
身元保証書の極度額の書き方|有効期間と会社の通知義務を整理
「身元保証書、うちも一応もらってるんですけど……この紙、いつから使ってるんでしょうね」。
入社手続きの書類を並べていて、ふとそう思う瞬間があります。前任者から引き継いだフォルダの中に、少し文字の細い、どこか古めかしい用紙が1枚。何年も同じものをコピーして使ってきたけれど、中身をちゃんと読んだことは、実はない。忙しい入社シーズンに、あの1枚だけを立ち止まって点検する時間は、なかなか取れないものです。
そのまま使い続けている会社は、本当にたくさんあります。責められる話ではまったくありません。ただ、2020年(令和2年)4月1日から、身元保証書には「いくらまで」という上限額を書くことが必要になりました。ここだけ直せば、あとは今までどおりで大丈夫です。用紙を1枚ずつ点検する順番で、一緒に見ていきましょう。
結論:2020年4月1日以降に結ぶ身元保証契約は、極度額(保証の上限額)を書面で定めないと効力が生じません(民法465条の2)。極度額は「金○○円」のように確定した金額で書きます。有効期間は、期間を定めなければ3年、定める場合でも上限は5年。自動更新の条項は使えません。あわせて、会社側にも身元保証人へ知らせる義務(身元保証法3条)があります。まずは、いま使っている用紙に極度額の記載があるかを見るところからで十分です。
点検の順番は、この3つだけで足ります。
- いまの用紙に極度額(上限額)が書いてあるか
- 期間の定めがあるか、その年数は5年以内か
- 古い書式なら、新しい用紙に差し替えて、次回の入社から使うか
何が起きているか:身元保証書は「個人根保証契約」になった
まず、なぜ上限額の話が出てきたのかを、ひとことで。
2020年4月1日に施行された改正民法で、個人が保証人になる「根保証契約」には、極度額を定めなければ効力が生じないというルールが入りました(民法465条の2第2項)。根保証というのは、「これから先に発生するかもしれない、金額の決まっていない債務」をまとめて保証する契約のことです。
身元保証書は、まさにこれに当てはまります。「この人が会社に損害を与えたら、身元保証人が賠償します」という約束は、入社の時点では中身も金額も決まっていない債務を保証するもの。しかも保証人は個人です。だから、個人根保証契約として極度額のルールが適用されます。
つまり、上限額の欄がない身元保証書は、いま新しくもらっても効力を生じません。せっかく署名と押印をお願いしても、いざというときに使えない紙になってしまう——ここが、いちばんもったいないところです。
もうひとつ、あわせて押さえておきたい点があります。保証契約は、書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。ただし、内容を記録した電磁的記録によるものは書面とみなされます(同条3項)。入社手続きの電子化を進めている会社でも、電子ファイルで受け取ること自体は問題ありません。口頭の約束や、メール本文でのやりとりだけ、という形にしないことがポイントです。
前に取った分まで、あわてて集め直さなくて大丈夫:極度額のルールが適用されるのは、2020年4月1日以降に締結した契約からです。それより前に取った身元保証書は、当時のルールで判断されます。すでに在籍している人の分を、いまから全部もらい直す必要はありません。次に入る人からきちんと整った用紙を使う、という進め方で十分です。

具体例:極度額は「金○○円」と、確定した金額で書く
いちばん迷うのが、金額をいくらにするか、です。ここは、法律に決まった目安はありません。会社が自由に決められます。だからこそ、決め方の考え方だけ持っておくと楽になります。
書き方には、ひとつだけ守りたい形があります。
- 「金300万円」のように、確定した金額で書く
- 「給与の6か月分」「相当額」といった書き方は避ける——金額が確定していないため、極度額を定めたことにならないおそれがあります
- 保証人が複数いる場合も、それぞれの用紙に極度額を書く
金額の水準は、会社の規模や、その人が扱う金銭・情報の大きさで考えます。現金や在庫を直接扱う仕事なのか、そうでないのか。ひとり労務の現場感覚で言えば、月給の数か月分あたりを起点に、社内で説明できる根拠を持って決めている会社が多い印象です。大切なのは金額そのものより、「なぜこの額にしたか」を説明できることです。
上限額=必ず取れる額、ではありません:ここは誤解しやすいところなので、先にお伝えしておきます。身元保証法5条では、裁判所が賠償責任の有無や金額を決めるとき、会社側の監督に落ち度がなかったか、保証人がどういう事情で保証を引き受けたか、本人の任務や身上の変化など、一切の事情を考慮すると定めています。実際の裁判では、極度額の満額が認められることは多くありません。身元保証書は「取り立てるための紙」というより、採用にあたって本人と家族に節目をつくる紙、と考えるほうが実態に近いです。
