
労災の療養・休業給付の請求手続き|流れと様式をやさしく整理
「作業中に手をケガして、病院に行くみたいです」。 現場からそんな連絡が入ると、まず心配になるのは本人の体のことですよね。そして少しして、「治療費はどうなる」「休む間の給料は」「会社は何を届け出るんだっけ」と、いくつもの不安が一度に押し寄せてくると思います。労災の手続きは、ふだんそう何度もあるものではないので、いざというとき戸惑って当然です。
仕事中や通勤中のケガ・病気は、健康保険ではなく労災保険(労働者災害補償保険)でみます。治療費を支える療養(補償)給付と、休んだ間の生活を支える休業(補償)給付が中心です。請求するのは基本的に本人ですが、請求書には会社(事業主)の証明が必要なので、ひとり労務であるあなたの動きがとても大切になります。この記事では、どの様式を使うのか・いつから支給されるのか・会社は何を届け出るのかを、あわてず順番に確認していきましょう。
結論:まず押さえるのは次の3つです。①治療費(療養)は、労災指定の病院なら窓口負担なし(本人は原則お金を払わずに治療を受けられます)。指定病院に「様式第5号(通勤災害は第16号の3)」を出すのが基本で、指定外の病院で立て替えたときは「様式第7号(通勤は第16号の5)」で後から払い戻しを受けます。②休業補償は、療養のため働けず給料が出ない日について、連続3日の待期のあと4日目から支給され、金額は給付基礎日額のおよそ8割(休業補償給付6割+休業特別支給金2割)が目安です。③会社は、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署へ提出します(休業4日以上は遅滞なく、4日未満は3か月ごとにまとめて)。まずは「本人が今、労災指定の病院にかかれているか」を確認するところから始めれば大丈夫です。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 業務中・通勤中のケガ/病気かを確認し、まず健康保険ではなく労災で受診してもらう(できれば労災指定病院へ)
- ケガの状況に合わせて、療養・休業それぞれの請求書(様式)を選び、会社の証明欄を記入する
- 会社として「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出する
何が起きているか:仕事中・通勤中のケガは「健康保険ではなく労災」

労災保険は、仕事が原因のケガ・病気(業務災害)と、通勤の途中で起きたケガ・病気(通勤災害)を対象にした、国の保険制度です。パート・アルバイトを含め、雇っている人が1人でもいれば原則として全員が対象になります。
ここで最初に気をつけたいのが、「健康保険を使わない」という点です。仕事中や通勤中のケガで病院にかかるときは、健康保険証(マイナ保険証)ではなく労災として受診します。とっさに健康保険を使ってしまうと、あとで健康保険から労災へ切り替える手間が発生します。現場には「まず労災の病院で、労災として診てもらってね」と、ひとこと伝えられると安心です。
業務災害と通勤災害の呼び方:労災の給付は、業務災害だと「療養補償給付」「休業補償給付」、通勤災害だと「療養給付」「休業給付」と、名前が少し変わります(この記事では両方をまとめて「療養(補償)給付」「休業(補償)給付」と書いています)。使う様式の番号も分かれるので、まず「業務中か・通勤中か」を最初にはっきりさせると、あとの書類選びがスムーズです。
具体例:療養と休業、それぞれの様式と支給の考え方

