再雇用で給与が下がった従業員の賃金台帳とハローワークの申請書を机に並べ、高年齢雇用継続給付の対象になるかを一つずつ確認している中小企業のひとり労務担当者

高年齢雇用継続給付の要件と申請|2025年の改正もやさしく整理

「再雇用で給与を下げたけど、雇用保険から何か出るって聞いたような……」。 定年後も働き続ける社員の給与明細を見ながら、ふと手が止まりませんか。名前は聞いたことがあるけれど、誰が対象で、いくら出て、いつ何を出せばいいのかが、いまひとつはっきりしない。しかも数年に一度しか出てこない手続きなので、そのたびに調べ直している気がしますよね。制度も見直しが続いていて、「昔調べたときと同じでいいのか」も気になるところです。

まずお伝えしたいのは、この給付は「①対象になる人か」「②いくらか」「③いつ何を出すか」の3つに分けると、驚くほどすっきりするということです。判定に必要な材料は、ほとんど手元の賃金台帳の中にあります。 この記事では、高年齢雇用継続給付の対象になる条件から、2025年4月に変わった支給率、初回と2回目以降の申請の周期、年金との関係、明日できる準備まで、ひとり労務の目線で順番に整理していきます。

結論:高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者で、被保険者だった期間が通算5年以上あり、60歳到達時などの賃金に比べて各月の賃金が75%未満に下がったときに、雇用保険から本人へ支給される給付です。実務では、(1)低下率が75%未満かを賃金台帳で判定する、(2)支給率は「60歳に達した日がいつか」で変わる(2025年4月1日以降に60歳になる人は上限10%)、(3)初回は最初の支給対象月の初日から4か月以内、以後は2か月ごとにハローワークへ申請する、の3つを押さえます。会社の義務ではなく本人のための給付ですが、申請は会社経由で行うのが一般的です。まずは対象になりそうな人がいるかどうか、名簿を眺めるところから始めれば大丈夫です。

進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。

  1. 60歳以上65歳未満で、賃金が下がった社員がいるか確認する
  2. 雇用保険の被保険者期間が通算5年以上あるかを確認する
  3. 60歳到達時などの賃金と、いまの各月の賃金を比べて低下率を出す
  4. 60歳に達した日から、適用される支給率の上限(15%か10%か)を確認する
  5. 初回の申請書類をそろえ、期限内にハローワークへ提出する

まずはここを確認:対象になる人の3つの条件

60歳前の賃金に比べて再雇用後の賃金が下がり、その差を雇用保険の給付が一部補うことを、賃金の高さの比較で示した概念図
前の賃金より75%未満に下がったかを見る。下がった分の一部を給付が補う

高年齢雇用継続給付には2種類ありますが、中小企業でよく出てくるのは高年齢雇用継続基本給付金のほうです(もう一つは後半で触れます)。対象になるのは、次の3つをすべて満たす人です。

言い換えると、「60歳を過ぎて、長く雇用保険に入っていて、給与が4分の3を下回るまで下がった人」です。定年後の再雇用で勤務日数や役割が変わり、給与が下がったケースが典型例です。

低下率の出し方はシンプルです。

支給対象月の賃金 ÷ 60歳到達時等の賃金月額 × 100(%)

たとえば、60歳到達時の賃金月額が40万円、再雇用後の月給が22万円なら、22万円 ÷ 40万円 × 100 = 55%。75%を下回っているので、対象になります。30万円なら 30万円 ÷ 40万円 × 100 = 75%ちょうどで、これは「75%未満」に当たらないため対象外です。「75%未満」であって「75%以下」ではないところが、地味に間違えやすいポイントです。

なお、その月に病気やケガ、休業などで賃金が支払われなかった・少なかった場合は、支払われたとみなす賃金(みなし賃金)で判定します。単純に「その月の支給額が少ないから対象」とはならないので、休みが多かった月は注意して見ましょう。

何が起きているか:2025年4月から支給率の上限が下がった

ここが、いま一番おさえておきたい変更点です。

高年齢雇用継続給付は、段階的に縮小していく方針が示されており、2025年(令和7年)4月1日以降に60歳に達する人から、支給率の上限が引き下げられました。

60歳に達した日支給率の上限上限率が適用される低下率
2025年3月31日まで賃金の15%低下率 61%以下
2025年4月1日以降賃金の10%低下率 64%以下

上限率に届かない範囲(低下率が上限のラインを超えて75%未満まで)では、下がり方が小さいほど支給率も小さくなるよう、率が段階的に逓減します。この逓減部分は計算式が複雑なので、ハローワークが公開している支給率の早見表で確認するのが確実です。

先ほどの例で見てみましょう。60歳到達時の賃金月額40万円、いまの月給22万円(低下率55%)の人が、2025年4月1日以降に60歳になったとします。低下率が64%以下なので上限率10%が適用され、22万円 × 10% = 22,000円が、その月の支給額の目安になります(支給限度額などによる調整が入る場合を除く)。

実務で気をつけたいのは、社員ごとに「60歳に達した日」が違うということです。同じ会社に対象者が2人いても、一方は15%、もう一方は10%ということが起こります。「前に調べたときの率」を使い回さない——ここだけ気をつけておけば大丈夫です。

