従業員名簿と有給の管理表を机に広げ、入社日ごとにバラバラな付与日を一つにそろえられないか考えている中小企業のひとり労務担当者

年次有給休暇の基準日を統一する手順|前倒し付与と年5日の数え方

「この人は11月、この人は2月、この人は…」。 有給の管理表を開くたびに、人ごとに違う付与日を目で追いかけて、そのたびに少し疲れる。入社日がバラバラなのだから当たり前なのですが、人数が増えるほど、この「追いかける作業」だけが静かに重くなっていきますよね。付与もれが怖くて、月初に毎回確認している方も多いと思います。

先にお伝えしたいのは、この負担は基準日を全社で1つにそろえることで、かなり軽くできるということです。法律も、一定の条件を満たせばこのやり方を認めています。ただ「そろえる」といっても、動かせる向きは一方通行で、年5日の取得義務の数え方も少し変わります。この記事では、その条件と手順を、ひとり労務の目線で一つずつ整理していきます。

結論:有給の付与日(基準日)は、法律上は「入社から6か月後、その後は1年ごと」と人ごとに決まりますが、全社で同じ日にそろえる「斉一的取扱い」が認められています(平成6年1月4日 基発第1号)。条件は2つだけで、①付与日を法定の日より「前」に動かすこと(後ろにずらすのは不可)②前倒しで短くなった期間は、出勤したものとみなして8割要件を判定することです。付与日数を法定より減らすことはできません。あわせて、前倒しで年5日義務の1年間(履行期間)が重なる場合は、通算した月数で按分して数えられます。

進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。

  1. いまの全員の基準日を一覧にする
  2. 統一日(例:4月1日)を決める
  3. 入社1年目の扱いを「法定どおり」か「入社日に前倒し」かで決める
  4. 就業規則に基準日のルールを書いて、届出・周知をする
  5. 年5日義務の履行期間が重なる人だけ、数え方を確認する

何が起きているか:基準日が「人ごとにバラバラ」なのは法律どおりの姿

年次有給休暇は、入社から6か月間続けて働き、その間の8割以上出勤した人に10日が与えられ、その後は1年ごとに勤続年数に応じた日数が与えられます(労働基準法第39条)。この「与えられる日」が基準日です。

勤続年数6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月〜
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

つまり、入社日が人によって違えば、基準日も人によって違うのが法律どおりの正しい姿です。管理表がバラバラなのは、あなたの整理が悪いからではありません。

ただ、実務としてはこれがなかなか大変です。

そこで行政通達は、会社の事務処理の便宜のために、基準日を統一する取扱い(斉一的取扱い)を認めています。「法律に反する裏技」ではなく、正面から認められた整理のしかたです。

用語のメモ斉一的取扱いとは、人ごとに違う基準日を、全社で同じ日(統一日)にそろえて運用することです。そろえるためには、法定の付与日より早く付与する=前倒し付与が必要になります。

動かせるのは「前」だけ:統一のいちばん大事な原則

入社から法定の付与日までの時間の流れの上で、統一日を法定の付与日より前に置くことを示した概念図
統一日は、法定の付与日より「前」に置くのが原則。後ろにずらすことはできません

基準日をそろえるときに、最初に覚えておきたいのがこれです。

有給を受け取る権利は、法定日が来た時点で本人に発生します。だから、そこから遅らせることはできません。「4月1日にそろえたいから、11月入社の人は来年4月まで待ってもらう」——これはできない、ということです。逆に、早く渡す分には本人が得をするので問題ありません。

統一とは、実質的に「全員を少しずつ前倒しする」ことだと考えると、判断がぶれなくなります。

そして、前倒しには2つの約束があります。

約束1:翌年以降も、同じかそれ以上前倒しする

初年度だけ前倒しして、翌年から法定どおりに戻す、ということはできません。初年度に前倒しした期間と同じか、それ以上の期間を、翌年以降も前倒しし続ける必要があります。

これは難しく聞こえますが、「毎年同じ統一日に付与する」という運用にしていれば、自然に満たされます。統一日は毎年同じ日に来るので、前倒しの幅がだんだん縮んでいく、ということが起きないためです。

約束2:短くなった期間は「出勤したものとみなす」

前倒しすると、その年の勤務期間が法定の6か月や1年より短くなります。このとき、8割出勤の要件は短縮された期間を全部出勤したものとみなして判定します。

たとえば、本来は12か月で8割を見るところを10か月で判定する場合、残りの2か月は出勤扱いで数える、ということです。「勤務期間が短いから8割に届かない」という不利を、本人に負わせない、という考え方です。

