
年末調整の電子化(年調ソフト)のはじめ方|ひとり労務の第一歩
「今年こそ、年末調整の紙のやり取りを少し減らせないかな」。秋が近づくと、去年の山のような申告書と控除証明書を思い出して、そんな気持ちになりませんか。従業員に用紙を配って、書いてもらって、控除証明書のはがきと一緒に回収して、記入漏れを一枚ずつ確認して——一人で全部を手作業で回していると、それだけで何日分かの時間が溶けていきますよね。
年末調整には、この紙のやり取りをデータに置き換える「電子化」という進め方があります。国税庁が無料の「年調ソフト」を用意していて、従業員が自分で申告書をデータ作成し、会社はそれを受け取って給与システムで計算する、という流れです。とはいえ、「なんだか難しそう」「準備が大変そう」と身構えてしまうのも自然なこと。この記事では、いきなり全部を電子化しようとせず、まず全体像をつかんで、小さく始めるための順番を一緒に整理していきます。
結論:年末調整の電子化とは、これまで紙でやり取りしていた控除申告書の作成・提出・控除証明書の確認を、データで行えるようにすることです。中心になるのが国税庁の無料ソフト「年調ソフト」。従業員がパソコンやスマホで申告書を作り、生命保険料などの控除証明書は電子データで取り込むと控除額が自動計算され、そのデータを会社に提出します。会社側はそれを給与システムに取り込んで年税額を計算します。2021年10月以降は、従業員から電子データで受け取るための税務署長への事前承認も不要になりました。まずは「今年は何人か・どの書類から試すか」を決めるだけでも、電子化の第一歩になります。
進めるときは、次の順番だと迷いにくくなります。
- 自社の給与ソフトが年末調整データの取り込みに対応しているかを確認する
- 国税庁の「年末調整手続の電子化」ページで、年調ソフトの概要と最新の手引きを見る
- まずは一部の従業員・一部の控除だけなど、小さく試す範囲を決める
- 従業員向けに「どうやって作成して提出するか」の案内を用意する
何が起きているか:紙の年末調整を「データ」に置き換える動き

年末調整では、毎年たくさんの紙が動きます。扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等の申告書、保険料控除申告書。それに、生命保険や地震保険、iDeCoなどの控除証明書が本人あてに届き、申告書に添えて提出してもらう——これが従来の紙のやり方です。
電子化は、この一連のやり取りをデータに置き換えます。中心になるのが、国税庁が無料で提供している「年調ソフト(年末調整控除申告書作成用ソフトウェア)」です。従業員はパソコンやスマホでこのソフトを使い、画面の案内にそって扶養や保険料などの情報を入力していきます。
ポイントは、控除証明書を電子データで取り込めることです。保険会社などが発行する電子的な控除証明書のデータや、マイナポータル連携で取得したデータを読み込ませると、控除額がソフト側で自動計算されます。従業員が金額を手計算する必要が減り、会社側も「証明書のはがきを見ながら金額を検算する」手間を減らせます。作成された申告書データは、電子データのまま会社に提出してもらいます。
つまり電子化とは、「書いてもらう・集める・確認する」を、できる範囲でデータに寄せていく取り組みだと考えると分かりやすいです。全部を一度に切り替えなくても、できるところから寄せていけば大丈夫です。
具体例:会社側・従業員側で必要な準備を分けて見る
「電子化=難しそう」と感じるのは、会社の準備と従業員の準備が混ざって見えるからかもしれません。会社側と従業員側に分けると、やることがすっきりします。
会社側の準備
- 給与ソフトの対応を確認する:年末調整のデータ(従業員が年調ソフト等で作った申告書データ)を取り込める給与・年末調整システムかを確認します。ここが対応していないと、受け取ったデータを活かしにくくなります。
- 税務署への事前承認は原則不要:従業員から控除申告書を電子データで受け取ること自体は、2021年10月以降、税務署長の事前承認が不要になりました。以前必要だった承認申請の手続きは、今は気にしなくて大丈夫です。
- 従業員への案内を用意する:どのソフトで作成し、どんな形式(データ・QRコード・印刷など)で提出してほしいかを、分かりやすく伝える文面を準備します。
従業員側の準備
- 年調ソフトを使える環境:パソコンやスマホで国税庁の年調ソフトを使えるようにします。
- 控除証明書を電子データで取得:マイナポータル連携を使う場合は、マイナンバーカードと連携の初期設定が要ります。連携を使わない場合でも、保険会社が発行する電子的な控除証明書データを使えることがあります。