治療費をみる「療養(補償)給付」は、かかった病院が労災指定かどうかで手続きが変わります。
- 労災指定の病院・薬局にかかったとき:本人は窓口でお金を払わずに治療を受けられます。病院に「療養(補償)給付たる療養の給付請求書(業務災害は様式第5号、通勤災害は様式第16号の3)」を提出します。この請求書には会社の証明欄があるので、ひとり労務が記入して本人に渡すか、病院経由で提出します。
- 労災指定でない病院にかかったとき:いったん本人が治療費を立て替え、あとから「療養(補償)給付たる療養の費用請求書(業務災害は様式第7号、通勤災害は様式第16号の5)」で払い戻しを受けます。領収書が必要になるので、本人に「捨てずに取っておいてね」と伝えておきましょう。
休んだ間の生活をみる「休業(補償)給付」は、①療養のため働けない、②そのため給料を受けられない、③その状態で休んでいる、という日について支給されます。ポイントは支給のタイミングと金額です。
- 待期3日間:休み始めの連続する3日間は「待期」で、労災保険からの休業(補償)給付は出ません。4日目から支給の対象になります。
- 金額の目安:1日あたり 給付基礎日額 × 60%(休業補償給付)+ 給付基礎日額 × 20%(休業特別支給金)。合わせて給付基礎日額のおよそ8割が支給の目安です。
- 給付基礎日額とは、ざっくり言うと「事故が起きた日の直前3か月の賃金総額 ÷ その期間の暦日数」で求める、1日あたりの賃金相当額(労働基準法の平均賃金にあたる額)です。
- 使う様式は「休業(補償)給付支給請求書(業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6)」で、会社の証明欄と、医師の証明欄があります。
たとえば給付基礎日額が1万円の人が、待期明けに10日間休んだ場合、1万円 × 80% × 10日 = 約8万円が休業(補償)給付+特別支給金の目安です(あくまで概算で、実際の額は労働基準監督署が決定します)。
待期3日間の「会社の休業補償」に注意:業務災害の場合、労災が出ない最初の3日間について、会社が労働基準法にもとづき平均賃金の60%を休業補償する必要があります(労働基準法第76条)。一方、通勤災害には、この3日間の会社の補償義務はありません。ここは業務か通勤かで扱いが分かれるところなので、待期3日をどうするかは最初に確認しておくと安心です。
影響:会社の証明と「労働者死傷病報告」が欠かせない
労災の請求で、ひとり労務が担う中心的な役割は2つです。ひとつは各請求書(様式第5号・第8号など)への事業主の証明、もうひとつは「労働者死傷病報告」の提出です。
請求書の会社欄には、災害の発生状況や、その人の賃金・勤務の状況などを書きます。ここが実際の勤怠・賃金とずれていると審査で差し戻しになり、本人への支給が遅れてしまいます。療養で不安な本人を待たせないためにも、事実をそのまま正確に書くことが何よりの支えになります。
そしてもうひとつ、請求とは別に会社が労働基準監督署へ出すのが「労働者死傷病報告」です。これは労働者が労働災害で死亡・負傷して休業したときに、会社が状況を報告する書類で、提出のタイミングが休業日数で変わります。
- 休業が4日以上になったとき:様式第23号を、遅滞なく提出します。
- 休業が4日未満のとき:様式第24号で、その四半期分をまとめて(1〜3月分は4月末までに、というように四半期ごとに)提出します。
労働者死傷病報告は電子申請が原則に:労働者死傷病報告は、2025年(令和7年)1月から、原則として電子申請(労働基準関係の電子申請システム)による提出に変わりました。様式もこれに合わせて新しくなっています。手続きの前に、厚生労働省や所轄の労働基準監督署の最新の案内で、いまの提出方法・様式を確認しておくと確実です。なお、労災の給付を受けたことを理由に、うその報告をしたり報告を怠ったりする「労災かくし」は、法律で禁じられています。ケガは誰にでも起こりうること。隠さず正しく報告することが、結局は会社と本人の両方を守ります。
請求書の提出先や証明は、健康保険の傷病手当金とよく混同されます。業務外の病気・ケガは健康保険の傷病手当金、業務中・通勤中は労災、という切り分けをまず思い出してください。傷病手当金のしくみは「傷病手当金の申請の流れ|条件・待期・金額をやさしく整理」で確認できます。
明日やること(まずはここだけ)
一度に全部を進めようとしなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。
- 業務中か・通勤中かをはっきりさせる:いつ・どこで・どんな作業(または通勤経路)で起きたかを、本人に聞いてメモにする。これで使う様式が業務用か通勤用か決まります。
- 本人が「労災として」受診できているか確認する:できれば労災指定の病院を案内し、健康保険を使っていないか(使っていたら切替が必要)を確かめる。領収書は取っておくよう伝える。
- 様式を用意して、会社の証明に使う資料をそろえる:厚生労働省のサイトから最新の請求書様式を入手し、勤怠記録・賃金台帳(給付基礎日額の計算に使う直前3か月分)を手元に整理しておく。
この3つだけでも、請求の骨組みができます。本人にも「治療費は労災でみること」「休業は4日目から支給されること」を伝えておくと、療養に専念してもらいやすくなります。
チェックリスト(コピーして使えます)
労災の手続きでつまずかないための確認項目です。
- ケガ・病気が業務中か通勤中か(=業務災害か通勤災害か)を確認したか
- 健康保険ではなく労災として受診できているか(健保を使っていたら切替)
- 治療費は、労災指定病院なら様式第5号(通勤は第16号の3)を用意したか
- 指定外の病院で立て替えたら、領収書を保管し様式第7号(通勤は第16号の5)で費用請求するか
- 休業補償は待期3日のあと4日目から・給付基礎日額の約8割と本人に伝えたか
- 休業の請求は様式第8号(通勤は第16号の6)で、会社と医師の証明欄を確認したか
- 業務災害は、待期3日について会社が平均賃金の60%を休業補償する点を確認したか
- 会社として労働者死傷病報告(休業4日以上は様式第23号を遅滞なく/4日未満は様式第24号を四半期ごと)を提出したか
- 請求書の会社証明が、勤怠記録・賃金台帳と一致しているか
よければ、こちらも
労災は、休職や復職の対応と地続きになることがあります。長く休む人を支える段取りは「休職・復職支援の進め方|メンタル不調対応ガイド」が役立ちます。業務外の病気・ケガとの切り分けは「傷病手当金の申請の流れ|条件・待期・金額をやさしく整理」で確認でき、金額の土台になる考え方は「標準報酬月額の決まり方をやさしく整理」もあわせてどうぞ。退職がからむときは「退職手続きの流れ|離職票・資格喪失・源泉徴収票の段取り」を、1年の提出物や手続きを見渡したいときは「ひとり労務の年間スケジュール」を見ると、休みや手続きが一本の線でつながって見えてきます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の手続きの段取りに役立ててください。

労災の手続きは、めったに使わないぶん、いざというとき誰でも身構えます。でも、やることを「業務か通勤かを分ける」「労災で受診してもらう」「様式をそろえて証明する」「労働者死傷病報告を出す」に分けてしまえば、ひとつずつ進められます。手続きの主役は本人でも、会社の証明という大事な一手を担えるのは、あなたです。今日、発生状況をメモして、様式を1枚用意しただけでも、ケガをした人の不安をひとつ減らしています。一度に完璧にしようとしなくて大丈夫。制度を知って、隣で請求を支えようとしているその姿勢が、もう働く人の支えになっています。
本記事は一般的な実務情報です。労災保険給付の要件・金額・請求方法や、労働者死傷病報告の様式・提出方法は、個別の事情や法改正によって変わることがあります。具体的な給付内容や手続きは、厚生労働省・所轄の労働基準監督署の最新の案内でご確認のうえ、判断に迷う場合は社会保険労務士など公式の窓口にご相談ください。