朝の事務所で、退職代行を名乗る相手からの電話を受けながら、驚きつつもあわてず状況をメモに書き留めようとしている中小企業のひとり労務担当者

退職代行から連絡が来たときの対応手順|ひとり労務の落ち着いた進め方

「おはようございます。退職代行サービスの◯◯と申します。本日付で、御社の△△さんの退職のご連絡でお電話しました」。 ある朝、聞いたことのない相手からそう切り出されると、ひとりで労務を回していると、受話器を持ったまま固まってしまいますよね。昨日まで普通に働いていた人が、今日は本人ではなく代行を通して辞めると言ってくる。しかも相手はてきぱきと話を進めてくる。引き止めていいのか、本人に電話していいのか、有給や貸与品はどうなるのか——考えることが一度に押し寄せて、頭の中が真っ白になります。社長にどう報告しようか、という不安も重なります。

まずお伝えしたいのは、その電話で、あなたがその場ですべてを決める必要はない、ということです。退職代行の連絡を受けたときにいちばん大事なのは、「相手が誰か(民間業者・労働組合・弁護士)を確かめる」「本人の退職の意思であることを確認する」「その場で結論や約束をしない」「あとは通常の退職手続きと同じ流れに乗せる」——この4つです。退職代行だからといって、特別な手続きが必要になるわけではありません。連絡の窓口が本人から代行に変わるだけで、やることの中身は、いつもの退職対応とほとんど同じです。

この記事では、退職代行から連絡が来たときに落ち着いて動くための初動を、相手の見極めから実務の進め方まで、ひとり労務の目線で一緒に整理していきます。

結論:退職代行の連絡を受けたら、軸は4つです。①相手の種別を確認する(民間業者は退職の意思を「伝える」だけ/労働組合と弁護士は有給・退職日・未払い賃金などの「交渉」までできる)。②本人の退職の意思であることを確認する(委任状・本人確認書類の提示を求めてよい。期間の定めのない雇用は、民法上は退職の申入れから2週間で終了できるのが原則で、会社が退職そのものを拒むことは基本的にできません)。③その場で「退職は認めない」「有給は無理」などの結論や約束をしない(確認して改めて回答する)。④あとは通常の退職手続き(社会保険・雇用保険の資格喪失、離職票、源泉徴収票、住民税、貸与品回収)に乗せる。本人と直接やり取りしたい気持ちが出ても、代行を通すよう求められた場合や、労働組合・弁護士が代理している場合は、原則その窓口を通してやり取りするのが安全です。感情的な引き止めや損害賠償をちらつかせる対応は避けましょう。

進め方は、次の順番だと落ち着いて動けます。

  1. まず、相手の名乗り・連絡先・種別(民間業者/労働組合/弁護士)を控える
  2. 本人の退職の意思であることを確認する(委任状・本人確認の依頼)
  3. その場では結論や約束をせず、「確認して改めてご連絡します」と伝える
  4. 退職日・有給・貸与品・書類など、通常の退職手続きの論点を洗い出す
  5. 必要に応じて、社長・顧問社労士・弁護士に共有し、窓口を決めて進める

何が起きているか:退職代行は「窓口が代わるだけ」の退職

退職代行と聞くと、何か特別なトラブルが持ち込まれたように身構えてしまうかもしれません。でも、起きていることの中心はシンプルで、「従業員が退職の意思を、自分ではなく第三者を通じて伝えてきた」——これだけです。退職そのものは、本人が持っている当然の権利です。

日本では、期間の定めのない雇用契約(正社員など)は、民法上、退職の申入れから2週間が経てば終了するのが原則とされています。就業規則で「退職は1か月前までに申し出ること」と定めている会社は多いですが、これはあくまで社内の運用ルールで、本人が辞めること自体を会社が引き止めたり、拒んだりできるわけではありません。だから、退職代行が来たからといって、「認める・認めない」で身構える場面ではないのです。

ここで、よかれと思ってやってしまいがちなのが、その場で「本人と話さないと受け付けられません」と突っぱねたり、「損害賠償を請求する」と口にしたりすることです。どちらも、確認する前の反応です。頭ごなしの拒否は相手を身構えさせ、根拠のない賠償の話は、あとで会社側が不利になりかねません。まずは、相手が誰で、本人の意思がどこにあるのかを、落ち着いて確かめる段階だと考えましょう。

つまり、退職代行への対応は、勝ち負けを決める場ではなく、冷静に退職手続きを進めるための入口を整える仕事です。ここが整えば、あとはいつもの退職対応と地続きになります。

具体例:相手の「種別」で、できることが変わる

退職代行を名乗る相手を「民間業者」「労働組合」「弁護士」の三つに分け、それぞれ会社とできることの範囲が違うことを並べて示した概念図
同じ「退職代行」でも、運営主体によって「伝えるだけ」か「交渉までできるか」が変わる

