
就業規則の絶対的記載事項チェック|必ず書く3項目をやさしく整理
「就業規則、たしかにあるにはあるけど……これで全部そろっているのかな」。 古いひな形をそのまま使っていたり、前任者が作ったものを引き継いだだけだったり。就業規則を前にすると、何が必須で何が任意なのかがわからず、なんとなく不安になりますよね。かといって、労働基準法の条文を読み込む時間もない。監督署に持っていって「ここが抜けています」と言われたらどうしよう——そんな気持ちで、ページをめくる手が止まってしまうこともあると思います。
まずお伝えしたいのは、「必ず書かなければならない項目(絶対的記載事項)」は、実はたった3つのグループだけだということです。労働時間のこと、賃金のこと、退職のこと。この3つさえ押さえてあれば、就業規則の土台は成立します。あとの項目は「自社にその制度があるなら書く」もの(相対的記載事項)と、「書いても書かなくてもよい」もの(任意記載事項)です。全部を一度に完璧にする必要はありません。 この記事では、必ず書く3項目を具体的に確認しながら、抜けやすいポイントと、明日できる点検の手順まで、ひとり労務の目線で一緒に整理していきます。
結論:就業規則の記載事項は3種類に分かれます。必ず書く①絶対的記載事項、その制度があれば書く②相対的記載事項、自由に書ける③任意記載事項です。このうち絶対に外せないのが、絶対的記載事項の3グループ——(1)労働時間関係(始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、交替制なら就業時転換)、(2)賃金関係(決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給)、(3)退職関係(退職の事由と手続き、解雇の事由を含む)です。よく抜けるのは「昇給に関する事項」と「解雇の事由」の2つ。まずは手元の就業規則で、この3グループがそろっているかを確認するところから始めましょう。
点検は、次の順番で進めると迷いにくくなります。
- 手元の就業規則に、労働時間・賃金・退職の3グループの章があるか見る
- 各グループの中で、細かい必須項目(休憩・休日・昇給・解雇事由など)が抜けていないか確かめる
- 自社にある制度(退職金・賞与など)が、書かれているか確認する(相対的記載事項)
- 抜けが見つかったら、厚生労働省のモデル就業規則を下敷きに一文を足す
何が起きているか:記載事項には「3つのレベル」がある
就業規則に何を書くかは、労働基準法第89条で決められています。ここで大切なのは、書くべき項目が重要度によって3段階に分かれている、ということです。この違いがわかると、「何が必須で、何がそうでないか」がすっきり整理できます。
- 絶対的記載事項:どんな会社でも必ず書かなければならない項目。抜けていると、労働基準法違反になり得ます。
- 相対的記載事項:その制度を設ける場合には書かなければならない項目(例:退職金制度があるなら退職金のこと)。制度がなければ書かなくて構いません。
- 任意記載事項:法律上の義務はなく、会社が任意で書ける項目(例:経営理念、服務のルールの細かい部分など)。
多くのひな形やモデル就業規則には、これらが最初から一通り盛り込まれています。だから「ゼロから全部考える」必要はありません。問題は、古いひな形を使っていたり、部分的に削ってしまっていたりして、絶対的記載事項の一部が抜け落ちているケースです。特に、あとで説明する「昇給」と「解雇の事由」は、気づかないうちに抜けやすいポイントです。
なお、就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場で作成・届出が義務になります。人数の数え方や届出の流れは、別記事「就業規則の作成義務(常時10人以上)と届出の流れ」で詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。この記事では「中身として何を書くか」に絞ってお話しします。
具体例:必ず書く「3つのグループ」を分解する

絶対的記載事項の3グループを、それぞれ何を書くのか具体的に見ていきましょう。手元の就業規則と照らし合わせながら読んでみてください。
(1) 労働時間に関すること
- 始業・終業の時刻(例:始業9時、終業18時)
- 休憩時間(長さと与え方。例:12時〜13時の60分)
- 休日(例:土日、祝日など)
- 休暇(年次有給休暇、慶弔休暇など、与える休暇の種類)
- 交替制勤務がある場合は、就業時転換に関する事項(シフトの組み方など)
「うちはシフト制じゃないから交替制は関係ない」という場合は、その部分は不要です。あくまで該当する会社だけが書く項目です。
(2) 賃金に関すること(退職手当・臨時の賃金=賞与などを除く)