- 難しければ従来どおりでもよい:全員がいきなりマイナポータル連携までできるとは限りません。電子化できる人はデータで、難しい人は今までどおり紙で、という混在からでも十分始められます。
このように分けると、「まず会社の給与ソフトが対応しているかを見て、対応していれば案内を用意する」という会社側の一歩が最初だと見えてきます。従業員全員の環境が整うのを待つ必要はありません。
影響:小さく始めると、無理なく定着する
年末調整の電子化でひとり労務がつまずきやすいのは、「初年度から全員・全書類を一気に電子化しようとして、かえって問い合わせ対応に追われる」というパターンです。
新しいやり方は、案内しても最初は必ず「どこを押すの」「証明書が取り込めない」といった質問が出ます。一人で対応しながら、紙の分も並行して処理していると、電子化したのに前より忙しくなった、という本末転倒も起こりがちです。
- 初年度から全員に強制すると → 問い合わせが集中し、一人で捌ききれない
- 給与ソフトの対応を確認せずに始めると → 受け取ったデータを活かせず、結局手入力になる
- 従業員の環境(マイナポータル連携など)を前提にしすぎると → できない人が置き去りになり、不公平感が出る
逆にいえば、「今年は希望者だけ」「まずは保険料控除の証明書だけデータで」のように範囲を絞れば、問い合わせも一度に来ず、翌年に向けて手応えと課題を確認できます。電子化は一度きりの切り替えではなく、年ごとに少しずつ範囲を広げていく取り組みと捉えると、無理なく定着します。今年うまくいった部分を来年に広げる、それで十分です。
明日やること(まずはここだけ)
全部を今年で電子化しようとしなくて大丈夫です。今日できる小さな一歩から始めましょう。
- 給与ソフトの対応を確認する:今使っている給与・年末調整ソフトが、年末調整データの取り込みに対応しているかを調べる(メーカーのサイトやヘルプで確認できます)。
- 国税庁のページを一度見る:「年末調整手続の電子化」のページで、年調ソフトの概要と、その年分の最新の手引きに目を通す。
- 試す範囲を決める:いきなり全員ではなく、「今年は希望者だけ」「保険料控除の証明書だけデータで」など、小さく試す範囲を一つ決める。
この3つだけでも、電子化の「準備」が動き出します。案内文の作成や従業員への周知は、範囲が決まってから順番に進めれば十分です。
チェックリスト(コピーして使えます)
年末調整の電子化を無理なく始めるための確認項目です。
- 自社の給与・年末調整ソフトがデータ取り込みに対応しているか確認したか
- 国税庁「年末調整手続の電子化」ページで最新の手引きを見たか
- 年調ソフトの入手方法(無料)と対応環境を把握したか
- 今年電子化する範囲(対象者・対象の控除)を決めたか
- 従業員への提出方法(データ・QRコード・印刷など)を決めたか
- 従業員向けの案内文(作成手順・提出期限)を用意したか
- マイナポータル連携が難しい人向けに、従来の紙の方法も残したか
- 電子データで受け取る場合の事前承認は原則不要と確認したか
- 今年の結果を来年に広げるための気づきをメモする準備をしたか
よければ、こちらも
電子化の前に、まず年末調整そのものの流れを見直したいときは「年末調整の全体の流れと必要書類|ひとり労務の準備チェックリスト」が土台になります。集める書類の中身を確認したいときは「社会保険料・雇用保険料の控除額の求め方」や、1年の提出物全体を見渡す「ひとり労務の年間スケジュール&提出物チェックリスト」もあわせてどうぞ(記事一覧)。 人事・労務の実務のヒントは、メールでも受け取れます。よければ登録して、年末調整の段取りづくりに役立ててください。

年末調整の電子化は、「今年から全部データにしなければいけない」ものではありません。紙とデータが混ざっていても大丈夫。まずは給与ソフトの対応を一つ確認し、今年試す範囲を一つ決める。それだけで、来年のあなたは今年より少し楽になっています。毎年めぐってくる仕事だからこそ、少しずつ寄せていけば、負担はちゃんと軽くなっていきます。一度に全部を背負い込まなくて大丈夫。今日の小さな確認が、その第一歩です。
本記事は一般的な実務情報です。年末調整の電子化の手続き・年調ソフトの仕様・必要な準備は、税制改正やソフトの更新によって変わります。その年分の具体的な取扱いは、国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について」など公式情報でご確認のうえ、最終的な判断は税理士・所轄の税務署など最新の公式情報でご確認ください。