高すぎる金額を書くと、保証人になってくれる人が見つからず、入社そのものが止まってしまうこともあります。あとから回収するための保険と考えるより、お互いが納得して署名できる額に落ち着かせるほうが、現場は動きやすくなります。
有効期間は、3年と5年の2つだけ覚える
期間についても、覚えることは多くありません。身元保証ニ関スル法律(身元保証法)が、次のように決めています。
| ケース | 有効期間 |
|---|---|
| 期間を定めていない | 3年 |
| 期間を定めていない(商工業見習者の場合) | 5年 |
| 期間を定めた(5年以内) | 定めた期間のとおり |
| 期間を定めた(5年を超える年数を書いた) | 5年に短縮される |
| 更新した | 更新のときから、最長5年 |
ポイントは3つです。
1. 何も書かなければ3年で切れる。 期間の記載がない用紙をずっと保管していても、効力は3年で終わります。「入社時にもらってあるから安心」と思っていた紙が、実はとっくに期限切れだった、というのはよくあることです。
2. 5年を超える定めは置けない。 「在職中ずっと」「期間の定めなし(無期限)」といった書き方をしても、そのとおりにはなりません。
3. 自動更新の条項は使えない。 「期間満了の1か月前までに申出がなければ、同一条件で更新されたものとみなす」——古い書式には、この一文が残っていることがあります。身元保証法6条は、この法律の規定に反する特約で身元保証人に不利なものは、すべて無効と定めています。自動更新条項は、保証人が知らないうちに責任が続くことになるため、無効と考えられています。更新するなら、期間が切れる前に、あらためて署名をもらうのが本来の形です。
実務としては、「更新のたびに頼むのは気が重い」という声もよく聞きます。その場合は、無理に更新しないという選択もあります。身元保証書の取得自体、法律上の義務ではありません。入社時に一度もらって、期間が来たら終わり、という運用でも、まったく問題はないのです。
期限管理は、入社日の一覧に1列足すだけ:更新するかどうかにかかわらず、いつ切れるかは分かるようにしておくと安心です。従業員名簿や入社日の一覧に「身元保証の期限」という列を1つ足して、入社日+3年(または定めた年数)を入れる。これだけで、期限管理は終わります。ほかの提出物とまとめて見渡したいときは「入社手続きの必要書類と集める順番」もあわせてどうぞ。
見落とされやすい、会社側の通知義務
身元保証書というと「保証人にお願いする側」の話に見えますが、実は会社側にも義務があります。ここは、古い書式を使い続けている会社ほど知られていない部分です。
身元保証法3条は、次の場合に、会社は遅滞なく身元保証人へ通知しなければならないと定めています。
- 本人に業務上不適任または不誠実な事跡があり、そのために身元保証人の責任が生じるおそれがあると知ったとき
- 本人の任務または任地を変更し、そのために身元保証人の責任が重くなる、または監督が難しくなるとき
そして、通知を受けた身元保証人(あるいは自分でその事実を知った身元保証人)は、将来に向かって契約を解除できます(同法4条)。
これは、会社にとって不利なルールに見えるかもしれません。でも、見方を変えると、トラブルが小さいうちに家族へ共有する筋道が用意されている、ということでもあります。金銭の扱いで気になることがあった、遠方の拠点へ異動して目が届きにくくなった——そういう節目に一報を入れておくと、あとから「聞いていなかった」と言われずに済みます。
なお、この通知を怠ったまま、あとになって全額の賠償を求めても、先ほどの5条で「会社側の監督の落ち度」として考慮されます。通知は、保証を生かすための手続きでもある、ということです。
身元保証人が亡くなったら
もうひとつ、よく質問が出るところです。身元保証人が亡くなった場合、身元保証人としての地位そのものは、原則として相続されません。判例上、身元保証契約は保証人その人への信頼に基づく一身専属的なものと考えられているためです。
ただし、亡くなる前にすでに具体的に発生していた賠償債務は、通常の債務として相続の対象になります。「地位は引き継がれないが、発生済みの金額は残る」——この線引きだけ覚えておけば十分です。
用紙そのものも、いまの基準で見直す
極度額と期間を直すついでに、用紙の欄そのものも見ておきたいところがあります。古い身元保証書の書式には、いまの採用実務では取らないほうがよい項目が残っていることがあるためです。
厚生労働省が示す公正な採用選考の考え方では、本籍・出生地、家族の職業や収入・資産、住宅状況、思想信条などを把握することは、就職差別につながるおそれがあるとされています。身元保証書の様式に、次のような欄が残っていないか見てみてください。
- 本籍地の記入欄
- 身元保証人の職業・勤務先・年収を細かく書かせる欄