金額の上限・下限は毎年8月1日に見直される

もう一つ、毎年やってくる確認事項があります。この給付には次の枠が設けられていて、毎年8月1日に改定されます。

金額は毎年変わるため、この記事では具体的な数字は書きません。ちょうどこれから8月を迎える時期なので、新しい額が出たらハローワークのページで最新版を確認しておくと、秋以降の申請で慌てずに済みます。年に一度、8月に見直す——そう覚えておくと、取りこぼしにくくなります。

申請の流れ:初回は4か月以内、以後は2か月ごと

申請は、事業主(会社)を経由してハローワークへ行うのが一般的です(本人が直接行うこともできます)。周期がつかめれば、あとは同じことの繰り返しです。

タイミング出すもの期限の目安
初回六十歳到達時等賃金証明書高年齢雇用継続給付支給申請書最初の支給対象月の初日から起算して4か月以内
2回目以降高年齢雇用継続給付支給申請書(2か月分をまとめて)ハローワークが指定する支給申請月(原則2か月ごと)

事業主が本人に代わって申請する場合、支給申請の内容について本人の同意(申請書への署名または同意書の保管)が必要になります。様式や運用は改定されることがあるので、初回の前に管轄のハローワークに一度確認しておくと安心です。

もう一つの給付:高年齢再就職給付金

高年齢雇用継続給付には、高年齢再就職給付金というもう一つの顔があります。こちらは「いったん離職して、失業給付(基本手当)を受けたあとに再就職した人」向けです。

中途で60歳以上の方を採用したときに関わってくる給付です。「前職を辞めて失業給付をもらっていた」と聞いたら、この選択肢を思い出してあげると親切です。

年金との関係:受け取ると在職老齢年金が一部止まる

もう一つ、本人から聞かれやすいのが年金との関係です。老齢厚生年金を受けながら働いている人が高年齢雇用継続給付を受けると、在職老齢年金が、標準報酬月額に応じた割合だけ支給停止されます。

この停止の割合も、2025年4月からの給付率の引下げに合わせて縮小されました(従来は標準報酬月額の最大6%、2025年4月1日以降に60歳に達する人は最大4%)。給付が減った分、年金の止まる幅も小さくなる、という関係です。

会社としては、正確な計算まで抱え込む必要はありません。「給付を受けると年金が少し調整されることがある」と一言添えて、詳しくは年金事務所で確認してもらえば十分です。ここで古い割合や金額を断定しないことが、いちばんの親切になります。

影響:知っているかどうかで、本人の手取りが変わる

小さな確認の積み重ねですが、抜けるとそのまま本人の不利益になります。

逆に言えば、対象者リストと、申請月のカレンダー印——この2つを用意しておくだけで、ほとんどの取りこぼしは防げます。制度を暗記する必要はありません。思い出す仕組みさえあれば十分です。

明日やること(まずはここだけ)

一度に全部そろえなくて大丈夫です。今日できる小さな準備から始めましょう。

  1. 60歳以上65歳未満の社員を書き出す:氏名・生年月日・60歳に達した日・現在の月給を一覧にする。60歳に達した日は、支給率の上限(15%か10%か)を分ける大事な情報です。
  2. 賃金が下がった人に印をつける:60歳前後で給与が変わった人がいれば、下がった後の月給 ÷ 60歳到達時の賃金月額をざっと計算し、75%を下回っていないか確かめる。
  3. 申請月をカレンダーに書き込む:すでに受給中の人がいれば、ハローワークから届いた通知の支給申請月をカレンダーに転記し、賃金台帳・出勤簿のコピーをまとめる場所を1か所決める。

この3つだけで、「気づかないまま過ぎてしまう」がぐっと減ります。

チェックリスト(現場で回る最低ラインつき)

「まずはこれだけ」で進められる最低ラインと、できればやる追加確認を並べました。状況に合わせて使い分けてください。

よければ、こちらも

この給付は、定年後の再雇用の実務と地続きです。契約の結び直しから社会保険まで通しで見たい方は「定年後の再雇用(継続雇用)の進め方」、賃金が下がったときの保険料の見直しは「標準報酬月額の決まり方」、その先の年齢で起きる切替は「70歳・75歳で変わる社会保険」で整理しています。雇用保険そのものの入り口は「雇用保険の資格取得届」、1年の提出物を見渡したいときは「ひとり労務の年間スケジュール」もどうぞ(記事一覧)。印刷して使えるチェックリストはツール一覧にまとめています。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、日々の手続きの備えに役立ててください。

高年齢雇用継続給付の対象者リストと申請月のメモを整え、取りこぼしのない段取りができて穏やかにほほえむひとり労務担当者
対象者リストと申請月のカレンダー印。この2つがあれば、もう取りこぼしません

高年齢雇用継続給付は、名前が長くて身構えてしまいますが、見るところは「年齢」「加入期間」「賃金が75%未満に下がったか」の3つだけです。あとは、初回4か月・以後2か月ごとという周期に乗ってしまえば、毎回同じ作業になります。長く働いてくれる人が、給与が下がっても少しでも安心して続けられる——その支えを届けられるのは、名簿と賃金台帳を見ているあなたです。今日は対象になりそうな人を書き出すところまでで十分。一つずつ、落ち着いて進めていきましょう。


本記事は一般的な実務情報です。高年齢雇用継続給付の取扱いは、個別の事情や法改正によって変わります。支給要件・支給率・賃金月額の上限下限・支給限度額・在職老齢年金との調整など最新の要件は、ハローワーク(厚生労働省)・日本年金機構等の公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は、社会保険労務士・所轄のハローワーク/年金事務所など最新の公式情報でご確認ください。

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