわけではありません。労働時間を把握する義務も、割増賃金も、36協定も、出社しているときとまったく同じです。

だから、迷ったら所定労働時間をそのまま適用するのがいちばん安全です。始業9時・終業18時の会社なら、在宅の日も9時から18時。勤怠はクラウド打刻やパソコンのログイン記録で残します。

「在宅の日は自由に時間を使わせたい」という要望が出たときは、フレックスタイム制や時差出勤を別途導入するという道になります。テレワークとフレックスは別の制度なので、混ぜずに考えると整理しやすくなります。

中抜けの扱いは、先に3択から選んでおく

在宅で最ももめやすいのが、「途中で30分だけ抜けたい」というケースです。宅配便の受け取り、子どもの送迎、通院。決めていないと、給与計算のたびに担当者が個別判断することになります。

扱い方は、実務的には次の3つに整理できます。

  1. 休憩時間として扱い、終業時刻を繰り下げる…30分抜けたら、終業を18時30分にする。所定労働時間は確保される
  2. 時間単位の年次有給休暇として扱う…あらかじめ労使協定を結んでおく必要があります
  3. そのまま労働時間として扱う(控除しない)…短時間かつ回数が限られる前提で、会社が認める形

どれが正解ということはありません。大事なのは、どれを採るかを先に決めて、規程に一行書いておくことです。「会社が認めた中抜け時間は休憩時間とし、その時間分、終業時刻を繰り下げる」と書いてあるだけで、毎月の迷いがなくなります。

事業場外みなし労働時間制は、安易に選ばない

「在宅なら、みなし労働時間にすればラクなのでは」と考えたくなるところですが、ここは慎重にいきたいところです。

事業場外みなし労働時間制(労働基準法38条の2)は、労働時間を算定しがたいときに使える仕組みです。厚生労働省のテレワークガイドラインでは、テレワークでこれを適用するには、おおむね次の状態にあることが必要だと整理されています。

チャットツールで即レスを求めている、Web会議で常時つないでいる、その都度細かく指示を出している——こうした運用だと、要件を満たさないと判断される可能性が高くなります。

中小企業の在宅勤務では、通常の労働時間制のまま運用するほうが、結果的にトラブルが少ないというのが実務の感覚です。みなし制を検討するなら、社会保険労務士に実態を見てもらってから決めるのが安心です。

時間外労働は「事前許可制」にしておく

在宅だと、夜に思い出して少し作業してしまう、ということが起こりがちです。ここを放っておくと、あとから「あの時間は労働時間だったのでは」という話になります。

規程には、こう書いておきます。

時間外労働、休日労働および深夜労働を行う場合は、あらかじめ所属長の許可を得なければならない。

ただし、「許可がないから労働時間ではない」とは言い切れない点には注意が必要です。会社が実質的に夜間の作業を求めていたり、黙認していたりすれば、実態として労働時間と評価されることがあります。許可制にしたら、深夜や休日にメールやチャットを送らないという運用もセットにしておくと、制度と実態がそろいます。

費用負担:ここに先に線を引くと、あとがラクになる

在宅勤務では、自宅のネット代・電気代・プリンタのインク代などがかかります。会社が全部持つのか、働く人にも一部持ってもらうのか。ここを決めていないと、数か月後に「ずっと自腹だったんですけど」という声が上がります。

繰り返しになりますが、働く人に負担させる形にするなら、就業規則(テレワーク規程を含む)にその定めが必要です(労働基準法89条5号)。逆にいえば、定めを置いておけば堂々と運用できます。

決め方は、大きく3つです。

決め方内容向いているケース
① 会社が用意するパソコン・モバイルWi-Fi・周辺機器を会社が貸与するいちばん揉めにくい。台数が少ない会社向き
② 実費を精算する業務で使った分を計算して精算する公平だが、毎月の計算の手間がかかる
③ 在宅勤務手当を定額で払う月○円、または在宅1日あたり○円を支給する事務がいちばんラク。金額の根拠は説明できるように

費用項目ごとに整理すると、こんな形になります。

費用項目よくある決め方気をつけたいこと
通信費(自宅の回線)②実費精算 or ③手当私用と業務が混ざるため、按分の考え方を決める
電気代・水道光熱費③手当に含める厳密な切り分けは難しい。手当でまとめる会社が多い
パソコン・モニタ①会社貸与個人所有端末を使わせるなら、セキュリティの定めもセットで
机・椅子①会社貸与 or 補助高額になりやすい。上限額を決めておく
消耗品(用紙・インク)②実費精算領収書の提出方法まで書いておく
郵送費・宅配便②実費精算立替払いの精算ルールを決める