- 家族構成や資産の状況を書かせる欄
- 戸籍謄本や住民票の添付を求める文言
身元保証人に必要なのは、契約の相手として特定できる情報です。氏名・住所・生年月日・本人との関係、連絡先——このあたりで足ります。「支払える人かどうか確かめたい」という気持ちは分かりますが、採用選考の場面で資産や職業を細かく問うのは、いまの基準では慎重に扱うべき部分です。
集めた身元保証書は、氏名や住所を含む個人情報です。保証人は当社の従業員ではない第三者なので、扱いにはひときわ配慮が要ります。鍵のかかる場所に保管し、期間が過ぎたものは廃棄する。この流れは、マイナンバーの取扱いと同じ考え方で整えられます(「従業員のマイナンバー|取得・保管・廃棄と安全管理措置の進め方」)。
提出をどこまで求めるか:身元保証書は法律上の義務ではないため、「出さなければ採用しない」という運用にするかどうかは会社の判断になります。ただ、入社の直前になって「保証人が見つからない」と分かると、双方が困ります。求めるのであれば、内定を出す段階で、必要な書類として先に伝えておくのが親切です。入社時に渡す書類の全体像は「雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分け」と「労働条件通知書の明示事項チェックリスト」に整理しています。
明日やること(まずはここだけ)
全部を一度に整えなくて大丈夫です。今日できるのは、たぶんこの3つです。
- いま使っている身元保証書を1枚、机に出して読む:極度額の欄があるか、期間が書いてあるか、自動更新の一文が入っていないか。読むだけなら5分で終わります。
- 極度額の欄がなければ、次の入社分から使う新しい用紙を1枚だけ作る:既存の書式に「極度額 金___円」の行を足し、「自動更新」の一文を削る。この2か所の差し替えで、形は整います。
- 金額の根拠を、ひとことメモに残す:「営業職で現金を扱わないため月給3か月分相当」など、社内で説明できる一文で十分です。あとから聞かれたときに、自分が助かります。
この3つで、次に人が入るときには、ちゃんと効力のある1枚を渡せるようになります。
チェックリスト(コピーして使えます)
身元保証書を点検するときの項目です。上から順に見ていきましょう。
- 用紙に極度額(上限額)の記載欄があるか
- 極度額は「金○○円」と確定した金額で書かれているか(「給与の○か月分」になっていないか)
- 保証人が複数いる場合、それぞれの用紙に極度額を書いているか
- 有効期間の定めがあるか(なければ3年で終わることを理解しているか)
- 定めた期間が5年を超えていないか
- 自動更新の条項が残っていないか(残っていれば削除したか)
- 契約は書面(または電磁的記録)で交わしているか
- 用紙に本籍地・家族の職業や資産などを書かせる欄が残っていないか
- 戸籍謄本・住民票など、不要な添付書類を求めていないか
- 保証人の情報を鍵のかかる場所に保管し、廃棄のルールを決めているか
- 従業員名簿などに身元保証の期限の列を足したか
- 本人の不適任な事跡や、任務・任地の変更があったときに、保証人へ通知する流れを社内で共有しているか
- 極度額の金額の根拠を、社内で説明できる形でメモに残したか
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身元保証書は、入社手続きのひとコマです。前後の段取りを見渡したいときは「入社手続きの必要書類と集める順番」へ。契約書類の役割の違いは「雇用契約書と労働条件通知書の違いと使い分け」と「労働条件通知書の明示事項チェックリスト」に。入社直後の見極めについては「試用期間と本採用拒否で気をつけること」、書類の保管や廃棄の考え方は「従業員のマイナンバー|取得・保管・廃棄と安全管理措置の進め方」がお役に立ちます。万一の場面での進め方は「懲戒処分の進め方」と「労使トラブルの初動対応」に整理しました。印刷して使えるチェックリストは無料チェックリスト一覧から、ほかの記事は記事一覧からどうぞ。
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古い書式をそのまま使ってきたことは、誰のせいでもありません。身元保証書は、入社のたびに何十枚と扱う書類ではなく、しかも法改正のニュースが届きにくい、静かな場所にある1枚だからです。それでも、こうして中身を読み返した今日、あなたの会社の入社書類はひとつ確かになりました。直すのは、極度額の1行と、自動更新の1文だけ。次に新しい人を迎えるとき、その紙はちゃんと役目を果たしてくれます。
本記事は一般的な実務情報です。身元保証契約の効力・極度額の定め方・有効期間の取扱いは、契約の締結時期や個別の事情、法令の改正によって変わることがあります。個別の判断や書式の作成にあたっては、社会保険労務士・弁護士など専門家、または法務省・厚生労働省の最新の案内でご確認ください。