6月末の事務所で、前年度の賃金台帳と労働保険の年度更新の申告書を並べて賃金総額を確認している中小企業のひとり労務担当者

労働保険の年度更新のやり方と提出期限|ひとり労務の徹底ガイド

「6月になると、役所から緑色の封筒が届いて、そういえば年度更新の季節だと気づく」。 毎年のことなのに、前年度いくら払っていたのか、今年はどう見積もるのか、賃金総額に何を入れるのか——一つずつ思い出しながら進める、そんな6月の終わりがあると思います。普段ひとりで労務を回していると、「去年はどうやったっけ」と過去の控えを探すところから始まることもありますよね。

まずお伝えしたいのは、労働保険の年度更新は毎年決まった型で進む手続きだということ。やることは「①前年度に実際に払った賃金を集める → ②確定保険料を計算して精算する → ③今年度の賃金を見積もる → ④概算保険料を計算する → ⑤差額を出して7月10日までに申告・納付する」の5ステップです。この記事では、提出期限から申告書の考え方、迷いやすい賃金総額の範囲、延納(分割納付)の期日まで、ひとり労務の目線で一つずつ、現場で回る形に整えます。

結論:労働保険の年度更新は、毎年6月1日〜7月10日に、前年度(4月1日〜3月31日)に実際に支払った賃金をもとに確定保険料を精算し、あわせて今年度の見込み賃金から概算保険料を申告・納付する手続きです。対象は労災保険料と雇用保険料をあわせた「労働保険料」。前年に納めた概算保険料と、確定した保険料の差額を今年度の概算に足し引きして納めます。概算保険料が40万円以上(労災・雇用のどちらか一方のみ成立なら20万円以上)、または労働保険事務組合に委託している場合は、3回に分けて納める延納も選べます。迷ったら「確定(去年の実績) → 概算(今年の見込み) → 差額の精算」の順で当てはめれば大丈夫です。

進める順番は次のとおりです。

  1. 前年度(4/1〜3/31)に支払った賃金総額を、労災・雇用それぞれの対象で集計する
  2. 賃金総額に保険料率を掛けて「確定保険料」を出し、前年の概算との差額を精算する
  3. 今年度の賃金総額を見積もり、「概算保険料」を計算する
  4. 確定の精算分と概算を合わせた「今年度の納付額」を申告書にまとめる
  5. 7月10日までに申告・納付する(要件を満たせば延納で3回に分けてよい)

何が起きているか:1年分の保険料を「後払いで精算し、先払いで見積もる」手続き

労働保険料は、毎月の給与から都度計算して納めるのではなく、1年分をまとめて「先に概算で納め、あとで実績に合わせて精算する」しくみになっています。そのため年度更新では、二つの計算を同時に行います。

「労働保険」は、業務中や通勤中のけがに備える労災保険と、失業や育児休業などに備える雇用保険の総称です。年度更新は、この二つの保険料をまとめて精算します。

保険料率は事業の種類によって決まっており、労災保険率は業種ごとに、雇用保険率は「一般の事業/建設/農林水産・清酒製造」などの区分ごとに定められています。料率は年度によって改定されることがあるため、今年度の正確な率は、届いた申告書の同封資料か厚生労働省の最新の公式情報でご確認ください。

提出スケジュール:6月の準備から7月10日の申告・納付まで

6月の申告書到着と賃金集計から7月10日の申告納付、延納なら10月・翌1月の分割納付までを左から右へ並べた年度更新のスケジュール図
6月に下ごしらえ、7月10日までに申告・納付。要件を満たせば延納で3回に分けられる
時期やること
6月上旬労働局から年度更新の申告書一式(緑色の封筒)が届く。事業所の情報や前年度の概算保険料が印字されていることが多い
6月上旬〜下旬前年度(4/1〜3/31)の賃金台帳から、労災・雇用それぞれの対象者の賃金総額を支払ベースで集計
6月下旬〜7月初旬確定保険料・概算保険料を計算し、申告書に記入(電子申請なら入力)。一般拠出金(石綿健康被害救済分)も確定賃金総額から計算
7月10日まで申告書を提出し、保険料・一般拠出金を納付。10日が土日祝なら翌開庁日まで
(延納を選んだ場合)10月・翌1月第2期・第3期の分割分を各納期限までに納付
提出方法は、①電子申請(e-Gov・GビズID)、②金融機関の窓口(申告書+納付書を一緒に)、③労働基準監督署・労働局の窓口、④郵送、から選べます。資本金等が一定規模以上の特定の法人は電子申請が義務づけられている手続きがあります。自社が対象かは届いた案内で確認を。

賃金総額に入れるもの・入れないもの

保険料のもとになる「賃金総額」には、労働の対償として支払ったものを広く含めます。臨時のものや実費弁償的なもの、労働の対償でないものは含めません。ここは確定・概算の金額を左右する大事なところです。