在宅勤務手当と税金の関係

ここは見落としやすいところです。在宅勤務にかかる費用の渡し方によって、給与として課税されるかどうかが変わります

国税庁が公表している在宅勤務の費用負担に関するFAQでは、おおむね次のように整理されています。

通信費や電気料金については、在宅勤務日数や業務に使う部屋の広さなどで按分する考え方が示されています。具体的な計算式は年度によって案内が更新されることがあるので、実際に精算方式を採るときは、国税庁の最新のFAQを一度確認してから社内の計算方法を決めてください。

「手当のほうがラクだけど、課税される」「実費精算は非課税だけど、毎月の計算が大変」——どちらにも一長一短があります。従業員が数人なら実費精算、人数が増えたら手当、という切り替え方も現実的です。

通勤手当をどうするか

在宅が増えると、「定期券代を払い続けていていいのか」という話が出てきます。考え方の整理としては、こうなります。

注意したいのは、通勤手当の支給方法を変えることで受け取る額が減る人が出る場合、労働条件の不利益変更の話になるという点です。切り替えるときは、説明と手続きを踏んでから進めてください(就業規則の不利益変更|同意の取り方と合理性を判断する5つの視点)。非課税限度額の考え方は別の記事で整理しています(通勤手当の非課税限度額と計算のしかた)。

安全衛生と労災:自宅でも会社の責任は続く

働く場所が自宅になっても、会社が従業員の安全と健康に配慮する責任はなくなりません

影響:決めないまま始めると、あとから戻しづらくなる

どれも、始める前に一度決めておけば防げるものばかりです。完璧な規程より、線が引いてある規程のほうが、現場では役に立ちます。

明日やること(まずはここだけ)

一度に全部やらなくて大丈夫です。明日はこの3つだけ。

  1. いまの実態を3行で書き出す…「誰が」「週何日」「費用は誰が持っているか」。すでに在宅をしている人がいるなら、その実態が出発点になります
  2. 費用の線引きだけ決める…通信費・電気代を会社が持つのか、手当にするのか、実費精算にするのか。ここが決まると規程の半分は書けます
  3. 就業規則本体に置く根拠の1条を書いてみる…上に載せた文例をそのまま下敷きにして構いません

この3つがそろえば、社長に「こういう形でどうでしょう」と持っていけます。まだ導入を決めていない段階でも、この3つは無駄になりません。

チェックリスト(コピーして使えます)

テレワークを始めるときに、順番に確かめる項目です。

— 繁忙月でも回る「最低ライン版(優先順)」 — 1) 費用負担の線引きを決めて、1行でも規程に書く 2) 労働時間は通常どおりと決め、中抜けの扱いを1行足す 3) 就業規則本体に根拠の1条を置く 4) 意見聴取 → 労基署への届出 → 周知 を順番に済ませる

— できない時の代替 —

よければ、こちらも

規程を作る前に、そもそも就業規則の作成義務や届出の流れを確かめておきたいときはこちら(就業規則の作成義務(常時10人以上)と届出の流れ)。テレワーク規程は就業規則の一部なので、作ったあとの手続きはこの記事の手順どおりです(就業規則を変更したときの届出と周知の手順)。ほかにどの規程から手をつけるか迷っているときは、優先順位を整理した記事もあります(慶弔・休職など社内規程をそろえる優先順位)。在宅の日の労働時間をどう記録するかは、把握義務の考え方から整理しておくと迷いません(勤怠の客観的な記録と労働時間の把握義務)。

人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、規程まわりの整備に役立ててください。

テレワーク規程を書き終えて、机の上に整えた書類を前に肩の力が抜けて穏やかにほほえんでいる中小企業のひとり労務担当者
3つに線を引けたら、もう半分は終わっています。あなたのその一手間が、働く人の毎日を守ります

テレワークの制度づくりは、「どこまで決めればいいのか分からない」という不安との戦いになりがちです。他社の立派な規程を見ると、自社のメモ書きが頼りなく思えてくる。その気持ち、よく分かります。

でも、規程は自社の運用を言葉にしたものです。他社の条文をそのまま持ってきても、自社の実態と合っていなければ、結局使われません。逆に、対象者・労働時間・費用負担の3つに線が引けていれば、条文が短くても現場は回ります。

覚えておくのは、「対象者・労働時間・費用負担」の3つだけで大丈夫です。今日この3つが頭に入ったなら、明日は費用の線引きを決めるところから始められます。制度は、走らせながら整えていくものです。急がなくて大丈夫。まず一枚、書き出してみましょう。


本記事は一般的な実務情報です。テレワークの制度設計や費用負担の扱い、労働時間制度の選択は、業種・職種・実際の働き方によって適切な形が変わります。また税務上の取扱いは、国税庁の案内が更新されることがあります。実際に導入するにあたっては、社会保険労務士・税理士や、所轄の労働基準監督署・税務署の最新の案内を確認のうえ、必要に応じてご相談ください。

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