- 賃金の決定・計算の方法(月給・時給、どう計算するか)
- 賃金の支払いの方法(振込か現金かなど)
- 賃金の締切と支払いの時期(例:月末締め・翌月25日払い)
- 昇給に関する事項(昇給の有無・時期など)
ここで抜けやすいのが、いちばん最後の「昇給に関する事項」です。金額を約束する必要はなく、「昇給は毎年4月に会社の業績等を考慮して行うことがある」といった、昇給の有無や時期の定めがあれば大丈夫です。反対に、退職金や賞与は「あれば書く」相対的記載事項なので、この賃金グループとは分けて考えます。
(3) 退職に関すること(解雇の事由を含む)
- 退職の事由と手続き(自己都合退職の申出時期など。例:退職の30日前までに届け出る)
- 定年に関する定め(定年年齢、再雇用の有無など)
- 解雇の事由(どういう場合に解雇となるか)
このグループで最も見落とされやすいのが、「解雇の事由」です。「解雇なんてめったにないから」と省いてしまいがちですが、これは絶対的記載事項に含まれます。どんな場合に解雇があり得るのかをあらかじめ明記しておくことは、いざというときに会社と働く人の双方を守る、大切な備えになります。
影響:抜けていると、いざというときに根拠を失う
絶対的記載事項の抜けは、ふだんは表面化しません。でも、トラブルや手続きの場面で、じわりと効いてきます。
- 絶対的記載事項が抜けていると → 労働基準法違反となり得ます(第89条違反には罰則の定めもあります)。監督署の調査や届出の際に、是正を求められることがあります。
- 「昇給」の定めがないと → 賃金の運用ルールが曖昧になり、従業員との認識のズレが生まれやすくなります。
- 「解雇の事由」の定めがないと → いざ対応が必要になったとき、就業規則に根拠がなく、判断がぶれやすくなります。
- 相対的記載事項(退職金・賞与など)が実態とズレていると → 制度はあるのに規則に書いていない、あるいは逆に、規則にはあるのに実際は運用していない、という食い違いがトラブルの火種になります。
逆にいえば、3グループの必須項目がきちんとそろっていれば、就業規則は「使える土台」として機能します。ここは完璧な条文を一気に整えることよりも、まず必須の抜けをなくすことが先決です。
明日やること(まずはここだけ)
一度に全部を見直そうとしなくて大丈夫です。今日は、手元の就業規則を開いて、次の3つだけ確認してみましょう。
- 目次(章立て)を見て、「労働時間」「賃金」「退職」の3グループの章があるか確認する:どれか一つでも見当たらなければ、そこが最優先の補強ポイントです。
- 「昇給」と「解雇の事由」の2つが書かれているか、ピンポイントで探す:抜けやすい2項目です。なければ、モデル就業規則の該当条文をメモしておく。
- 自社にある制度(退職金・賞与・表彰や制裁など)が規則に書かれているか確認する:制度があるのに書いていなければ、相対的記載事項の抜けです。
厚生労働省が「モデル就業規則」を無料で公開しているので、抜けが見つかったら、それを下敷きに自社向けに直すのがいちばん早くて確実です。ゼロから文章を考える必要はありません。
チェックリスト:就業規則の必須項目を点検する
手元の就業規則を見ながら、丸をつけていってください。
- 始業・終業の時刻が書かれているか
- 休憩時間(長さ・与え方)が書かれているか
- 休日が書かれているか
- 休暇(年次有給休暇など)が書かれているか
- 交替制勤務がある場合、就業時転換の定めがあるか(該当する会社のみ)
- 賃金の決定・計算の方法が書かれているか
- 賃金の支払方法が書かれているか
- 賃金の締切・支払時期が書かれているか
- 昇給に関する事項が書かれているか(抜けやすい)
- 退職の事由と手続きが書かれているか
- 定年に関する定めがあるか
- 解雇の事由が書かれているか(抜けやすい)
- 自社にある制度(退職金・賞与・表彰/制裁など)が書かれているか(相対的記載事項)
すべてに丸がつかなくても、落ち込まないでください。こうして一項目ずつ点検しようとしている時点で、あなたはもう就業規則を「使える形」に近づけています。判断に迷う条文や、自社に合わせた調整が必要なところは、抱え込まずに社会保険労務士など専門家に相談すれば大丈夫です。

就業規則を点検するのは、地味で、後回しにしがちな仕事です。でも、必ず書く項目はたった3グループ。労働時間・賃金・退職——この3本の柱がそろっているかを確かめるだけで、就業規則はぐっと頼れる土台になります。今日、目次を開いて「昇給」と「解雇の事由」を探してみただけでも、あなたは会社を守る一歩を踏み出しています。一度に完璧を目指さなくて大丈夫。ひとつずつ整えていけば、それで十分です。
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