もう一つ、当然のことですが付与日数を法定より減らすことはできません。統一によって「11日もらえるはずの人が10日になる」といった調整は不可です。前倒しで勤続年数の刻みも早く来る、と押さえておいてください。

方式を選ぶ:入社1年目をどう扱うか

統一日を決めたあと、迷いやすいのが入社1年目の付与です。ここが決まれば、あとは毎年統一日に付与するだけになります。選択肢は、実務上ほぼ次の2つです。

方式A:1年目は法定どおり方式B:入社日に前倒し
1年目の付与入社から6か月後(人ごとに違う日)入社日に10日
2年目以降統一日にそろう統一日にそろう
会社の負担軽い重い(有給が半年早く発生する)
管理のしやすさ1年目だけ個別管理が残る入社時に付与して終わりで分かりやすい
向いている会社中途入社がそれなりにある会社入社時から休みを取りやすくしたい会社

どちらも認められた運用です。まず方式Aから始めて、余裕が出たら方式Bへという順番が、ひとり労務には現実的だと思います。方式Aでも、2年目以降がそろうだけで、毎月の確認はぐっと楽になります。

「入社後、最初に来る統一日」に付与できるかの見分け方

方式Aを選ぶとき、人によっては「入社1年目から統一日に間に合う」ことがあります。見分け方はシンプルです。

入社後に最初に来る統一日が、法定日(入社から6か月後)より前か同じなら、その統一日に付与できます。後ろになるなら、法定日までに付与しなければなりません。

統一日を4月1日にした場合の例を並べてみます。

入社日法定日(入社6か月後)1年目の付与日前倒しの幅
2026年10月1日2027年4月1日2027年4月1日(統一日でぴったり)なし
2027年1月10日2027年7月10日2027年4月1日(統一日で間に合う)約3か月
2026年4月2日2026年10月2日2026年10月2日(法定日に付与)※方式Aなし
2026年7月1日2027年1月1日2027年1月1日(法定日に付与)※方式Aなし

下2つの人は、次の4月1日が法定日より後ろに来てしまうので、統一日を待つことはできません。1年目は法定日に付与し、2年目から4月1日にそろえる——これが方式Aの姿です。方式Bなら、この2人にも入社日に10日を付与して、翌年から4月1日にそろえます。

年5日の取得義務:履行期間が重なったときの数え方

前倒しをすると、もう一つ確認したいことが出てきます。年5日の取得義務の1年間(履行期間)が重なる現象です。

年5日の取得義務は「基準日から1年以内に5日」というルールなので、基準日が前倒しで近づくと、前の年の1年間と次の年の1年間が重なってしまうのです。

具体例で見てみます。

このとき、①と②をそれぞれ律儀に5日ずつ数えてもかまいませんが、重なりを通算した期間で按分して数える方法も認められています。

計算式は「重なりを通算した月数 ÷ 12 × 5日」です。半日単位の管理をしていない会社では、端数を切り上げて8日と見ておくと、数え違いの心配がありません。

なお、この按分は「そうしてもよい」という取扱いであって、義務ではありません。管理が混乱しそうなら、①で5日・②で5日と別々に数えるほうが安全です。多く取らせる分には問題ないので、迷ったら分けて数えてください。年5日義務そのものの考え方は「有給休暇の付与日数と年5日取得義務の管理」で整理しています。

就業規則と管理簿を整える

休暇に関することは就業規則の絶対的必要記載事項なので、基準日のルールは就業規則に書いて、労基署への届出と社内への周知まで行います(常時10人以上の事業場)。書く内容は、次の3つがそろっていれば十分です。

  1. 統一日はいつか(例:毎年4月1日)
  2. 入社1年目はどう付与するか(方式Aか方式Bか。判定のしかたも書く)
  3. 8割出勤の判定方法(前倒しで短くなった期間は出勤したものとみなす旨)

条文の骨組みにすると、こんなイメージです。

第○条(年次有給休暇)
1. 年次有給休暇の付与日(基準日)は、毎年4月1日とする。
2. 入社後最初の付与は、入社の日から6か月を経過する日までに行うものとし、その日以前に4月1日が到来する場合は、当該4月1日に付与する。
3. 前項により付与日を繰り上げた場合、労働基準法第39条の出勤率の算定にあたっては、繰り上げにより短縮された期間は出勤したものとみなす。

そのうえで、年次有給休暇管理簿(基準日・付与日数・取得した時季)を作り、3年間保存します。基準日がそろうと、この管理簿が一気に作りやすくなります。全員が同じ期間で並ぶので、1枚の表で見渡せるようになるからです。