「退職代行」とひとくくりに言っても、運営している主体によって、会社に対してできることの範囲が違います。ここを最初に見分けると、そのあとのやり取りがぐっと楽になります。

相手の種別できることの範囲(会社への対応)ひとり労務としての見方
民間の代行業者本人の退職の意思を「伝える」ことはできる。有給・退職日・未払い賃金などの「交渉」はできない(弁護士法との関係)交渉を持ちかけられたら「それは本人または権限のある方と確認します」と整理してよい
労働組合(ユニオン型)団体交渉として、有給消化や退職日などの話し合いに応じられる団体交渉には誠実に対応する姿勢が求められる。回答は落ち着いて、社内で確認のうえ
弁護士本人の代理人として、交渉・請求・法的主張ができる未払い賃金など法的な論点があるときは、会社側も弁護士・社労士に相談を

見分け方はシンプルで、最初の連絡のときに「どちらの立場の方でしょうか」「本人の委任状はいただけますか」と丁寧に確認すればよいだけです。名乗りをメモし、連絡先(会社名・担当者名・電話・メール)を控えます。相手が「有給を全部消化させてほしい」「退職日はこの日で」と条件を出してきたとき、それが民間業者からの一方的な要求であれば、その場で受け入れる必要はなく、「内容は確認して、権限のある方と改めてやり取りします」と整理して構いません。

一方で、相手が労働組合や弁護士の場合は、交渉の当事者になり得ます。感情的にならず、こちらも社内で確認したうえで、事実に沿って落ち着いて応じましょう。どの種別であっても共通するのは、その電話一本ですべてを即答しないこと。「大切なお話なので、確認して改めてご連絡します」——この一言で、初動の大部分は守れます。

具体例:やり取りが済んだら、あとは「いつもの退職手続き」

相手と本人の意思を確認できたら、その先は、通常の退職とほとんど同じ流れです。窓口が本人から代行に変わるだけで、動く制度は変わりません。

こうして並べてみると、退職代行だからといって増える作業は、ほとんどありません。「相手を確かめて、本人の意思を確認したら、あとはいつもの退職手続き」——この見取り図を持っておけば、慌てずに進められます。退職手続きそのものの全体像は、別記事「退職手続きの流れ|離職票・資格喪失・源泉徴収票の段取りガイド」に時系列でまとめてあるので、あわせて手元に置いておくと安心です。

影響:初動の対応が、後の会社の立場を左右する

退職代行への初動は、その場では小さなやり取りに見えても、あとの展開に響きます。

逆に言えば、相手を確かめ、本人の意思を尊重し、通常の手続きを淡々と進める——それだけで、退職代行の対応の大半は、こじれずに収まります。難しく考えすぎないことが、いちばんの安全策です。

明日やること:退職代行の初動メモを1枚用意しておく

退職代行の連絡は、いつ来るか予測できません。だからこそ、電話を受けたときにそのまま書ける初動メモを、あらかじめ手元に用意しておくと、いざというとき落ち着いて動けます。特別な様式は不要で、社内メモやテキストで十分です。次の項目を埋めるだけの型にしておきましょう。

書くときのコツは、労使トラブルの記録と同じで、「事実」と「意見・評価」を混ぜないことです。「本人の退職の意思とのことだが、委任状は未受領」のように、確認できたこと・していないことを分けて書くと、あとで社労士や弁護士に相談するときに、そのまま使えて助かります。今日この型を1枚作っておくだけで、次に電話が鳴っても、うろたえずに受けられます。

チェックリスト:退職代行から連絡が来たら

その場で迷ったら、次のリストに立ち返ってみてください。

すべてに丸がつかなくても、落ち込まないでください。突然の連絡を受け止め、こうして順番を確認しようとしている時点で、あなたはもう、こじらせないための一歩を踏み出しています。未払い賃金の主張があるなど法的な論点が絡むときや、労働組合・弁護士が交渉に入ってきたときは、抱え込まずに顧問社労士・弁護士へ早めに相談しましょう。ひとりで背負わないことも、立派な初動のひとつです。

退職代行への初動を整理し終え、窓辺で一息つきながら、落ち着いた表情で前を向いている中小企業のひとり労務担当者
その場で全部決めなくて大丈夫。相手を確かめ、本人の意思を尊重し、いつもの手続きへ。それで十分です

退職代行からの電話は、はじめは面食らうものです。でも、あなたが最初にやることは、本人を問い詰めることでも、その場で退職を裁くことでもありません。相手が誰かを確かめて、本人の意思を尊重して、あとはいつもの退職手続きに乗せる。ただそれだけで、慌てずに、こじれずに、対応できます。退職の形は人それぞれで、代行を選ぶ背景にも、本人なりの事情があります。それを静かに受け止めて、最後の手続きを丁寧に整えて送り出す——その落ち着いた対応を支えているのは、ほかでもないあなたの一つずつの確認です。今日ここまで読んで備えようとした時点で、あなたはもう、現場を守る一歩を踏み出しています。

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