賃金総額に含めるもの賃金総額に含めないもの
基本給、各種手当(役職・職務・家族・住宅など)退職金、結婚祝金・見舞金など臨時・恩恵的なもの
残業手当(時間外・休日・深夜)出張旅費・宿泊費など実費弁償的なもの
賞与(年何回でも賃金として算入)傷病手当金・労災の休業補償など保険給付
通勤手当(定期券・現物を含む)役員報酬(労働者性がない役員分)
賃金として支払う現物給与(規定の価額で換算)制服・作業着など業務に必要な現物の支給
労災と雇用で「対象になる人」が違うため、賃金台帳は労災用(全員)雇用用(被保険者のみ)で集計を分けると迷いにくくなります。役員でも、部長職などを兼ね労働者性が認められる「兼務役員」の労働者分の賃金は算入対象になることがあります。判断に迷う人がいれば、労働局・監督署に確認すると安全です。

延納(分割納付):まとめて払うか、3回に分けるか

概算保険料が40万円以上などの要件を満たすと保険料を第1期第2期第3期の3回に分けて納付できることを示す概念図
概算保険料40万円以上(一方のみ加入は20万円以上)か事務組合委託で、3回の分割納付を選べる

概算保険料の額が大きいと、7月に全額を納めるのは資金繰りの負担になります。そこで、次のいずれかに当てはまれば、概算保険料を3回に分けて納める延納が選べます。

分割したときの各期の納期限のイメージは次のとおりです(年によって前後し、口座振替を使う場合はさらに後ろの日付になります。正確な期日は申告書同封の案内でご確認ください)。

対象のイメージ納期限の目安
第1期4月〜7月分7月10日(申告と同時)
第2期8月〜11月分10月末ごろ
第3期12月〜翌3月分翌年1月末ごろ
なお、確定保険料の精算による不足分は延納の対象外で、第1期とあわせて納めるのが原則です。延納できるのは今年度の概算保険料部分だと覚えておくと、金額の内訳が整理しやすくなります。

具体例:確定と概算を精算して納付額を出すまで

考え方をつかむための簡単な例です(率は説明用の仮の数字。実際は今年度の正しい労災率・雇用保険率を使ってください)。

項目金額
前年度に実際に支払った賃金総額20,000,000円
前年に納めた概算保険料280,000円
今年度の見込み賃金総額20,000,000円(前年並みと見込む)

金額そのものより、「去年の実績で精算し、今年の見込みを先払いする」という二本立ての構造さえつかめれば、申告書の数字が何を意味しているかが見えてきます。

影響:ここを外すと、追加徴収や差し戻しにつながりやすい

賃金総額の範囲と対象者の仕分けを丁寧にすれば、大きな取り違えは防げます。慌てず、確定と概算を分けて数字を並べるのが近道です。

明日やること(まずはここだけ)

  1. 申告書の封筒を開けて、締切と印字内容を確認する:前年度の概算保険料額、事業所情報、同封の「書き方」資料を先に見る。
  2. 前年度の賃金台帳を、労災用(全員)と雇用用(被保険者)で集計し始める:4月分から順に、支払ベースで賃金総額を積み上げる(賞与・通勤手当を漏らさない)。
  3. 去年の控えを開く:記入箇所・提出方法・延納の有無を確認し、今年の下ごしらえに活かす。

小コラム:電子申請とキャッシュレス納付で時短する

チェックリスト(コピーして使えます)

基本の確認

最低ライン(時間がないときはこの5点で可) 1) 前年度の賃金総額を労災・雇用で分けて集計(賞与・通勤手当を漏らさない) 2) 今年度の正しい料率を公式情報で確認 3) 確定の精算(不足/充当)+今年度の概算を計算 4) 一般拠出金を忘れずに合算 5) 7月10日までに申告・納付(延納を使うなら第1期を納付)

できない場合の代替

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労働保険の年度更新と同じ「毎年決まった時期に来る手続き」として、社会保険の算定基礎届の書き方と提出スケジュール、そして1年の提出物を見渡すひとり労務の年間スケジュール&提出物チェックリストも、別の記事で一つずつ整理しています。あわせて読むと、6月〜7月にやることが季節ごとにつながって見えてきます(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、毎月・毎年の段取りづくりに役立ててください。

労働保険の年度更新を申告し終え、整理された賃金台帳と控えを前に肩の力が抜けて穏やかにほほえむ労務担当者
確定と概算に分けて数字を並べれば大丈夫。来年の年度更新が、きっと少し軽くなります

労働保険の年度更新は、一度で完璧に覚えようとしなくて大丈夫です。 今日、「前年度の実績で精算する(確定)」と「今年度の見込みを先払いする(概算)」という二つの軸が整理できたなら、もう大きな山は越えています。今年つくった控えや集計メモが、来年のあなたを助けてくれます。ひとつずつ、落ち着いて進めていきましょう。


本記事は一般的な実務情報です。労働保険の取扱いは、個別の事情や法改正によって変わります。労災保険率・雇用保険率・延納の納期限・一般拠出金など最新の数値・要件は、厚生労働省・都道府県労働局の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は社会保険労務士・所轄の労働基準監督署など最新の公式情報でご確認ください。

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