就業規則を変えるときの手続きは「就業規則を変更したときの届出と周知の手順」に沿って進めれば大丈夫です。前倒しは労働者に有利な変更なので、不利益変更の論点にはなりません。意見書をもらう過半数代表者の選び方だけ、いつもどおり丁寧に進めてください。

影響:そろえると軽くなるもの、増えるもの

基準日の統一は「管理が楽になる」だけの話ではありません。増えるものもあるので、両方見てから決めると納得して進められます。

軽くなるもの

増えるもの

気をつけたいこと

どれも、「前だけ・毎年同じ日・日数は減らさない」の3つを守れば避けられます。

具体例:4月1日に統一するまでの流れ

社員8名の会社で、方式Aで4月1日に統一する場合の進め方です。

  1. 一覧を作る:8名分の「入社日・現在の基準日・現在の残日数」を1枚の表にする
  2. 統一日を決める:年度と合わせて4月1日にする(給与や人事評価の区切りと合わせると運用しやすい)
  3. 1年目の扱いを決める:入社6か月後の法定日までに付与し、2年目から4月1日にそろえる
  4. 移行表を作る:8名それぞれについて「次の付与日」と「その次(統一後)の付与日」を書き出す
  5. 重なる人を印す:履行期間が重なる人だけ、通算月数と必要日数を計算してメモしておく
  6. 就業規則を直す:基準日の条文を差し替え、意見書を添えて届け出て、全員に周知する
  7. 管理簿を差し替える:新しい基準日で管理簿を作り直す

この7ステップで、次の年度から管理表が1枚にまとまります。8名なら、表を作るところまで半日もかからないはずです。

明日やること(まずはここだけ)

今日いきなり制度を変えなくて大丈夫です。判断材料を集めるところから始めましょう。

  1. 現在の基準日を一覧にする:全員分の「入社日」と「いまの基準日」を並べる。バラつき具合が見えるだけで、そろえる価値があるかどうかが判断できます。
  2. 統一日の候補を1つ決めてみる:4月1日、10月1日、または創立記念日など。年度や給与計算の区切りと合う日が扱いやすいです。
  3. 前倒し幅を数える:候補日にそろえた場合、一人あたり何か月早まるかをざっと出す。会社の負担感がつかめます。

この3つだけで、社長に説明する材料がそろいます。

チェックリスト(コピーして使えます)

基準日を統一するときに確認したい項目です。

よければ、こちらも

そろえた基準日をどう回していくかは、年5日の取得義務とセットで考えると見通しが立ちます(有給休暇の付与日数と年5日取得義務の管理)。取得を会社から進めたいときは、計画的付与という道具もあります(有給の計画的付与と時季変更権の使い方)。パート・短時間の人がいる会社では、比例付与の日数も基準日と一緒に管理することになります(パート・短時間労働者への有給の比例付与)。使い切れなかった分の扱いは、繰越と時効の考え方から整理してみてください(有給休暇の繰越・時効・買取の考え方)。1年の提出物や期限を見渡したいときは、年間スケジュールもどうぞ(ひとり労務の年間スケジュール記事一覧)。

人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、有給まわりの整理に役立ててください。

有給の基準日をそろえ終えて、全員が1枚に並んだ管理表を前に肩の力が抜けて穏やかにほほえんでいる中小企業のひとり労務担当者

有給の管理は、真面目な人ほど「毎月ちゃんと見なきゃ」と自分に負荷をかけがちです。人ごとにバラバラな日付を追いかけて、それでも付与もれが怖い。その緊張感を、ずっと一人で抱えてきたのだと思います。

基準日をそろえるというのは、その緊張感を仕組みのほうに預ける作業です。「前だけ・毎年同じ日・日数は減らさない」——覚えておくのは、この3つだけで大丈夫です。

まずは今日、名簿を開いて入社日と基準日を並べてみるところから。並べてみて「思ったよりバラバラだな」と感じたなら、それはもう、そろえる価値があるという答えです。急がなくて大丈夫。来年度の4月1日に間に合えば十分ですし、そこに向けて動き出したあなたの職場は、もう少しだけ働きやすくなります。


本記事は一般的な実務情報です。基準日の統一(斉一的取扱い)の具体的な設計や、年5日の取得義務の数え方は、就業規則の定めや従業員ごとの入社時期によって適切な形が変わります。実際に制度を変更するにあたっては、社会保険労務士や所轄の労働基準監督署の最新の案内を確認のうえ、必要に応じてご相談ください。

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